カマド探訪

 本部を後にした僕たちは、ルルの案内で一つの雑貨店にやってきた。

 小さな女の子向けのお店なのだが、そこには安価な素材を錬成して作られた装飾品が並べられている。聞けば駆け出しの錬成師が装飾品を卸すのによく使われるお店なのだとか。

 カズチもやる気を出したのかルルと一緒になって装飾品を見て回っている。


「基本的な丸形が多いね」

「いや、中石の方じゃなくて土台の部分が思い浮かばなかったから助かるよ」

「そうなの? でもカズチくんが作るのは中石部分だよね?」

「昨日の練習の時に完成品をイメージしてって言われたんだけど、そもそもの完成品がイメージ出来なかったからな。ペンダントや指輪のデザインが浮かべば、中石の部分を俺がアレンジ出来たらより良い物になるんじゃないかってな」

「カズチ偉いねー。僕はそんなこと考えてなかったよ」

「いや、ジンはまだ装飾品の錬成してないじゃん」


 あー、それもそうだね。

 昔は自分本位でプレゼントを選んでいたからあまり好かれなかったのかな? 相手の立場になってプレゼントを選ぶのって難しいもんね。


「ジンくん、どうしたの?」

「へっ? いや、何でもないよー」


 笑ってごまかした後は僕も装飾品に目を落とす。

 指輪のデザインは指を通すアームが細いものや太いもの、皮膚に接しない部分を波立たせたデザインだったり、言葉では言い表せない独創的なデザインの物もある。……あんな出っ張ったデザイン、邪魔でしょうがないと思うんだけど。ここって、小さな女の子向けのお店だよね?

 ただ、どの指輪も中石の部分は丸形や菱形をしており基本形が多い気がする。

 少しだけハート型や星形があるものの、概ね基本形だった。


 ペンダントはチェーンがほとんど同じような物ばかり。ペンダントトップのデザインが勝負の決め手になりそうであり、そこはカズチのイメージ力次第になりそうだ。

 それでも、目の前の装飾品に使われているトップは色の違いはあれどほとんどが丸形や菱形である。

 カズチが昨日作った雫形なんかはとても人気が出そうな気もするな。


 他にもイヤリングはブレスレットなど、多くの装飾品が並ぶ店内を見て回りイメージを膨らませることが出来たのか、カズチの表情はなんだか満足気である。


「勉強になったんじゃない?」

「あぁ、休みの日はなるべく外に出て色んな店を見て回るのもいいかもしれないな」

「よかったー! カズチくんもジンくんも錬成頑張って、色々な種類の装飾品を増やしてね!」


 女の子のお願いとあっては断るなんて出来ないよね。

 僕もカズチも『頑張ります』と一言告げると、店主さんが笑顔で話し掛けてくれた。


「あらあら、可愛い錬成師さんだねぇ。それにこっちは霊獣かしら?」

「サラおばちゃん、おはようございます!」

「おはよう、ルルちゃん。この子たちは『神の槌』の見習いさんかい?」


 サラおばちゃんは膨よかな体型でニコニコと笑顔が暖かい優しそうなおばちゃんだ。

 自己紹介をお互いに行い、今後の錬成の為に来店したことを告げた。


「その、買い物は出来ないんですけど……」

「うふふ、気にしないでいいのよ。このお店も趣味でやっているようなものだから」


 申し訳なさそうにカズチが呟くと、サラおばちゃんは笑顔でそう言ってくれた。


「夫には早くに先立たれてね。子供もいなかったから、こうして子供たちと触れ合える場所が欲しかったのよ。このお店は、私のわがままが建てたお店なのよね」


 冗談めかしてそう言ってくれたことで、カズチもホッとしたようだ。


「そうだ! カズチ、昨日錬成した雫形って今持ってる?」

「一応持ってるけど、どうしたんだ?」

「サラおばちゃんに見てもらおうよ。店内を見て回ったけど、似たような中石が見当たらなかったからさ」


 日本ではメジャーな形だったし他のお店では出回っているだろうけど、ここにないのであれば客層に受ければサラおばちゃんのお店で流行る可能性だってあるはずだ。


「よろしければ見せてくれませんか?」

「はぁ、こんなんで良ければ」


 取り出した雫形のケルン石を受け取ったサラおばちゃんは、ほぅと息を吐き出しながら眺めている。


「とても美しいと思いますよ。色合いが淡いところも透明感を感じさせてとても引き込まれます。これをカズチくんが錬成したのかい?」

「はい。昨日、練習でしたけど」

「そうですか。これなら人気も出そうですけど……契約は難しそうね」

「えっ! どうしてですか?」


 気に入ってくれたなら契約したらいいのに。

 あー、でもユウキの時にも言われたっけ。口約束もダメだし、仕入れとなればお得意先だってあるだろう。


「私みたいな個人のお店では契約料を払うのも大変なのよ。それが『神の槌』ともなればこちらが潰れてしまうわ」


 なるほど、契約料か。

 おそらく、ここの商品は小さなクランの見習いの商品なのかもしれない。安い契約料で卸してもらい、見習いも自分の作品が売れれば自信になるし、小銭も稼げる。どちらかに負担があってはいけないのだ。


「そっかぁ。クランとじゃなくて、個人で契約とか出来たらいいのになぁ」

「……個人、契約?」

「……それは、なんでしょうか?」


 ……へっ? そんな制度自体が、もしかしてないっぽい?

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