錬成の為のあれこれ
お小遣いと事務員さん
翌朝、僕はガーレッドに起こされた。
遅くまで本を読んでいたせいか起きるのが遅くなってしまったようだ。
上半身を起こして伸びをすると、布団に埋まっている下半身の上にガーレッドが飛び乗りこちらを見上げてきた。
「おはよう、ガーレッド。起こしてくれてありがとね」
「ピーピッピキャ!」
どういたしまして、だって。
そんな上目遣いで見つめられたら抱きしめたくなるじゃないか!
「はう〜、ガーレッドは今日も可愛いね」
「ピキャー?」
首を傾げる姿もまた可愛い。
大人の姿でこんなことしてたら恥ずかしいけど、今の姿なら全然平気である。
顔をスリスリさせながらガーレッドと戯れていたのだが、遅く起きた分準備を急がなければいけないので名残惜しいがガーレッドを横にずらしてベッドから出る。
洋服を着替えて準備を進める中で、僕はとあることに気づいた。
「あっ、お金がないや」
初日にホームズさんからお金のことを聞かれたが使い道がなかったので貰っていなかった。
出かける前に一度事務室に向かう必要がある。ホームズさんへの挨拶がてら、お小遣いを貰うことにしよう。
そういえば事務員の補充が二人できたって言ってたっけ。その人たちにも挨拶がしたいな。
鞄を肩に掛けてその中にガーレッドを入れる。だけど今回は隠すのではなくて頭だけ鞄から出している。
ケルベロス事件の際、ガーレッドの姿は多くの人に見られていたので隠す必要がないのだ。
「色々なところを見て回ろうね」
「ピッキャー!」
鞄の中で腕をパタパタさせている。嬉しいみたいでよかったよ。
部屋から出ようとしたところで扉がノックされた。
すぐに開けると、そこにはカズチとルルが立っていた。迎えに来てくれたらしい。
「あれ? 今日はもう準備出来てるんだな」
「これでも寝過ごしたんだけどね。ガーレッドに起こされたんだ」
「ガーレッドちゃん、偉いねー」
「ピッキャン!」
えっへん! だって。なんか表情が誇らしげなのが面白い。
「ねえねえ、装飾品店に行くのは決まりなんだけど、冒険者ギルドにも寄っていいかな?」
「いいけど、どうしてだ?」
「ユウキに素材の依頼を出そうと思って。自主練習するのに素材を確保しておくのは大事だと思ってさ」
「それいいね! 私は構わないけど、カズチくんはどう?」
「俺も構わないよ。だけどお前、お金持ってるのか?」
「先に事務室に行ってホームズさんにお小遣いをおねだりします」
なるほどと笑いながら、僕たちは事務室に向けて歩き出した。
「そう言えば、二人は事務員の人に会ったことある?」
「俺は会ったことないな。あまり事務室に寄ることがないし」
「私は会ったことあるよ。一人は綺麗な人で、一人は可愛い人だったよ」
ということは二人とも女性。
まさかホームズさん、女性を選んだんじゃあないよね?
「二人とも事務経験あり、ホームズさんも即戦力だー! って喜んでたよ」
そうではなかったようだ。無粋なことを考えてしまいすいませんでした。
そうこうしていると事務室に到着した。
「おはようございまーす」
「おや、おはようございます。今日は早いんですね」
ホームズさんがいつもの優しい笑みで答えてくれる。
「ホームズさん、この前話しにあったお金の件ですけど、冒険者ギルドで依頼をしようと思うのでいくらかいただけませんか?」
「ゾラ様からコープスさん用にといくらか預かっていますから、そこからお渡ししましょう」
ゾラさん、そんなことまでしてたのね。
僕も早く稼げるようにならなければいけないな。
「冒険者ギルドでの依頼は素材ですか?」
「はい。自主練習用の素材と、出来れば自信がついた時の為に少し上等な素材も手に入れられれば嬉しいなって思ってます」
「ふむ。ならば大銅貨三枚、中銅貨五枚、小銅貨七枚くらいでいいでしょう」
「そうなんですか?」
「詳しくはギルドの方が教えてくれますけど、概ねこれだけあれば足りるでしょう。残った銅貨は食事や買い物に使っていいですよ」
「ありがとうございます」
銅貨を入れた袋を受け取りガーレッドが顔を出している鞄のポケットに突っ込む。
お小遣いも貰えたので、僕はもう一つの目的の為に問い掛けた。
「そうそう、補充の事務員さんってどなたですか?」
「今は朝食に行っていますが……あぁ、ちょうど戻ってきましたね」
事務室の入口に目を向けると、そこから二人の女性が中に入ってきた。
一人目は小柄で垂れ目のおっとりしてそうな眼鏡女子、ふんわりヘアーと可愛らしい顔つきに似合わず主張が激しい胸の膨らみが特徴的だ。
二人目は長身で切れ長の鋭い瞳、ショートカットから覗く耳が少し長い。背筋がピンと伸びていて仕事が出来そうな印象を受ける。
「カミラさん、ノーアさん、お帰りなさい」
「ご飯美味しかったです〜」
「お先にいただきました、ありがとうございます」
なんか話し方も全く違う二人だね。
そんなことを考えていると二人の視線が僕たちに向いた。
「初めまして。鍛冶見習いのジン・コープスと言います」
「錬成師見習いのカズチ・ディアンです」
ルルは既に自己紹介を終えているようで、ニコニコと笑っている。
「初めまして〜。私はカミラ・カローラと言います〜」
「私はノーア・キュリオス、ハーフエルフです」
ルルが言っていた二人の感じだと、カミラさんが可愛い人で、ノーアさんが綺麗な人なのだろう。
カミラさんの印象はその通りだと思う。ノーアさんは綺麗だけど、僕的には格好いい女性というイメージだな。
「非常に無理をするホームズさんですが、これから末永く助けてあげてください」
「……えっ? なんでコープスさんが頭を下げてるんですか!」
「だって、絶対に無理するじゃないですか。もしかして、自覚ないんですか?」
「そういう意味ではなくてですね!」
「あっ! もうそろそろ行かなくちゃ!」
僕は逃げるようにまくし立てると、カズチとルルの背中を押しながら笑って事務室を後にした。
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