二日目の道中
翌朝は一の鐘から準備を初めて、二の鐘になる前に野営地を出発した。
馬車の中ではソニンさんに道程の確認をしてみたのだが、予想よりも早く到着する予定のようだ。
「エルミドさんからは六日くらい掛かるって聞いていたんですよ」
「エルミドさん、とは?」
「えっと、フローラさんの師匠で魔導師の方です」
僕はエルミドさんからの話の内容を伝えてみたのだが、どうやら心当たりがあるようでソニンさんは小さく頷いていた。
「おそらく、エルミド様というのはご高齢の方ではないですか?」
「そうですけど……何か理由でも?」
「まあ、体力の問題ですね。我々でも長い間座りっぱなしでは疲れますよね?」
「そうですね……あぁ、なるほど。休憩を多くとっていたってことですね」
「だと思いますよ。私たちの場合はお昼休みを挟むくらいで、後は道程を消化することができますけれど、ご高齢の方にはそれが辛くなりますからね」
「それでも三日は掛かるんですね」
「ラドワニは遠いですから」
カマド以外の都市に行けるのは嬉しいのだが、そこで一つの疑問が浮かんできた。
「わざわざカマドから遠いラドワニに向かう理由って何かあるんですか?」
魔獣素材を自分で取る為ならわざわざ遠くの都市に行く必要はないだろう。
中級以上の魔獣素材が必要だというのでも、ラドワニよりも近い都市があってもいいと思うのだが、どうなんだろう。
「ラドワニには別で用事があるんですよ」
「そうだったんですね。仕事ですか?」
「いえ、ラドワニには私の弟子がお店を出しているので、その様子を見に行こうかと」
おぉ! ソニンさんの弟子ってことは相当優秀な人ってことだよね!
「ぼ、僕も見に行っていいですか!」
「構いませんよ。……変なことをしなければですけど」
「ただお店を見るだけなのに変なことってなんですか、変なことって」
いくら僕でもお店の中で暴れたりはしないんですが。
「コープス君の場合、素材を見るや否や錬成をしたいと我儘を言いそうなので怖いのですよ」
「言いませんよー。言うとしたら、ソニンさんに言いますしね!」
「……それは胸を張って言うことではないと思いますよ?」
……そうですね、失礼しました。
「うふふ」
「どうしたんですか、フローラさん?」
僕とソニンさんのやり取りを黙って聞いていたフローラさんが突然笑い声を漏らしたので声を掛けてみた。
「だって、お二人ともとても楽しそうに会話をされているので、面白くなっちゃって」
「コープス君が少し変なだけですよ」
「ソニンさん酷い!」
「うふふ、本当に面白いですね」
馬車の中は賑やかになっている。
そんな時、斥候として出ていたユウキからソニンさんへ報告が入った。
「ソニン様、野営地よりも先にあったもう一つの野営地なんですが、魔獣が群れを作っています」
「……やはり、そうなりましたか」
「マリベル様とも話し合ったんですが、ここはマリベル様とハピーが魔獣を掃討してくる方がいいということになったんですが、よろしいですか?」
「構いませんよ、お任せします」
「ありがとうございます。グリノワ様!」
「聞こえてたぞー」
「馬車はこのまま進んでくれて構わないので、よろしくお願いします」
「分かったわい」
ユウキはすぐにマリベルさんのところへ向かい、決定を伝え終わるとハピーが一気に駆け出した。
「は、速いな!」
ハピーは全力で駆け出したのだろう。先ほどまで数メートル先にいたその姿はあっという間に豆粒くらいの大きさになるくらい遠くに行ってしまった。
「……あ、あれが霊獣。動物とは明らかに違いますね」
「ピー! ピキャキャー!」
「わふ! わふわふ!」
僕が驚いている横では同じ霊獣のガーレッドとフルムが飛び跳ねて喜んでいる。どうやらハピーが褒められたのが嬉しかったようだ。
「同じ霊獣同士、共感するところがあるのかな」
「可愛いですねぇ」
「全く、本当ですね」
フローラさんとソニンさんは飛び跳ねる二匹に相好を崩している。
しかし、ここはユウキではなくマリベルさんが向かったのはどういう理由だったんだろう。
僕は気になったので前に移動してグリノワさんへ聞いてみた。
「グリノワさん、今回はどうしてマリベルさんが向かったんですか?」
「魔獣の群れと言っていたからのう。ユウキだけでは危ういと思ったんじゃろうな。マリベルの場合は上級で実力もあるのと、ハピーもおるから数で言えば二じゃからのう」
「……そっか。霊獣って、戦えるんですもんね」
昨日もマリベルさんとハピーが斥候で出た時に魔獣の肉を食べたと言っていたではないか。
僕がガーレッドに魔獣と戦ってほしくないと思っているからか、頭の中でハピーが戦力として数えられていなかったよ。
「言っておくが、霊獣はそこらの下級冒険者よりも役に立つぞ?」
「そうなんですか?」
「霊獣は本能的に魔獣を倒す方法を知っておる。それに加えて機動力もあれば主人に従順じゃから、裏切ることもない。最も信頼できるパートナーじゃからな」
「……でも、僕はガーレッドに魔獣と戦ってほしくはないです」
「まあ、そこは主人次第じゃな。ジンがガーレッドにそれを求めるのもいいのではないか? じゃが、霊獣は主人を守る為ならどのような行動も惜しまない。そのことは忘れるでないぞ?」
どうしてだろう。
グリノワさんの言葉は、僕の胸に深く刻まれたような気がした。
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