宿屋にて
ゴーダさんの酒場を後にした僕たちは、王都を散策しながら情報を集めたもののこれといった情報はなく、早い時間から宿屋に戻った。
すると、すでにガルさんが戻ってきており手を上げて出迎えてくれた。
「お疲れさん!」
「ガルさんもお疲れ様です。早かったんですね」
「んあー、気になることはあったんだが、調べるには確認が必要だと思ったんで戻ってきたんだ」
「さすがですね。こちらも噂話程度ではありますがいくつかお知らせしたいことがあります」
「そっちこそ、さすが
「情報源がいますからね」
ゴーダさんのことだ。
でも情報源ってことは、もしかしてゴーダさんは情報屋みたいな人なのだろうか。
「他の方々は?」
「ラウルとロワルは普通に観光しながら情報探しをしてて、メルとニコラは魔導師の寄り合いで情報収集すると言ってまだ戻ってきてないな」
「ヴォルドは?」
「部屋で休んでるよ。普通に動く分には問題ないだろうが、少しでも早く治したいんだろうな」
このパーティのリーダーとして動けないでは示しがつかないということだろう。誰もヴォルドさんが悪いなんて思っていないんだけどな。
「交渉組がいつ帰ってくるかなんだが……」
「夜の一の鐘を回ることはないと思いますが、しばらくは様子見でしょうね」
そうなると時間が相当余ってしまった。
ただの観光にホームズさんを付き合わせるのも気が引けるし、ガルさんだって同じだ。
部屋でガーレッドと遊ぶのもありだけど、夜にも時間はあるからなぁ。
「せっかくだし、ヴォルドさんの部屋に行こうかな」
「いいんじゃないか? 一人で暇してるだろうし」
「あっ、でも寝てたら邪魔しちゃいますね」
「ヴォルドさんなら起きてるから安心しろ」
「なんで分かるんですか?」
「俺も暇だったからさっきまで軽く話をしてたんだ」
そういうことか。
話すこともなくなったから食堂に降りてきて、誰か戻ってくるのを待っていたわけだ。
「というわけで、俺の相手は
「その呼び方は……ですが、それくらいならお安いご用ですよ」
僕は二人に頭を下げてからヴォルドさんの部屋に向かった。
ドアをノックするとすぐに返事が聞こえてきたのでそのまま開ける。
「なんだ小僧、どうしたんだ?」
ヴォルドさんはベッドの端に腰かけてこちらを見ていた。
「暇だろうと思いまして」
「……こんな子供にまで気を使わせちまってるのか」
「いやいや、そんなんじゃないですよ。どちらかというと僕の暇潰しに付き合ってほしいので」
「……まあ、そういうことにしておこうか」
マジでそうなんですけど。
まあ勘違いしていても特に話が変わることもないので訂正せずに近くの椅子に腰かけると、話題を提供することにした。
「体調はどうなんですか?」
「元気だって言っただろうが」
「やせ我慢してるのはバレてますよー。毒の話、聞きましたし」
毒という言葉に目を丸くしたヴォルドさんだったが、誰が話をしたのかを探り始めた。
「……ザリウスか?」
「違います、グリノワさんです」
「……グ、グリノワかぁ」
「一応、元気じゃないことには本当に気づいてましたからね?」
「それもスキルの効果ってことか?」
「いやいや、そこは純粋に僕の観察眼です」
実際のところはニコラさんとグリノワさんの反応を見て判断したのだが、そこを伝える必要はないかと黙っていた。
「……ったく、さすがはゾラ様の秘蔵っ子だな」
諦めたかのように体をベッドに預けた。
「本当に大丈夫ですか?」
「んっ? あぁ、問題ないのは本当だ。ただ、あんま激しく動くと毒が体に回っちまうからな」
「普通に生活する分にはいいって聞きましたよ?」
「そうなんだが、安静にしてる方が回復も早いだろうからな。みんなには悪いが、情報収集は任せて俺は休ませてもらってるんだよ」
やっぱり悪いと思っていたのか。本当に真面目な人だなぁ。
「悪いだなんて誰も思っていませんよ」
「分かってるよ。これは単に俺の自己満足だからな」
苦笑しながら体を起こしたヴォルドさんは、今度は自ら話題を提供してきた。
「昨日の夜はすまなかったな。鍛冶ができなかったんだろ?」
「あっ、ガルさんから聞いたんですね」
今日の朝、ガルさんとしていた話題だった。
「あいつも気にしてないだろうが、機会があれば打ってやってくれ」
「その話もしたんですけど、王都に着いたからそんな機会もないだろうって笑ってました。それに打つなら正規料金で買うとも」
「ここにいる連中ならそういうだろうな。だがまあ、ゾラ様がいる前でならあいつも受けとるだろうよ」
「あー、助け出したお礼ってことですね」
「そういうことだ」
そうなると、僕からではなくてゾラさんからってことになりそうだけどいいのかな?
まあ、僕も個人的に打って目の前で渡してしまえばいいかと考えて納得することにした。
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