わき道の露天商

 わき道に逸れてからは、屋台通りのような賑わいはない。

 そして、日があまり射さないからか暗い雰囲気の場所だ。

 露天商があると言っていたが、確かにある。あるのだが、所狭しといった感じではなく、ある程度の距離を置いて商品が広げられている。

 主人たちは相手の商品を横目に見ながら、自分の商品と見比べていた。


「……なんだか、警戒しているんですかね?」

「同じ商品が並んでいたら、それに合わせて値段を下げることもここではあるからね」

「ユウキ様は詳しいんですね」

「僕に様付けは必要ありませんよ。家を出て、冒険者をやっているんですから」


 言葉使いに苦笑しながら口にして、ロットさんもそれに頷いた。


「でも、ここなら掘り出し物が見つかりそうだね」


 そんな感じで話をしていると、一つの露店から声が掛けられた。


「なあ、兄ちゃんたち。何を探してるんだい?」


 振り返ってみると、髭を長く生やした白髪の老人だった。

 広げられている商品はどれも薄汚れているが、種類は豊富なように見える。

 古びたナイフや剣、素材なども並んでいる。


「錬成用の素材を探しています。色は赤、できるだけ透明度が高い方がいいです」


 ニコリと微笑みながらそう口にすると、老人も笑みを浮かべてこれはどうかと並んでいる商品を一つ掴み取る。


「これなんかどうだい? 安くしておくよ?」

「確かに良い素材ですけど……透明度が足りないですね。それに、これでは質量が足りません」

「そうかい? 屑鉱石がくっついているが、中に詰まっているかもしれないよ?」

「どうでしょうか」


 これは見た目通り、ほとんどが屑鉱石の素材だ。

 表面に赤い素材がくっついているが、それも見た目通りで中にはほとんどない。

 細工されているものではないので文句は付けられない、目利きが必要なものだ。


「へぇ。君は、良い目利きができるんだねぇ」

「錬成師としては、人並みじゃないですかね?」

「それをジンが言うかな」


 横からユウキがぼそりと呟いているが、そちらは無視しておこう。

 だが、その言葉を聞いたからなのか分からないが、老人は何度か頷いた後にこう口にした。


「ちょっと待っておれ。良い物を見せてやろう」


 どっこいせ、っと呟きながら立ち上がった老人は、家の前で露店を広げていたようで、建物の中に入っていく。

 僕たちは顔を見合わせて首を傾げたが、待てと言われたものだから待っている。

 その間に他の露天商から声を掛けられたものの、そちらにも掘り出し物は見つからなかった。

 ……ユウキはフラフラとどこかに行かないでね。また騙されるから。


「おうおう、すまないねえ」


 そこに老人が戻ってくると、他の露天商は舌打ちをしながら散り散りに去っていく。


「ほれ、これじゃよ」


 そして、老人が持ってきたそれを見た僕は、ごくりと唾を飲み込んだ。

 素材がではないが、僕の目にはその鉱石が、素材が真っ赤な光を放っているように見えた。

 ゆらゆらと揺れているその光は、自分がここにいるのだと主張しているかのようだ。


「……素晴らしい素材ですね」

「ほほほほ。本当に、良い目利きじゃわい」


 正直、他の人が見てもただの小さな石の塊に見えただろう。事実、ユウキもロットさんも首を傾げている。

 しかし、石の塊の中には必要以上の素晴らしい鉱石が眠っているはずだ。


「これは、いくらなんですか?」

「小銀貨五枚」

「……五枚、かぁ」


 その言葉を聞いて、ロットさんが溜息をつきながら口にする。


「おや? 必要なのはそっちのお兄さんかい?」

「えぇ。恋人への贈り物を作るための素材を探しているんです」

「ふむ、そうか……ちなみに、予算はいくらなんだい?」

「……小銀貨三枚です」


 さすがに小銀貨二枚分もまけてくれるはずはない。

 というわけで、僕はこの素材を手に入れるために一つの提案を口にする。


「小銀貨二枚分は、物々交換でいきませんか?」

「「……えっ?」」


 驚きの声を漏らしたのは、ユウキとロットさんだ。


「でも、ジン君。私は交換できる物なんて持っていないよ?」

「物は僕が準備します」

「だ、ダメだよ! 君にそこまでしてもらうのは!」

「僕がこの素材を見てみたいんです。というわけで、これなんてどうですか?」


 言うが早いか、僕は魔法鞄から自分で打ったナイフを取り出した。

 素材はグラン鉱という硬質な素材で、一級品に限りなく近い二級品。

 わざわざ質を落として作ったのだが、それでもここまでにしかできなかった。


「……おいおい、これでは儂の方が儲かってしまうぞ?」

「大丈夫ですよ。これ、僕が打ったんで」

「……ほほう?」

「これでも、一端の鍛冶師なんで」

「……ふむ。して、そこのお兄さんはいいのかい?」


 最後に確認を取ったのは、ロットさんに対してだ。

 この素材を必要としているのはロットさんであって、僕ではない。

 僕が欲しいのは、単に中身を見てみたいという興味だけだ。


「……その、ありがとう、ジン君。このお礼は、必ずするよ」

「デザインを見せてもらいましたから、それで十分です」


 というわけで、交渉成立だ。


※※※※

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