ゾラの過保護

 革製の腕輪は僕の成長に合わせて大きさが調整できるようになっており、とても腕に馴染む作りをしている。

 パッと見はベルトが茶色なので目立つこともないのだが、気になるのは七つの晶石だ。

 光を浴びるとそれぞれの色を反射させて美しいのだが、とても目立ってしまう。

 スキルのこともあるので目立たないようにと言っていたのはゾラさんなのだが、この腕輪はいったいなんなのだろうか。


「……全属性の晶石が嵌められた腕輪ですか。ゾラ様、相当に奮発しましたね?」

「まあ、小僧のことだから何かしら騒動に巻き込まれるじゃろう。その保険じゃよ」

「巻き込まれるの前提なんですね。でも保険って、もしかしてこれって銀狼刀ぎんろうとうみたいに何か付与されているんですか?」


 巻き込まれないように注意はするけど、一応腕輪の効果を確認しておきたい。……一応ね。


「小僧の言う通りじゃ。各晶石には属性に対する耐性付与が施されておる。ギンロウトウがあれば火属性は防いでくれるじゃろうが、それ以外の属性付与はされておらんからのう。これがあれば、全属性にわずかながら耐性を持つことができるぞ」

「ぜ、全属性って、僕は普通に鍛冶をする予定なんですけど!」

「自ら騒動に飛び込むやつが何を言うか」

「ぐぬっ!」


 ひ、否定できないのが辛い!


「で、でも、僕だって多少は荒事に慣れてきてますよ! その気になればエジルだっていますしね!」

「そのエジルとやらも装備が充実している方が何かとやりやすいじゃろう」

「それはそうですけど……」

「ゾラ様、コープスさんにだけ過保護ではないですか?」

「か、過保護って、ホームズさん……」

「普通はこれだけの装備を卒業祝いに渡すなんてしませんよ?」


 魔法鞄マジックパックをひょいと渡してくれたホームズさんがこれだけの装備と言っている。ということは、この腕輪は魔法鞄以上に高価な代物ということだろうか。


「……お、おいくらするんですか?」

「金額など気にするな。ザリウスもそのようなことを言うものではないぞ」

「そうでしたね、失礼しました」

「……めちゃくちゃ気になるんですけど!」


 ここまで言われて教えてもらえないなんて、酷過ぎやしませんかね! これじゃあ夜も気になって寝られませんし、気安く付けられないんですけど!


「……普通に身に付けてて、奪われませんかね?」

「実際に腕に付けると偽装付与が発動して普通の腕輪にしか見えなくなるから安心しろ」

「その時点で普通じゃないんですけど! ……もしかして、これってゾラさんお手製ですか?」

「当然じゃろう。こんなもん、普通は売っておらんぞ」


 ということは、『神の槌』棟梁が作った最高級の腕輪で、全属性の晶石まで嵌め込まれていると。

 ……うん、偽装付与がないと、僕の腕ごと盗まれる可能性がありますね。


「……銀狼刀に全属性の耐性付与がされた腕輪。僕の装備って、総額いくらになるんでしょうね」

「それを言うならユウキの装備も相当な金額になると思いますよ」

「儂にばかり言うでない。小僧も同じようなことをしておるんじゃからな」

「……仰る通りで」


 僕もユウキにはなるべく上等な装備をあげようと考えている。

 しかし、ユウキは冒険者で危険なところに身を置いているのだから当然だ。

 比べて僕は鍛冶師である。騒動に巻き込まれさえしなければ危険なところになんていかないのだから、ここまでの装備は普通いらないと思う。


「……ほ、本当に貰っていいんですか? お返しがさらに大変になってしまうんですが?」

「これに対するお返しなどいらん。もちろんギンロウトウもじゃぞ。小僧は普通に鍛冶をして、錬成をして、それを販売に乗せてくれれば問題ない。まあ、仕上がりによっては儂やソニンと同じでリューネを通すことも考えておるが、それならそれで大きな金額になるから助かるがのう」

「が、頑張ります!」


 キャラバンとしていつかは『神の槌』を出ることになるだろう。しかし、まずは『神の槌』への恩返しが必要だ。

 鍛冶でも錬成でも何でもやってやろうじゃないか。そうと決まれば何をしようとしていたかと悩んでいる時間がもったいない。


「早速鍛冶をしてきます!」

「出来上がったら一度ザリウスに確認させるんじゃぞ。そこから商人ギルドを通すのか、リューネを通すのかを決めるからのう」

「分かりました!」


 僕は立ち上がるとすぐに事務室を出て行こうとしたが、一度立ち止まって振り返る。


「どうしたんじゃ?」

「ゾラさん、ありがとうございます!」


 早速付けた腕輪を見せながら、僕は満面の笑みを浮かべる。


「よく似合っておるぞ」

「はい!」


 今度こそ本当に事務室を後にした僕は、鍛冶部屋にこもりガーレッドに見守られながら鍛冶に没頭するのだった。

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