気になるお店
買い物を終えた僕はみんなにこれからの予定を聞いてみた。
するとカズチとルルは特に用事はなく、ユウキとフローラさんも今日は丸一日お休みをする予定なのだとか。
「あっ! だったらずっと行きたかった喫茶店があるんだけどそこに行きたい!」
ルルからの提案にみんなが頷き、お昼ご飯も兼ねて喫茶店へ向かうことにした。
話を聞くと最近できたばかりの喫茶店のようで、王都で流行っているデザートを独自にアレンジして出しているのだとか。
しかしお昼ご飯も兼ねているのにデザートを食べたいだなんて、さすが女の子と言うべきか。
「しかし、デザートかぁ」
「どうしたの、ジン?」
「いや、なんでもないよ」
ちょっとしたことを考えながらもルルの案内で到着したその喫茶店には長蛇の列ができていた。
パッと見ただけでも一〇人以上の人が並んでいるのだが、ルルとフローラさんは笑みを浮かべながら最後尾へと駆けていく。
その様子を見た男性陣は顔を見合わせて苦笑しながらもその後を追い掛けていく。
そして、僕は最後尾に並んでいた人物を見てやはり、と思ってしまったの同時に大丈夫なのか、という心配が頭をよぎる。
「お昼休憩ですか――リューネさん」
「ふえ? あっ、ジン君! それにみんなも!」
そう、以前にもルルおすすめの喫茶店に足を運んだ時に顔を合わせたのがリューネさんだったのだ。
別に顔を合わせるのが嫌なわけではないのでいいんだけどリューネさんがここにいるということは、役所ではシリカさんが代わりに仕事をこなしているということ。
これだけ長い列である、休憩中だったとしても時間を超過するのではないかと心配になる。
「リューネさん、時間は大丈夫なんですか?」
「顔を合わせて最初に聞くことがそれなの?」
「だって、シリカさんがかわいそうですし」
僕が本音を口にすると何故かリューネさんは自信満々な表情を浮かべている。
「ふっふふー! 実はもうほとんどの仕事を引き継ぎできているんだー!」
「引継ぎって……リューネさん、もしかしてカマドを離れるんですか?」
ユウキの言葉にその場にいた全員が驚きの表情を浮かべたのだが、そうではないようでリューネさんは顔の前で手を左右に振って否定した。
「違うわよ。ゾラ君やソニンちゃん、それにジン君が打つ作品は特殊過ぎて私がずっと一括で取り扱っていたんだけど、その仕事をシリカにも全部教えたってこと」
「でも、それっていいんですか? リューネさんの仕事って、確か国からの指示で専門窓口をやっていたんですよね?」
国からの仕事を勝手に他の人間に引き継いでしまっていいのかと心配になったのだが、どうやらその点も確認済みだったようだ。
「お偉いさんからも許可は貰ってるわ。寿命の長いハーフエルフだけど、一人は一人なんだから全部任せるな! 別の人間にも仕事を振らせろー! ってね」
ウインクをしながらどや顔で口にしているリューネさんを見て、僕以外の面々は納得顔なのだがどうしても僕は納得がいかなかった。
「でもリューネさん。僕が役所に行くたびに頬杖をついて暇そうにしてますよね。あれって忙しいんですか? 仕事を分けるのはいいと思うんですけど、シリカさんに任せすぎるのもそれはそれでダメだと思いますよ?」
やるなとは言わない。それこそブラック企業まっしぐらになってしまうからね。
だが、リューネさんが楽になることでそのしわ寄せが下の人間であるシリカさんにいってしまわないかが心配なのだ。
僕の言葉にリューネさんの視線が徐々に明後日の方向へと向いてしまう。
「……まさか、無理を言って抜けてきてませんよね?」
「……ちゃんとした休憩時間よ」
「……その時間って、過ぎてませんよね?」
「……過ぎてないわよ?」
「……あとどれくらいあるんですか?」
「……」
「……リューネさん?」
何故そこで黙るかなあ! というか、そこで黙ったら答えみたいなものなんですけど!
「あ、あと少しなのよ! お願い、今日だけは見逃してちょうだい!」
「シリカさんにはなんて言って出てきたんですか?」
「……後は任せたわ! パチリ!」
笑顔でウインクをしている姿を見て、その後のシリカさんが大声でリューネさんを呼び止めただろう光景が容易に想像できてしまう。
「……食事が終わったら、即座に役所に引き渡しますからね?」
「私は犯罪者か!」
「休憩時間を超過するんですからルールは破ってますよね!」
「……はい、ごめんなさい」
自業自得なのでそれ以上は何も言わず、僕は何かシリカさんにお土産でも買っていくかと考えながら順番を待っていたのだった。
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