買い物と歴史本

 錬成された素材を受け取った僕たちはソニンさんの錬成部屋を後にした。

 最後の失敗した素材はどうしようかと思ったが、それでも中の下の素材と言われたので受け取っている。鍛冶の練習をする時に必要になるかもしれないからね。

 カズチは最後の錬成も成功させていた。

 雫形、丸形、最後は正方形。カズチもいずれ色々な形で作ることを想定したようだ。


「明日は何処に行こうか?」

「何処にって、決めてるんじゃないのか?」

「いやー、カマドにどういったお店があるのかも知らないからさぁ。出掛けるにしてもお店が分からないとどうしようもないよね」

「……マジか。俺も知らねえぞ」


 二人して唸っていると、そこに現れたのはゾラさんだった。


「小僧にカズチか、廊下の真ん中でどうしたんじゃ?」

「あっ、ゾラさん。こんにちはー」

「棟梁! お疲れ様です!」


 僕はゾラさんに明日の予定について話して装飾品か見れそうな場所について聞いてみた。


「装飾品か。儂もそっち方面は詳しくないからのう」

「ですよねー」

「……小僧、今のは皮肉っておるのか?」

「そんなことないですよ。ゾラさんも僕たちと同じ気がしただけです」

「それはそれで酷くないかの?」


 そうは言われても予想通りだったのだからいいではないか。

 しかし困った。そうなると僕たちだけではお店探しからやらなければいけなくなる。


「あれ? ゴブニュ様に、カズチくんにジンくんも。どうしたの?」


 偶然通りかかったのはルルだった。


「「ルル、明日暇ですか!」」

「へっ? あ、明日はお休みだけど?」

「「みんなで出かけましょう!」」

「えっと、あの、何事?」


 僕はルルにもゾラさんにしたのと同じ説明を行った。


「そういうことだったのね。私でよければ一緒に行こうよ!」

「あ、ありがとー!」

「た、助かった〜」

「……何はともあれ、よかったのう」


 一人だけ納得出来ない表情のゾラさんはさておき、僕たちは明日の予定を決めてその場を別れた。


 部屋に戻った僕とガーレッドだったが、今日は本部から外には出ずに錬成ばかり行っていたのでガーレッドは暇疲れしちゃったみたい。

 しばらくは遊んでくれたけど、大きな欠伸を繰り返すようになったのでベッドに上げるとすぐに眠ってしまったからだ。

 さて、どうしようかと考えてから少しして机の上にある本に目が行った。

 錬成本……錬成本……うーん、読んでた途中だし、今日までは歴史本を読もうかなぁ。


「……それに、僕以外の転生者の行動も気になるしね」


 あの先導者がどのようにしてベルハウンドを王都と呼ばれる大都市にまでしたのか、その過程を僕は知っておかなければいけない気がする。

 僕は歴史本を手に取って途中のページを開いた。


『豪炎を纏った岩石は国軍を一掃した。その破壊力は地面を抉り土を吹き飛ばす。地形を書き換えるほどの絶大な破壊力。

 主力の大半を失った国軍は烏合の衆の成り果てた。

 指揮官不在の部隊は遁走し、勇敢にも戦った兵士は先導者が作り出した強力な武器--魔剣の威力によって近づくことすら叶わずに生きたまま焼かれ、氷漬けにされ、土に埋められた。

 先導者と強力な魔剣の力を持って、ベルハウンドは快勝を収めた』


 ……これは、あまりにも酷い。相手が敵だとしても、あまりにも残酷だ。

 しかも先導者はこれを村人にやらせたという。村人の心は大丈夫だったのか? それとも感情が麻痺してしまったのだろうか?


「どちらにしても、この先導者はおかし過ぎる。ベルハウンドや他の村の人たちを何だと思っているんだろう」


 嫌な気分になりつつも、僕は次のページを開く。


『愚王は怒り狂った。それはベルハウンドや村々に対してもそうだが、呆気なく敗れ去った国軍に対しての怒りでもあった。

 次に派遣されたのは王を守護する役目の近衛騎士部隊である。

 国軍の中でもより精強な近衛騎士部隊は電撃的な速さでベルハウンドと村々の周辺まで軍を進めてきた。

 だが、ここでも先導者が先陣を切り魔法を解き放つ。竜巻を起こし、巻き上げた騎士を雷撃で撃ち抜く魔法は一瞬にして数百の騎士の心の臓を止めてしまった』


 戦闘狂か? まるでエジルみたいだけど……いや、エジルではないだろう。

 彼は僕の知識を知らなかった。ならば転生者ではないことになるからね。

 それに彼は英雄の器の前所持者である。これだけの所業を行った先導者が英雄の器所持者であるはずがない。

 何故なら、この殺戮が英雄の所業ではないからだ。


「……このスキルも、戦争に使われたらこの本の先導者みたいになっちゃうかもしれないね」


 昨日、ゾラさんの私室で話された戦争の話。

 王都がオリジナルスキルを持っている人を集めているという。魔法砲台って、まさにこの指導者と同じじゃないか。

 そんなことになれば今手にしている出会いが全てなくなってしまうだろう。


「そんなこと、絶対に嫌だな」


 この本を読むと嫌な気分になってしまう。

 それでも、もう少しだけ読み進めてみようと思い直して視線を本に向けた。

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