野営の食事
野営地に戻ってみると、すでに料理が準備されておりマリベルさんとハピーも戻ってきていた。
マリベルさんの視線は料理に注がれており、嬉しいような、驚きのような、そんな曖昧な表情を浮かべている。
「マリベルさん、どうしたんですか?」
「……や、野営でこんな豪華な食事が摂れるなんて」
「でも、ソニンさんも
ソニンさんが護衛依頼を出す時はマリベルさんが一番に選ばれるだろうし、それなら食材が充実していそうだと思ったのだが、違うのだろうか。
「まあ、その……」
「ケヒートさんは料理ができないんですよねー」
「ちょっと、マリベル!」
あー、なるほど。
食材があってもソニンさんが料理できず、同行者や護衛の中に料理をできる人がいなければ食材も無駄になってしまう。
堅焼きパンじゃないだけありがたいのだろうが、やはりちゃんとした料理が食べられるとなれば今のような感想に至るのだろう。
「ハピーには何を食べさせるんですか?」
「ハピーは斥候に行きながら済ませてきたわよ」
「……へっ?」
「霊獣は成獣になると魔獣とも戦えるわ。そうなると、魔獣の肉をそのまま食べることができるのよ」
「えっ! 魔獣の肉を、そのまま食べるんですか?」
それはまた、予想外の答えでした。
「霊獣にもよるけど、中には毒を持つ魔獣も食べられる種類もいるらしいわよ」
「毒まで……」
ガーレッドやフルムが僕たちと同じ食事をずっと摂ってきているので、てっきりハピーも同じだと思っていたのだが、よくよく考えるとこれだけ大きな体なのだから僕たちと同じ食事となればその量も膨大になってしまう。
それだと費用もバカにならないだろうし、現地調達できるのは効率がよいのだろう。
「……でも、それって霊獣にとっては良いことなんですか? その、栄養面とか?」
「霊獣はそもそも魔獣を倒して食すものとされているから、大丈夫なんじゃないの?」
「……し、知らなかった」
神の使いと言われている霊獣が、魔獣を倒し食するという構図は当然なのかもしれない。
「ガーレッドも将来は魔獣を食べるの?」
「ピーキャキャー! キャキャー!」
「……そ、そうなんだ。食べるんだね」
だからバーベキューの時も魔獣のお肉を美味しそうに食べていたのだろう。
そうなると、これからの食事については考えないといけないかも。
魔獣を食べることで成獣に近づく可能性もある。炎晶石を食べることが一番の近道なのかもしれないけど、どうなんだろうか。
「ね、ねえ! とりあえず、食事にしようよ!」
我慢ができなかったのか、マリベルさんは早く食べたいと言い始めてしまう。
「そうですね。暖かい内に食べましょうか!」
「やったー! いっただっきまーす!」
「全く、お主は本当に何も変わっておらんのう」
呆れ声のグリノワさんを気にすることなく、マリベルさんは料理にかぶりついた。
「ん~~っ! 美味しい!」
「どれ……ほう、確かに美味いのう」
「あ、ありがとうございます!」
「フローラさんは料理もできるのですね」
「その、故郷の味付けなので好き嫌いはあるかもしれないんですが、お口に合ったようでよかったです」
僕とユウキは以前に食べたことがあったので黙々と料理を口に運んでいく。
「明日の予定はどうなっているんじゃ?」
「明日は二の鐘にはここから出発して、夜の鐘が鳴る前には到着したいと考えています」
「ふむ、順調に進めば六か七の鐘には到着できると思うが……ずいぶん慎重な予定を立てるんじゃのう」
「ここの野営地が荒れていましたからね。先の野営地も同様であれば、そこに魔獣が群れを成している可能性もありますし、その先で遭遇することも考えられます」
「なるほど。想定外に備えて余裕を持った計画を立てたということじゃな」
大きく頷いているグリノワさんを見ると、ソニンさんの計画に納得しているのだろう。
「して、マリベルよ。魔獣の状況はどうだったんじゃ?」
「んぐっ、まびゅう?」
「……飲み込んでからでよい」
一気に口の中へ詰め込んでいたマリベルさんが慌てて飲み込むと、頭を掻きながら報告を始めた。
「やっぱり周囲には魔獣が多かったですね。私とハピーで結構な数の魔獣を倒しておいたけど、ここを拠点にしていた魔獣が遠くから戻ってくる可能性もあるかもしれないですね」
「分かりました。次の斥候でも気をつけて回ります」
「……そういうことは食事の前に報告するべきじゃぞ?」
「……あは、あははー」
「お主が上級冒険者でこの護衛のリーダーじゃろう。もっとしっかりせんと、ケヒートも依頼を持って来なくなるかもしれんぞ?」
「そ、それは困りますよ! 私の収入源が!」
「……マリベル、そんな風に私のことを思っていたんですか?」
「ち、違うから! ケヒートさんも酷いよ!」
グリノワさんがいるからだろうが、マリベルさんが完全にいじられキャラになっている。
しかし、不思議なものである。
「完全にグリノワさんが仕切ってましたね」
「マリベルがこの調子じゃからのう。全く、困ったもんじゃわい」
「あうぅぅ、気をつけますぅ」
そう言いながらも料理には手を付けているマリベルさんを見て、全員が爆笑するのだった。
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