雪遊びの前に

 前日のワクワクが影響したのか、今日は一の鐘と同時に目を覚ましていた。

 ガーレッドもまだ眠っており、僕は起こさないようにしてベッドを降りると窓の外へ視線を向ける。


「……おぉぉっ! 一面銀世界だな!」


 昨日の夜から降り出しただろうに、まさか翌日の朝には積もっているとは思わなかった。

 しかし、これは嬉しい誤算であり窓を開けて縁に積もった雪を触ろうとしたのだが――


「さっむいなあっ!」

「……ビビー」

「あっ、ヤバっ!」


 ガーレッドの声が聞こえると慌てて窓を閉める。


「……ピー……ピー……」

「……あ、危なかった。それにしても寒過ぎじゃないか? これじゃあ、遊べないよ」


 冷たい風が窓の外から流れ込んできたせいでガーレッドが起きそうなった。それくらい外は寒いということ。

 カズチも慣れているとはいえ寒いものは寒いとはっきり言っていたし、これは要相談になりそうだ。

 いつもよりも早く起きてしまったので魔法鞄の中の素材を確認して時間を潰していると、ベッドの上でガーレッドがもぞもぞと動き始めた。


「ということは――」


 ――カーン、カーン。


 朝の二の鐘が鳴り響き、ほぼ同時にガーレッドが瞼を擦りながら体を起こした。


「おはよう、ガーレッド。さっきは寒かったよね、ごめんね?」

「ピー……ビビ、ビギャー」


 寒かったけど大丈夫なんだって、それは大丈夫ではないと思うのは僕だけだろうか。

 とりあえずガーレッドが目を覚ましたので、覚醒するのを待ち食堂へと向かうためドアを開けた。


「……おおぉぉぉぉっ! ろ、廊下もめっちゃ冷えてるじゃないか!」

「ビビビビ、ギャギャギャー!」


 窓を開けた時よりは寒くないけど、廊下も体が震えるくらいには十分に寒い。

 魔法で周囲の空気を暖めるとようやく一息付けた。

 しかし、ずっと魔法を使えるわけでもないので寒さ対策は必要になるかもしれない。それも僕の上着だけではなくてガーレッド用にも何か上着を買わないといけないな。


「このあたりはゾラさんかソニンさん、ホームズさんに要相談だな」


 なんだか相談することが多いと思いながら食堂へと向かった。


 朝も早いからか、単純に寒くてベッドから出られない人が多いからか分からないが食堂はだいぶ空いている。

 人も並んでいなかったのでサンドイッチといつもの野菜果物を注文して席に着く。

 すると、食堂の入り口に体を震わせながら現れたカズチを見つけた。


「カズチ!」

「お、おぉ、ジンか。今日は寒いな~」


 注文を終えたタイミングを見計らって声を掛けると、カズチは手を擦りながら同じテーブルに来てくれた。


「昨日の夜から雪が降ったみたいだからね」

「だからかぁ。これは昨日よりも厚着をしないとダメだな」


 嘆息しながら頬杖をついていると注文していた料理が運ばれてきたので食事を始める。

 今だけはと魔法でカズチの周囲も暖めてあげるとビックリしたようにこちらを振り向いてきた。


「今くらいはいいんじゃないの?」

「……助かる! ってか、だったら昨日も外で暖めてくれてもよかったんじゃないか?」

「カズチがどう動くかが分からなかったからできなかったんだよ」

「そっか。いや、そうだよね、すまん」

「いいよ。寒いのは僕も苦手だし、気持ちは分かるからさ」


 苦笑しながら再び食事へと戻ると、僕たちが座るテーブルの近くを通る人が小首を傾げながら通り過ぎていく。空気が暖かいから疑問を浮かべているんだろう。

 というか、火属性を持っている人はやっていないのだろうか。

 ……後で誰かに聞いてみよう。リューネさんが言っていたからやらないわけじゃないだろうけど、目立つ行為なら控えた方がいいかもしれないしね。


「……というか、外ではもう使えないか」

「どうしたんだ?」

「いや、この暖める方法も雪が降る外では使えないなーって思ってさ」

「なんで? 別にいいんじゃないのか?」


 理由は一つ――雪が融けて後から氷になってしまうからだ。


「雪よりも氷の方が滑りやすいでしょう? それを作らないようにするためにも外では使わない方がいいんだ」

「なるほど、そういうことか」

「だから僕もだけどガーレッドにも洋服が必要かなって思っているんだ」

「ピキャキャー!」

「あはは、だいぶ楽しみなんだな」


 食事を中断してまで欲しいアピールをしてきたガーレッドに僕もカズチも笑みを浮かべている。これは早いうちに準備しないと拗ねてしまうかもしれないな。


「外でも遊びたいけど、どうしたものか……」

「遊ぶなら洋服を買ってからの方がいいんじゃないか? 寒いし」

「……それもそうだね。カズチの今日の予定は?」

「午後からなら大丈夫だ」

「――私も行きたい!」

「「うわあっ!」」

「ビギャッ!」


 突然後ろから声を掛けられて振り返ると、そこにはルルが立っていた。


「お買い物だよね? 私もついて行っていいかな?」

「い、いいけど、仕事は大丈夫なの?」

「今日はお休みなの! だから、遅くまで寝ちゃったんだよね」


 えへへと笑うルルの手元には朝ご飯が乗ったトレイが握られている。

 そこで午後からの予定を決めた僕たちはルルの食事が終わるまで談笑し、そして食堂を後にした。

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