閑話 カズチ・ディアン
ここ最近、驚かされたばかりな気がする。まあ、その理由は明らかなんだけどな。
--ジン・コープス。
最近鍛冶師見習いでクランに加入した新入りは棟梁や副棟梁に気に入られてやってきた。
話を聞けば同い年だと知った時は驚いたよ。だって、俺よりだいぶ小さかったからな。
副棟梁に言われてクランの案内をしたけど、その時からかな、驚きの連続だったのは。
ガーレッド、魔法、鍛冶、そして--ケルベロス事件。
蹴られた脇腹は痛かったけど、俺なんかよりもジンの方が大変だったに違いない。
魔力の枯渇なんて、そうそう起きないしな。
まあ、普通ならそうそう起きないことが頻発していることも関係してか、今ではクラン内でも一番仲良くしてる、かな。
同年代のメンバーがルルくらいしかいなかったってのも関係してるけど。
今日も朝からジンと錬成の勉強だ。
副棟梁の錬成部屋に向かう為にジンの部屋を訪れる。
「おはよう、カズチ。今日は錬成の勉強よろしくね」
「おはような。そのことで副棟梁から話があったんだ」
「わかった。立って話すのも何だし中で話そう」
「助かる」
ジンの部屋は質素で必要最低限のものしか置いていない。加入して数日だし仕方ないけど、それにしても寂しい気がする。
朝ご飯を渡して椅子に腰掛ける。
……意外だった。机の上には読みかけの歴史本。鍛冶や錬成ではなく、歴史本。
いや、まあ記憶がないって言ってるし歴史を勉強するのは分かるけど、それでも今日までのジンを見ていたら意外でしかないよな。
それでも錬成をする為にと移動を促せばそそくさと移動するんだから、やっぱりジンはジンだった。
錬成でも鍛冶のように超一級品になるのかと内心で不安だったけど、そうはならなかった。
錬成師として新人に抜かれるのは、スキルの効果があったとしても悔しい思いがあったからな。
いつかは抜かれるとしても、今でなくて良かった。
しかし、ジンは錬成の工程を初っ端から覆してしまった。
一工程ずつ行うはずの分解、排除、浄化、構築。それを同時に作業するなんて普通は思いつかないだろう。
……それを一発目でやるかよ。まあ、ジンだからなぁ。
食堂に向かいながらケルン石の使い道を聞かれたけど、何だったんだ? もしかして、欲しかったのかな。
ジンの部屋は殺風景だったし、何か作ってプレゼントしてやるか。
そんなことを考えながら食堂に到着すると、ルルも一緒に昼食となった。
ジンがルルの過去について聞いてきた時は焦ったけど、ルルも克服したみたいで本当に良かった。
まあ、いつもの流れでスキルの話になったけど……ルル、魔導スキル四もあるんだ。
俺ももっと練習して錬成スキルのランクを上げなきゃいけないな。
それにジンのやつ、魔導スキルまで習得するつもりみたいだし何を考えてるんだか。
もし、本当に鍛冶や錬成、魔導スキルまで習得してしまったら、棟梁や副棟梁と同じか、スキルの効果が乗っかれば二人以上になるんじゃないだろうか。
……いや、考えるのはやめておこう。なんか、自分が惨めになりそうだ。
食事を終えて再び錬成部屋に戻ればすぐに二回目の錬成だ。
ジンはすぐに取り掛かったけど……俺、装飾品なんて知らねえよ。
どんな物をイメージして作ればいいのか全く分からない。
ペンダントとか指輪だと思うけど、どんな形の物がくっついていたかなんてさっぱりだ。
一人で悩んでいると、ジンは二回目の錬成を終わらせてしまった。
良くはなっているけど、やはり中の上らしい。
俺の番になって、一人で悩んでいても仕方ないので思いつかないことを告げてみた。
「カズチ、装飾品のイメージは出来ましたか?」
「いえ、その、装飾品にどういったものがあるのか分からなくて」
「……まさか、そこに問題があるとは思いませんでした」
「カズチって女の子にプレゼントとかしたことないの?」
「あるわけないだろ。……まさか、ジンはあるのか?」
……明らかな動揺、まさかジンが女の子にプレゼントだなんて。
でも、ジンって記憶がないんじゃなかったっけ?
……まあ、ジンだしな。何かあるんだろう。
話の流れで明日は店を見て回れることになったのはよかった。このままじゃあ装飾品の錬成が出来なくなるところだしな。
ジンには色々アドバイスも貰えそうだし、今回くらいは俺のわがままに付き合ってもらおう。
……って、そこまで動揺することもないんじゃないか? 三回目の錬成、大失敗じゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます