冬支度⑧

 ユウキたちと別れて次に向かったのは商人ギルドである。

 ここではダリルさんに声を掛けようと思って立ち寄ったのだが、実のところ役所や冒険者ギルドでも探していた人物がそれぞれ一人ずついた。

 王都へ一緒に向かったシリカさんとクリスタさんだ。

 リューネさんやダリアさんと話をしながら探したのだが見つけることができず、それぞれ聞いてみたのだがどちらも今日は用事があると早上がりしていたらしい。

 明日は休みだということで職場には現れないと知り、お礼の品を渡すのは明後日以降になるなと思っていたのだが――


「あれ? どうして商人ギルドにお二人がいるんですか?」


 声を掛けた先にいたのは、先ほど探して見つけられなかったシリカさんとクリスタさんだ。


「あら、コープス君ではないですか、こんばんは」

「コープスさん、お疲れ様です!」

「お疲れ様です。今日は商人ギルドで用事だったんですか?」


 僕が二人を探していたことを話すと、申し訳なさそうな顔をしながらも理由を教えてくれた。


「今年ももう終わりでしょう? それで、王都へ交渉役として向かった三人で簡単な忘年会でもしようということになったのよ」

「そうなんです! あっ、コープスさんも来ますか? ダリルさんも大歓迎だと思いますよ!」

「すいません。この後、本部の食堂で友達と会わないといけないので。それに、そういう集まりなら僕がお邪魔するのも悪いですし」


 そんな感じで話をしていると、仕事を切り上げたダリルさんが姿を見せた。

 僕を見て驚いていたもののすぐに笑顔となり簡単な挨拶を交わした。


「お疲れさん、ジン」

「お疲れ様です、ダリルさん」

「今日はどうしたんだ? 一緒に来るのか?」

「いえ、今日は今年一年お世話になった人へお礼の品を渡して回ってたんです」


 そこで僕が三人を探していた理由を告げ、何故かお決まりのようになった僕にお世話に……というくだりを済ませると、三人にお礼の品を手渡した。

 シリカさんには緑の素材を使った鳥を、クリスタさんには白の素材を使った猫を、そしてダリルさんには銀の素材を使った狼を模った置物だ。


「うわー! 可愛い鳥さんですね!」

「この白い猫さんも可愛いわよ!」

「こっちの狼は凛々しい顔立ちで格好いいじゃねえか!」


 この言葉を聞いて三人が置物を気に入ってくれたと分かり、今回も胸を撫で下ろした。


「気に入ってもらえたようでよかったです」

「……なあ、ジン。これを商品として生産は――」

「できませんよ。お礼の品としてとても丁寧に作り上げたんですから生産なんて以ての外です」

「ダリル、ここで仕事の話は止めましょう」

「そうですよ! これから忘年会なんですからね!」

「おっと、そうだったな。すまん、ジン」

「いえ、実はダリアさんにも似たようなことを言われていたので」


 あはは、と笑いながらダリアさんとのやり取りを口にすると三人とも笑っていた。


「そのやり取りの後に商人ギルドに来るとか、変わっているよなジンは」

「ちゃんとこうして断っているんだからいいじゃないですか」

「対策ができたってことですね!」

「もしそうならダリアのお手柄じゃないの」

「お前ら、商人ギルドを下に見てないか?」


 ダリルさんが頭を掻きながら嘆息していると、僕はもう一つの錬成物を取り出した。


「それと、これはダリルさんだけになんですが」

「おっ、なんだなんだ?」

「遅くなりましたが、昇進のお祝いです」


 そう言って僕が取り出したのは――算盤そろばんだ。

 商人ギルドなのですでに持っているだろうと思ったのだが、僕が目にしたのは大きな数字には対応していない小さなものばかり。

 大きな取引も多いだろう商人ギルドで上の立場の人なのだから大きな数字にも対応した算盤があってもいいと思い作ってみたのだ。


「算盤かぁ。でも、ジンが作ってくれたなら……って、あれ? これ、大きくないか? それに……なんだろう、めっちゃ使いやすい!」


 あれ、そっちに一番食いつくのか?


「た、珠の数も多くしてみたんですけど、どうですか?」

「あぁ、俺が使っている奴は数字が足りなくて二つをくっつけて使ってたんだが、これなら一つで事足りるよ。だが、一番はこの珠がスムーズに動くのがいいな!」

「使っているのはそんなに使い辛かったんですか?」

「玉の大きさもまちまちだし、たまに一つだけ動かそうとしたら隣のまで動いちまって計算をし直したりしてたんだ。まあ、手書きで計算するよりは早いからいいんだが、これならそれすらもなくなるよ! ジン、ありがとう!」


 ま、まさかこっちでここまで喜んでくれるとは思わなかったが、結果オーライで良しとしますか。

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