ゴーダの情報
「ここ最近、店に来る冒険者の間で変な噂が流れ始めたんだ」
「変な噂?」
「あぁ。産業都市が反旗を翻すってな」
「なあっ! そんな、あり得ません!」
まさかの噂にホームズさんは声をあげる。
「当たり前だ。一つの都市が王に反旗を翻すなんてあり得ないし、ゴブニュ様と王との関係は誰もが知ってるところだからな」
ゾラさんと王との関係?
誰もがってことは、当たり前に仲が良いってことなのかな。
「俺もそうだが、冒険者逹だって信じなかった。だが、この噂がどこから流れてきたのかは気になってな、調べてみたんだ」
「それで、その結果は?」
酒場をあえて見回し、誰もいないことを再確認した上で口を開いたゴーダさん。
「噂は、城から流されていた」
「……いったい、何が起こっているのですか」
「それは、さっきの冒険者が話していた噂に繋がるんじゃないのか?」
「国家騎士が反旗を翻すってやつですか?」
僕は聞き耳を立てていた中で聞こえてきた内容を口にする。
「その通りだ。王派はそうでなくても、国家騎士派は王派を失墜させたがっているってことかもしれん。そうなると、王と懇意にしているゴブニュ様、及び産業都市に何かしら不穏な動きがあると噂を流せれば多少は評判にダメージを与えることができるかもしれんからな」
「確かに、そのような話でしたね」
僕は内容を聞きたくてウズウズしてきたのだが、ホームズさんはここで話をするつもりはないらしい。それはゴーダさんを巻き込まない為なのかもしれないな。
「それにしても、王派と国家騎士派はどうしてここまで争っているのですか? 私が王都に足を運んでいた頃はこのようなことなかったはずですが」
「数年前に国家騎士の団長が引退してな、次の団長を誰にするかって話し合いがあったみたいなんだ。そこで色々と揉めたみたいだぞ。さすがに詳細までは城の中の話だから分からんが、どうもそこでも派閥争いがあったらしい」
うわー、どこの世界でも派閥争いってあるんだな。
だけど、そう考えると王様は完全にとばっちりを受けてるだけって可能性もあるのか?
「話がややこしいですね」
「どの噂も繋がりそうで、大事な部分が抜けてるからな。ほぼ間違いなく国家騎士は関わっているだろうが、決定的な証拠にはならない」
「……他の方々の情報と繋ぎ合わせる必要がありますね」
思案顔のホームズさんは一人ぶつぶつと呟き始めたので、僕も気になることをゴーダさんに聞いてみた。
「今の国家騎士の団長は誰になったんですか?」
「なんだ、気になるのか?」
「派閥争いがあったのは結構前ですよね? それで今この状況になってるってことは、今の団長が関わってる可能性もあるかと思いまして」
仮に、僕たちを襲撃してきた者が国家騎士だった場合、私的に人材を動かせる人間は限られてくる。それが国家騎士の団長だったとしたら、それは人材を動かすには最適な立場の人間と言えるだろう。
「今の団長はポーラ・ストラウストっていう史上初の女性騎士が団長になってるな」
「へぇ、そうなんですか」
「だが、ポーラ団長は白だろう。疑わしいとしたら、団長選に負けたもう一人だろうな」
「……その人の名は?」
ホームズさんの問い掛けに、ゴーダさんは視線を僕に向けている。子供に聞かせていいのか、っていう確認なのかな。
「コープスさんなら大丈夫ですよ」
「……まあ坊主ならそうかもな」
「えっ、なんでゴーダさんからそんな感想が出てくるの?」
「さっきまで話してた内容を聞けばなぁ。どうせ何か秘密があるんだろ? 聞かんけどな!」
初対面の人にもそう思われるなんて、もう少し子供っぽくしてた方がいいかな?
「まあなんにせよだ。もう一人の名前だったな。そいつの名は──レオナルド・パーシバルだ」
「レオナルド・パーシバルですか」
「本来なら副団長が団長に繰り上げされるはずだったんだが、当の本人が団長の器じゃないと辞退してな。それで立候補を募ったんだ。その中で審査が入り、最終的に王と大臣が団長を決めたんだが、それにレオナルドは納得しなかったんだ」
なるほど、王派の人々を逆恨みしているってことですね。
でも、団長に決まったストラウストさんも人望はあったはず。だからこそ最終的に王と大臣は指名したんだろうけど……パーシバルさんの方に国家騎士の多くが付いているということだろか。
「それで、ゾラ様が王都にいるという確証はどうして得られたのですか?」
「ゴブニュ様は王都に来た時、ここに寄ってくれたんだ。その時にちょっとした愚痴を溢していてな」
「愚痴ですか?」
「王に呼ばれて来たにも関わらず、対応してきたのは国家騎士の下っぱだったそうだ。結局、王とも会えずにそのまま引き返すことになったんだと」
元々ゾラさんを呼び出したのは王じゃなくて国家騎士だったってこと?
「そして、ゴブニュ様逹が出発してから少しして、何人かの国家騎士が軽装で王都を出ていったのが目撃されている」
「明らかに怪しいですね」
「暗部が動くならあり得なくもないが、それなら隠れて動くだろうし目立つように動くとしても若い奴らしかいなかったから、その線はないだろうな」
王都を出たゾラさんたちを襲う為に出ていったと考えるのが妥当かな。
「そして、そいつらが戻ってきた時には人数が足りなかった。ここからは推測だが、おそらく残りの奴らは城に繋がる隠し通路を使ったんじゃないかと思っている」
「隠し通路って、そんなものあるんですか?」
ゲームやマンガの世界ならまだしも、現実に城に繋がる隠し通路なんて存在するのだろうか。
「ここだけじゃなく、他の国でもあることだ。もし国が攻められた時とかに王族を逃がす為の隠し通路ってのはな。そして、その通路を使ってゴブニュ様を運び入れたと俺は考えている」
「……ですが、これはあくまでもゴーダさんの推測ですよね?」
「そうだ。だから噂なんだよ」
ニヤリと笑うゴーダさん。
この人、きっとまだ何かを調べてるんだろうな。というか、あまりにも詳しすぎないですかね?
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