ホームズの助言
本部に戻ると事務室ではホームズさんが待っていてくれた。
どうやらソラリアさんへの相談事が気になってきたようだ。
「お帰りなさい。いかがでしたか?」
「ただいまです。とてもスッキリしました」
「それはよかった。話せる時が来たら教えてくださいね」
「……ありがとうございます」
ホームズさんは僕がソラリアさんに──外に相談をしに行ったことを気にしてくれているのだ。
ここでは相談できないことをしてきたのだと。
「決断する時は、必ず話します」
「それで構いませんよ。ソラリア婆様には驚いたのではないですか?」
「本当に驚きました! まさかオリジナルスキルを持っているなんて」
事務室には僕とホームズさん以外には誰もいない。だから気安くスキルの話もできている。
「それも、その人を良い方向へ導けるスキル……私も助けられました」
「ホームズさんも見てもらったことがあるんですか?」
「一度だけです。ですが、私の場合はスキルというよりかはソラリア婆様の助言に助けられたのですがね」
スキル込みの助言ではなく一人の人間としての助言に助けられたのだとホームズさんは言う。
「ソラリア婆様の言葉に間違いはないでしょう。自分を信じてお進みなさい」
「はい。そういえば、ちょっと興味本意で聞いていいですか? 答えたくなかったら答えなくていいので」
「なんでしょうか?」
「ホームズさんはオリジナルスキルを持っていないんですか?」
僕が知る限りだとゾラさんソラリアさん、王都で出会ったゴーダさんに、エジルが戦ったレオナルド元副団長くらいだろう。
多くの人に出会えたものの、僕を除くと四人しかオリジナルスキル持ちと出会えていない。冒険者としてトップに立っていたホームズさんなら持っていても不思議ではないと思ったのだ。
「私は持っていませんよ」
「そうなんですか? それで冒険者としてトップに立っていたなら、相当凄いことですよね?」
「どうでしょうか。ですが、だからこそ私は上級冒険者止まりだったのですよ」
「どういうことですか?」
上級冒険者は、冒険者としてトップのはず。あえて挙げるなら通り名持ちの人たちだろう。
だが、ホームズさんは通り名も持っているので上級冒険者止まりという表現に違和感を覚えた。
「通り名持ちが冒険者として最高の栄誉になりますが、そこからさらに通り名持ち同士で比較されていくのです」
「でも、ヴォルドさんが言うにはホームズさんは当時の通り名持ちで最強だったんですよね?」
「それはあくまでもヴォルドの主観でしょう。私以上に強い方々はたくさんいましたよ。先日お会いしたゴーダさんもその一人です」
あの人、やっぱり強かったんだ。
「私は通り名持ちの中でも下から数えた方が早い実力だったはずです」
「そうなんですか?」
「上位者にはやはりオリジナルスキル持ちがずらりと並んでいるはずです。まあ、皆さん秘匿しているので実際は分かりませんがね」
ホームズさんが言うならそうなのだろう。
それにオリジナルスキル持ちはイコール実力にも反映されるだろうから、最後の推測も間違いではないはずだ。
「それに、私には霊獣もいませんでしたから」
「ピキュー?」
そう言ってガーレッドの頭を優しく撫でている。
「上位者には霊獣と契約している人も多かったんですか?」
「そうですね。今の最強と言われている冒険者も霊獣と契約していますよ」
「へぇー。そうなんですね」
「だからこそ、霊獣の幼獣は狙われやすいのです」
「そこに繋がるんですね」
ガーレッドが拐われた時のように、フルムも狙われる可能性が高い。
だからこそホームズさんもゾラさんも手を打ってくれたのだ。
「本当にありがとうございます」
「ガーレッドもフルムも、守るべき霊獣ですから」
「ピピーキュー!」
頭を下げる僕とガーレッドに笑みを浮かべるホームズさん。
そして、今日の予定が終わった僕は残る時間をどうしようかと考えていると──
「小僧、ここにおったか」
「ゾラさん、どうしたんですか?」
事務室の入口からゾラさんが顔を出して名前を呼んできた。
「グリノワにお礼の武器を渡してきたからのう、その報告じゃ」
「僕の思い付きからだったのに、ありがとうございます」
「助けられたのは儂らじゃからのう。ソニンもニコラとメルに渡したと言っておったぞ」
「後でソニンさんにもお礼を言わないとですね」
「そうしておけ」
ゾラさんとソニンさんが作り上げた武器である。きっと嬉しかっただろう。
「それとじゃ。これは儂から小僧へのプレゼントじゃよ」
「へっ?」
いきなりプレゼントと言われても、何がなんだか分からないのだが。
「鍛冶師見習い卒業の祝いじゃ。この前は準備が間に合わなかったからのう」
「そんな! 僕は
実際は鍛冶部屋と鍛冶に必要な道具一式、さらには錬成部屋も造ってもらえる予定なので貰いすぎなのだ。
「なーに、これから返してもらえばそれでよい。小僧なら本気の作品を数本打てば、掛かった金額の元は取れるはずじゃからのう」
「……それはそれで怖いんですけど」
いくらで売るつもりなのかも気になるけど、僕への投資に総額いくら掛かっているのかも気になる……聞けないけど。
「気にするでない。これは親のわがままじゃからな」
そう言って手渡されたのは──七つの晶石が美しく輝く腕輪だった。
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