冬支度⑨
本部に戻った僕はその足で食堂へと向かった。
部屋を借りている職人しかいないのでピーク時間とはいえ席は空いている。
僕がカウンターから声を掛けると、中からルルが顔を出してくれた。
「あっ! ジン君だ!」
「こんばんは、ルル。この後なんだけど――」
「ちょうど仕事も終わったから一緒にご飯を食べましょう!」
「……うん、分かった」
先に言われてしまったがそれはそれで好都合だと了承した僕は注文を伝えると空いている席に着く。
いつもの流れでルルが自分の分も料理を運んでくれながら席に着いた。
「仕事が終わったって言ってたけど、今日は早かったんだね」
「人が少ないからね。仕込みがある程度終わったら料理長の計らいでみんなあがらせてもらっているの」
「そうだったんだ。あっ、ガーレッド、食べる?」
「ピッキャーン!」
これまたいつものように果物や野菜を与えながら会話を続ける。
「ルルは休みないの?」
「少ないとはいってもゼロではないからね。でも、みんな交代ずつで固まった休みはもらえるんだ」
「年末年始も開けないといけないなんて、大変だね」
そう考えると、一番忙しいのって食堂のみんなじゃなかろうか。
「まあ、この時は本当に簡単な料理を作るだけだからそこまで忙しくはないんだよ。温めたら終わりな料理ばかり」
「それでも仕事は仕事でしょ? うーん、ここは改善が必要なんじゃないのかな。ゾラさんに提案でも――」
「いいってば! それに、そう言うことは料理長がやることだから、ジン君が何かする必要はないんだよ!」
むぅ、そこまで言われるとそうかもしれないが、本当に大丈夫なのだろうか。
「料理長はみんなの意見も聞いてくれるし、それをちゃんとゴブニュ様にも伝えて改善が必要なところは改善されているの。みんなから声があがっていないってことは、大丈夫ってことなんだよ」
「ルルがそこまで言うなら信じるけど……本当に大丈夫――」
「もう! 大丈夫だから!」
「……はい」
こうもはっきり言われたらこれ以上何も言うことはない。というか、言ったら本気で怒られる。
僕は食事を堪能しながら、完食したところでルルに本題を切り出した。
「そうそう、実は今日、今年お世話になった人のところに足を運んで挨拶をしてたんだ」
「そうだったんだ。ジン君は偉いね」
「お昼に食堂へ来た時にルルがいなかったから、これを今のうちに渡しておこうと思うんだけどいいかな?」
「何かあるの?」
「挨拶と一緒にお礼の品を渡してるんだよ」
「えっ! そうだったの?」
驚いたルルの顔に笑みを送りながら僕が魔法鞄から取り出したのは――ピンク色でリボンを模った置物だ。
「うわあっ! とっても可愛い置物だね! これを貰っていいの?」
「もちろんだよ。ルルの為に作った置物なんだから!」
少し遠慮していたルルだったが、ここでミーシュさんにもお礼の品を渡しているのだと伝えると笑顔になって受け取ってくれた。
「私で役に立てることがあったら言ってね! 絶対に手伝うからさ!」
「ありがとう、ルル」
僕もつられて笑顔となり、その後は今年一年の話で盛り上がった。
特に盛り上がったのはルルがガーレッドにリサーチャーという種族を見極める魔法を使った時、僕がこの世界に来て二日目の話だ。
「ガーレッドちゃんが霊獣だったことにも驚いたけど、ジン君から七色の光が出てきたことにも驚いたよね」
「あー、あれは確かに驚いたね。僕って人間? ってなったもん」
「本当だよねー。でも、結局あれって実際は何だったんだろうね?」
実のところ僕の推測でしか話は終わっていないのだ。
英雄の器の能力を隠している何かに反応して七色に光ったのではないか、というものだ。
結局のところ答えは分かっていないのだが、エジルの存在もあったことから間違いではないと僕は思っている。
「まあ、僕は僕だから気にならないけどね」
「それもそうだね。ジン君はジン君で、規格外ってことで」
「そうそう、規格外……って、なんでそうなるのかな!?」
「だって間違ってないでしょー!」
久しぶりのルルとの食事はとても楽しいひと時となった。
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