出来上がったのは……

 見習いを卒業して時間の制限がなくなったこともあり、僕は三つの剣を時間を掛けて打ち上げた。

 素材はキルト鉱石なので色はとても派手である。

 ということで、観賞用の剣を打ってみることにした。

 ただ剣を打つだけではデザインが単調になってしまうので、イメージを固めることに時間を掛けて打ち上げた三本。


 一本目は見た目から名前を付けて黄金刀おうごんとう

 二本目は大剣の腹に炎を模したデザインを施した金火刀きんかとう

 三本目は片刃で刃文が美しく浮き出てくれた黄色刀きしょくとう


 黄金刀と金火刀は諸刃、黄色刀は片刃である。

 観賞用として打った三本だが、斬れ味をおろそかにしているのかと聞かれるとそうではない。ちゃんと実戦でも使えるように打っているのだ。


「ピー、ピキャー」

「どうかなガーレッド、綺麗に打ててる?」

「ピー! ピーキャキャキャー!」


 美しく打ちあがったからかガーレッドも興奮気味に三本を見つめている。

 これならホームズさんに見せても問題はないだろう。

 これが商人ギルド経由になるのかリューネさん経由になるのかは僕にも分からない。


「せっかくなら商人ギルドから販売されてほしいなぁ」


 リューネさん経由の方が最高の出来になっていると言えるのだが、僕は商人ギルドに行ったことがない。

 王都から戻ってきた時にはゾラさんが商人ギルドから事情聴取を受けていたので、僕が足を運ぶと色々とややこしくなるだろうと言われて諦めていたのだ。

 もしキャラバンとして移動隊商を行うとしても、各都市に立ち寄った時には商人ギルドへ足を運ぶこともあるかもしれない。

 今の内に商人ギルドの仕組みを知っておくのも必要ではないかと思っていた。


「鞘もキルト鉱石で作ったし、早速ホームズさんに見せに行こう!」

「ピピー!」


 魔法鞄マジックパックに三本の剣を入れた僕は、そのまま事務室へ戻ろうとしたのだが──


 ──ぐううううぅぅ。


「……ビギュー」

「……ご飯、すっかり忘れてたね」


 カズチたちが懸念していたことが、現実になってしまった。

 これでは何も言い訳ができないと思った僕は、事務室に行くのを一旦止めて食堂へ向かうことにした。


「ごめんね、ガーレッド」

「ビギャー! ギャギャー!」

「えっ、今度からは僕を止めるって、どうやって?」

「ビギュギュー!」

「……はい、すいませんでした」


 鍛冶をしている最中に火を食べられたらどうしようもないね。僕を止めるには一番有効な手段をガーレッドは思い付いていたよ。

 次からは気を付けるとガーレッドと約束して、急いで食堂へと向かった。


 時間はお昼を回り七の鐘が鳴る手前である。

 食堂は閑散としており、カウンターには誰も立っていない。

 僕がカウンター越しに声を掛けてようやくミーシュさんが顔を出してくれた。


「おや、ジンじゃないか。今からお昼かい?」

「はい。まだ何かありますか?」

「ピピキュー?」

「そうだねぇ……簡単な料理になっちまうが、それでもいいかい? ガーレッドは新鮮な野菜と果物だから大丈夫だろうけど」

「全然構いません! ありがとうございます!」

「ピーピキュキュー!」


 僕とガーレッドが喜んでいる姿に苦笑しながら、ミーシュさんは台所へ戻っていく。


「好きなところに座ってなー」

「はーい!」


 ホッとしながら席に着いた僕は、がらんとした食堂を眺める。

 もし『神の槌』を出るとなれば、ミーシュさんの料理も食べられなくなってしまう。


「……ま、まだ先だからね!」

「ピー?」


 ぶんぶんと首を振ると、心配そうに見上げてくるガーレッドの頭を撫でる。

 そこにミーシュさんがお任せ料理とガーレッド用の野菜と果物を持ってきてくれた。

 しかし、料理はもう一人分準備されている。


「これはあたいの分だよ」

「ミーシュさんも今からだったんですね、お疲れ様です」

「ピピーキャキャー」

「あはは! ありがとね。まあ、みんなの休憩を回してたら、どうしてもこの時間になっちまうんだよね」


 肩を回しながらそう教えてくれた。


「食堂の料理人も大変ですよねー」

「仕事なんてみんなそんなもんだよ! 鍛冶師や錬成師も、それ以外もみんなね。楽な仕事なんてないさ」

「……確かにそうですね」

「それはそうと、早速食べようかね! ガーレッドも待ちきれないみたいだよ」

「……ビー……ビギュー」


 机に置かれたご飯に、ガーレッドからはあまり聞かない声が漏れ出している。

 僕は苦笑しながらも野菜からガーレッドに与えて、自分でも料理を口に運ぶ。


「ありものでこしらえたものだから口に合うかねぇ」

「……全然……美味しいです! シャキシャキ野菜にも味がしっかり付いてますし、お肉の甘辛い味付けがまた男子には堪りませんよ!」

「面白い言い回しをするんだねぇ……まあ、ジンの場合は最初からか」


 そうだったっけ? ……まあいいか、美味しいご飯の時間だし。

 僕はお昼ご飯をペロリと平らげ、ガーレッドも完食してしまった。


「ピュー……ピアー……」

「ごちそうさまでした」

「美味しそうに食べてくれたから、料理人としても大満足だよ!」


 ミーシュさんが夜の仕込みがあると言って立ち上がったので、僕もガーレッドを鞄に入れて立ち上がると、改めてお礼を告げるとそのまま食堂を後にした。

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