愚王、没
『先導者が魔法を使った後は同じような光景が描かれた。
遁走する近衛騎士、立ち向かうが返り討ちにあう近衛騎士、生きたまま焼かれ、氷漬けにされ、埋められる。
個の力によって違いを生み出す騎士もいたが、ことごとくが先導者によって討ち取られた。
国軍とは違い一日は耐えた、耐えたが、たったの一日しか保たなかった。
近衛騎士も完敗を喫し、愚王を守る近衛騎士は王都に数百程度。精鋭ではあるものの数の劣勢は明らかであり、武具の優劣はそれ以上に大きな問題であった。
当時、王都にいた最高と称される鍛冶師はこう語る。
「
溜息しか出てこない。
当時の先導者は確かにバケモノだっただろう。いや、王国から見ればという注釈が付くかもしれない。
ベルハウンドや村々から見れば村を豊かにし、更に強力な力をもたらしてくれた、正しく先導者といえる存在だ。
この本の著者も、もしかしたらベルハウンドや村々の出身者かもしれない。
『著しく戦力を低下させた王国は、あっという間に崩壊してしまう。しかし、これはベルハウンドによる崩壊ではなかった。
戦力低下を察した周辺諸国が攻め入り、なす術なく滅ぼされてしまったのだ。
周辺諸国が愚王を滅ぼしている間に、先導者は新たな国を興すことを宣言する。
それが、今の国であるベルドランドだ』
一度本を閉じて考える。
先導者は自分が王になりたかったのか? ならば愚王の元には行かずに別のところで国を興すのも分かる。
だが、愚王を討つ必要性が分からない。
国を興すだけならそこでのびのびやればいいだけの話で、ベルハウンドは仕方ないとはいえ周辺の村々まで巻き込む理由にはならない。
ならば、やはり戦闘狂だったから?
いや、これはないだろう。戦闘狂ならば小さな村を率いる意味が分からないし、戦争地域に行けば事足りることだ。
……うーん、やはり単に楽しんでいるとしか思えないなぁ。愉快犯みたいな、そんな感じかな?
武具を作るのも、戦争するのも、国を興すのも、ただやってみたいからやっただけ、そんな気がする。
「……あー、思いついたことをただ片っ端からやっただけって線もあるかも」
僕はすぐに受け入れられたけど、僕みたいな人間だけではないはずだ。
いきなり訳の分からない世界に転生して、更には命を脅かす魔獣なんてものもいるくらいだ。
元の世界に戻りたい一心でとにかく思いついたことを全て試した、なんてことはないだろうか。
先導者に英雄の器があったのかどうかは分からないけど、僕にはそれがあった。
だからこそ魔獣に襲われることもなくゾラさんたちに拾ってもらえたのだろうが、そうでなければ……おぉ、怖い怖い。
まあ、考えるだけでは分からないので再び読み進めようかとも考えたが、夜もすでに遅くなっている。
瞼も重くなってきたので本を机に戻して風呂に入る。
……先導者の様にはなりたくないな。
頭から水を浴びながらそんなことを考える。
英雄の器の能力は破格過ぎる。所持者にはそれなりの素養が必要なのだろうが、何故僕が所持者に選ばれたのか考えたこともあった。
転生者ってだけではないだろう。実際にそうではないエジルが以前の所持者だったのだから。
考えても分からない問答を頭の中で繰り返しながら風呂を上がり、ガーレッドを起こさない様に布団に潜り込む。
「……もし、ガーレッドがまた攫われたり、殺されたりしたら、怒り狂うかもしれないな」
「……ピー……キュー……」
可愛い寝顔を眺めながら、ガーレッドだけではないと気づいた。
『神の槌』の面々やリューネさん、ユウキやダリアさんもそうだ。
出会い、良くしてくれたからこそ、何かあった時には力になりたいと考えてしまう。
それが先導者の様な力任せにはならない様にしなければいけないと肝に銘じよう。
「……明日のお出掛け、装飾品を見たらその後どうしようかな」
時間はたくさんあるのだ。装飾品のお店を回るだけでは面白くない。
早く帰ってきて鍛冶や錬成の勉強をするのもありだけど、それではカズチやルルに申し訳ないしなぁ。
「……あっ! 冒険者ギルドでユウキに素材の依頼をしてみようかな」
今後のことを考えれば、自分用の素材を持っていてもいいかもしれない。
錬成が上達すれば、一人で錬成と鍛冶を行い生産に従事することが出来る。ケルン石などがあれば錬成だけでも問題ないのだ。
「どんな素材がいいのかなぁ、ダリアさんに聞いてみよう」
カズチとルルにも付き合ってもらおう。
そういえば、子供たちだけで出掛けるのも初めてだな。
「どうしよう。なんだか楽しみになってきたよ」
大人気なくワクワクしながら、僕は眠りに落ちていった。
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