神眼
僕が将来的に考えていること、それは一つの都市にとどまることなく移動隊商――キャラバンとして作品を売り歩くスタイルだ。
これなら数多くの都市を訪れることもできて、僕のスキルが仮にバレたとしても逃げやすい。
王都へ向かった時に外での鍛冶が上手くできたというのもキャラバンを思いついたきっかけの一つだった。
「キャラバンか……それは面白いことを思いついたのう」
「……驚かないんですか?」
「んっ? ほほほ、驚いておるよ。ただ、それ以上に面白いとも思っておる」
「面白い、ですか?」
「めんこいのは色々とやっているのじゃろう? 儂の耳にも入ってきておるよ」
「……どんな噂が耳に入っているのかが気になるところですね」
外で鍛冶をした程度なら問題はないのだが、それに変な脚色がついていないかが心配だ。
「良い噂話ばかりじゃよ。とりわけ外で鍛冶をしたというのは特に面白いのう」
「あれは苦肉の策と言いますか。まあ上手く言ったので今回のことを思いついたっていうのもありますけど」
「そうじゃろうな。……どれ、見てみるかのう」
ソラリアさんは今回も閉店の掛札を下げて戻ってくる。
「ご、ごめんなさい。今度何か買います」
「ほほほ、いいんじゃよ。もし負い目を感じているなら、また年寄りの話し相手になってくれればそれでよい」
笑いながらそのように口にしてくれるソラリアさん。
僕の周りには優しい人しかいないんじゃないだろうか。
ただ、そのことに甘えているばかりではいけないと思うのでやはり何か買い物は必要だろう。
「話し相手になりながら、買い物もしようと思います」
「ほほほ、それが儂に取っては一番かもしれんのう」
笑みを絶やすことなく椅子を勧めてくれたので僕は素直に腰掛ける。
ソラリアさんも椅子を向かいに移動させて腰掛けると、僕の目を真っ直ぐに見つめてきた。
「儂の
「は、はい」
気のせいだろうか。ソラリアさんがそう呟いた直後から店内の温度がグッと下がった気がする。
僕はごくりと唾を飲み込みながら、ソラリアさんの目を見つめる。すると──
「……あっ」
「ほほほ、光が溢れ出したじゃろう?」
「は、はい。とても綺麗な光です」
白く輝く細かな光の粒子がソラリアさんの目から弾けては消えていく。
そして不思議なことに光ではなく、ソラリアさんの目から視線を外すことができなくなっていた。
「……ほほぅ、これはこれは……そうか、めんこいのがそうじゃったか……」
何やら呟いているのだが、その真意は全く分からない。僕がなんだったのだろう。
どれだけそうしていただろうか、額から汗が流れて顎を伝い木造の床を濡らした時、ようやくソラリアさんが目を閉じて小さく息を吐き出した。
「……ふぅ」
「……お、終わったんですか?」
「終わったよ。……めんこいのよ、お主は面白い運命に導かれているのう……いや、背負っていると言った方が適切かもしれん」
「運命を背負っている、ですか?」
心当たりといえば、やはり英雄の器が原因だろう。
英雄と冠しているのだから世界を救う運命とか、何か偉業を成し遂げるような運命でも見えたのだろうか。
……それだと非常に面倒臭いんだけどなぁ。
「まずはじゃ。最初に話があったキャラバンとして旅をすることに関してじゃが、おおむね問題はないじゃろう」
その言葉を聞いて、ひとまずはホッとすることができた。
「じゃが、その道中は楽しいことばかりではない。むしろ、大変なことの方が多いかもしれん」
「……はい」
「しかし、それを乗り越えればその先には大きな未来が待っているだろう」
「大きな未来?」
「そうじゃ。めんこいのは望んでおらんかもしれんが、世界を変えることのできる未来がのう」
大変なことが多いというのは想定内だ。
しかし、世界を変えることのできる未来というのは完全に想定外、というかマジで望んでないんですけど!
「その未来を拒否します!」
「ほほほ、そう言うと思ったわい。まあ、そちらの未来に行くかどうかは選択肢がそのうち出てくるじゃろうから、めんこいのが選択するとよい。ただし――スキルがそれを許してくれるかどうかじゃがな」
スキル、という単語に僕は反応してしまう。
「……やっぱり知っちゃいましたか?」
「そのスキルの影響が大きい未来じゃったからのう。自然と見えてしまったわい」
「やっぱりそうですか。まあ、そうじゃないと世界を変える未来とか見えませんよね」
「ピピー?」
下を向く僕を心配したのか、ガーレッドが上目遣いで見上げてくる。
頭を撫でながら抱き上げると、ソラリアさんを見つめて口を開いた。
「僕のことを見てくれてありがとうございました」
「ほほほ、お礼を言われるようなことはしておらんよ。大丈夫、めんこいのを助けてくれる人は多くいるからのう」
優しい笑みを浮かべてそう助言してくれたソラリアさん。
「それとじゃ、めんこいのの未来にはガーレッドも大きく関わってくるから大事にするんじゃぞ」
「もちろんです!」
「ピキャーキャー!」
立ち上がったソラリアさんがお茶を出してくれたので、その後は少しだけゆっくりと時間を過ごした。
別れ際にもう一度頭を下げて、僕とガーレッドは本部へと戻って行った。
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