情報交換①
その後も何気ない話をしながら過ごしていると、徐々に情報収集に出ていた人たちが戻ってきたようでホームズさんが呼びに来てくれた。
「ヴォルド、調子はどうですか?」
「まあ普通だな」
「それならよかった。交渉組もそろそろ戻るはずなので、下で集まりましょう」
「分かった」
ヴォルドさんの返事を聞いたホームズさんはすぐに一階へと降りていく。僕はヴォルドさんと一緒に部屋を出て食堂に向かった。
そこには交渉組と護衛以外は戻ってきており、早めの晩ご飯を食べている者もいた。
話し合いが終わったらすぐに休めるようにという配慮なので、僕も遠慮することなく注文するとそのまま食べ始める。
ゴーダさんの料理も絶品だったが、ここの料理もまた美味しい。ただ、濃い目の味付けは同じで、王都の料理全般が濃い目で統一されているのかと思ってしまった。
「──戻ったぞー」
しばらくして、宿屋の入口からグリノワさんの疲れたような声が聞こえてきた。
「みんな、お疲れさまだな。まずは飯でも食べてくれ」
「いえ、グランデ様。先に報告をさせてください」
「……何かあったのか?」
「少し、気になることがあります」
ヴォルドさんが交渉組の顔を見回すと、全員がクリスタさんと似たような表情を浮かべている。
「分かった。それじゃあ、奥にある長テーブルに集合だな」
食事をしていたテーブルに集まった僕たちだけど、食堂には他の宿泊客もいて話が丸聞こえだと思う。
大事な話し合いなのだから誰かの部屋でってのはできないのだろうか。
そんなことを考えているとニコラさんが何やら詠唱を始めた。なんだろうと見ていると、突然他の客たちの声が聞こえなくなってしまった。
「……なに、これ?」
「うふふ、遮音魔法ですよ。光属性があれば使えて、こういった話し合いの時には重宝するんです」
「もしかして、夜営の時にも使ってました?」
「ごめんなさい、夜営の時は使ってないわ。それだけの規模では使えないの。斥候の三人には感謝してるわ」
夜営の時は斥候の人たちが優秀だからって話をしていたっけ。
それでも、この遮音魔法はとても役に立つな。光属性って言ってたし、僕も勉強をすれば使えるようになるだろうか。
「さて、それじゃあ情報の確認だが、まずは交渉組の話からだろうな」
ヴォルドさんに促されて立ち上がったのは、やはりクリスタさんだ。
……心なしかシリカさんの顔色が悪いのは気のせいだろうか?
「王側との話し合いですが……正直なところ、私達は困惑しています」
「どういうことだ?」
「王側の担当者が内容を把握していなかったのです」
「……はあ? いや、あり得ないだろう」
「そのあり得ないが、あり得たのです」
王都側はゾラさんたちのことを把握していなかった? それとも、知っていてはぐらかしている?
しかし、ゴーダさんの話では間違いなく城に捕らわれているということだが……ここにも国家騎士が関わってきてるのかな。
「結局、今日の話し合いではこちらの情報をいくつか開示しただけで、担当者が詳しく調べて明日また話し合うことになったの」
「なんかめちゃくちゃだな。それで、そこの嬢ちゃんはどうしたんだ? 顔を真っ青にしてるんだが?」
「……シリカさんは頑張ってくれましたよ」
僕も気になっていたことをヴォルドさんが聞いてくれ、それに対するクリスタさんの答えは意外なものだった。
そして、その説明はダリルさんが引き継ぐようだ。
「あいつら、交渉の中心になるシリカに圧力をかけやがった」
「圧力だと? 王都に着いてからか?」
「あの場には交渉担当以外にも相手側の護衛がいたんだが、そいつらが明確な殺気をシリカに放ちやがった」
「なっ! それこそあり得ないだろう! ……嬢ちゃん、大丈夫か?」
なるべく優しい口調で声をかけるヴォルドさん。
シリカさんは疲れた表情の中にも笑みを浮かべて口を開いた。
「は、はい、ありがとうございます」
「儂らも迂闊じゃった。まさか、いきなり殺気を放たれるとは思ってもいなかったんじゃよ」
「ごめんなさい、シリカさん」
「グリノワさんも、アシュリーさんも、謝らないでください」
護衛についていた二人は悔しさの中にも怒りの表情が浮かんでいた。
「その中でもシリカはよくやってくれた。最初の頃はどうなるかと思ったが、強くなってくれたよ」
ダリルさんが優しく微笑みながらそう口にした。
「交渉はまだ始まったばかりですから、私達も気を引き締め直して護衛いたします」
「次は絶対にやらせん。交渉組を守り抜いて見せるわい」
二人から決意の言葉が聞けたところで、交渉はからの報告は以上となった。
「次はラウルとロワル」
その後は自由行動の面々が順番に報告していったのだが、指名された二人からは有力な情報は情報は得られなかった。
「……今日の夜は、しごくからな?」
「「す、すいませんでした!」」
ガルさんが軽くにらみながらそう口にした。
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