整地
料理がある程度出来上がると、僕は仕上げをフローラさんに任せてグリノワさんのところへ移動する。
せっかくの機会である。僕はグリノワさんから整地の方法について教えてもらおうと思っていた。
ところが、僕が到着するとすでに整地は終わっておりソニンさんがテントを張っていた。
「おや? どうしたのですか、コープス君」
「グリノワさんに整地を教えてもらおうと思ったんですけど……仕事が早いですね」
「まあ、これくらいわのう。なんじゃ、整地に興味があるのか?」
……テニスコート一面分くらいの整地がこれくらいなのか。
基準が分からないのだが、馬車を停めるスペースに馬の場所。そして僕たちのテントのスペースでテニスコート一面分は広すぎると思ったのだが、そうでもないらしい。
「テントは男性と女性で分けますし、護衛は入れ替わりで斥候に出ますから同じテントだと出入りがあって一緒にはできません。最低でも三つのテントは必要になりますからね」
男性陣は僕とグリノワさん。
女性陣はソニンさんとフローラさん。
護衛はユウキとマリベルさん。
フローラさんは魔導師で斥候として出ることはないのでソニンさんと一緒に休んでもらい、ユウキとマリベルさんは男女だが入れ替わりで出て行くので問題ないという判断らしい。
「どれ、テントを張り終わったら整地の方法を教えてやろう」
「いいんですか?」
「構いませんよ。テントを張り終われば私もやることはありませんし、グリノワ様にも時間ができますからね」
「ありがとうございます!」
ということで、僕も手伝ってテントを張り始めた。
最初はグリノワさんに教わりながら一つのテントを張り、ソニンさんは一人で張り終わっている。
最後の一つはグリノワさんに監督してもらいながら一人で張っていく。
魔法も使いながらだったので意外と簡単に終わったのだが、テントを張るだけで魔法を使うのかと笑われてしまった。
ソニンさんは呆れていたけれど。
「どれ、それじゃあ少し移動するか」
「あっ! それじゃあユウキに一言伝えてきますね!」
今は野営地に護衛はユウキが行っている。
急にいなくなってしまい心配させるのはよくないだろう。
僕はユウキに事情を説明すると、ここでも苦笑を浮かべて頷いてくれた。
「色々なことに興味を持ち過ぎだよ」
「だって、気になるじゃないか。それに、できたら今後の選択肢も増えていくからね」
「まあ、そうだね。グリノワ様がいるから大丈夫だとは思うけど、気をつけてね」
ユウキに手を振りながらその場を離れてグリノワさんについていく。
整地した場所から五分くらい進んだところにも小さな野営地があり、そこもグリノワさんが整地したところと同じように魔獣に荒らされている。
「この一帯の野営地は全てやられているようじゃからな。どうせやるなら、他のところも手入れしてやるか」
「おぉ、ボランティアですね」
「ボランティア? ……まあよいか。それじゃあ始めるぞ」
現時点の地面は魔獣に荒らされて地面が捲れ上がり、糞尿が撒き散らされて、残されていた残飯が至ることろに散らばっている。
ただ地面を均すだけでは臭いはどうしようもない。ということで、グリノワさんは範囲指定した地面に真っ赤に燃える炎を放った。
「これでゴミを燃やして、臭いもある程度は軽減される。時間が経てば自然と臭いは無くなるじゃろうが、風属性や光属性があればすぐに残った臭いも消すことができるぞ」
「グリノワさんはどちらかを持っているんですか?」
「儂は持っておらん。じゃから、儂らが野営するところはケヒートに光属性を使ってもらったわい」
「光属性……それって、滅菌とかそんな感じですか?」
僕がユウキやフローラさんに使った三属性併用魔法では、光属性を使った滅菌を行っている。
それと似た感じかなと思ったのだが、どうだろうか。
「そんなところじゃのう。なんじゃ、興味があるのか?」
「興味というか、ちょっと考えていることがあったので。でも、それだったら僕でもできるかな」
「光属性か? 儂はてっきり風属性で臭いを飛ばすのかと思ったぞ」
そっちの方が簡単だろうけど、長い目で見れば光属性で滅菌してしまった方がいいのではないか。
臭いが他に飛んでしまい、それを魔獣が嗅ぎ取ってしまうとこちらに近づいてくる可能性もある。
「……よし、こんなもんかのう」
「うわー、真っ黒こげですね」
「今はのう。ここから地面を均して下にある土を上に持ってきて、その後に臭いを滅菌してもらう。均す時もきれいに平面になるよう注意するんじゃよ」
口を動かしながらもグリノワさんは整地を進めていく。
何も知らない人が目の前の光景を見たら何か魔獣が地面の中で蠢いていると思うかもしれない。
地面がひとりでに盛り上がり、黒焦げになった地面を飲み込んで下から新しい土がもこもこと出てきているのだ。
全ての地面が茶色の新しい土に入れ替わったのを確認したグリノワさんは、次いで平たく均していく。
「これで儂の仕事は終わりじゃ。後はジンに任せてもいいか?」
「分かりました」
「滅菌の方法は分かるのか?」
「なんとなくですが、大丈夫だと思います」
試してみてできなければソニンさんに聞いてみよう。
そう思いながら僕は光属性をグリノワさんが整地してくれた範囲に絞り発動、生活魔法を使った時のように周囲の空気に対して滅菌作用を働かせていく。
ついでにではないが、消臭まで行えばより快適になるのではないか。
……うん、やっぱりそうだ。僅かに残っていた鼻を突くような臭いも徐々に無くなり、最終的には周囲の緑の香りが鼻に入ってくるようになった。
「これで整地は終わりじゃな」
「ありがとうございます!」
「いやはや、ジンは本当に面白いのう!」
何が面白いのだろうか。
そんなことを思いながら、僕とグリノワさんはソニンさんのところへ戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます