生産に従事出来そうです!

二度目の気絶は仕方ない

 目を覚ました僕が最初に見たものは――二度目となるゴツいドワーフのデカイ顔だった。


「どわあっ!」

「うおっ! め、目を覚ましたか!」


 ……はい、このやり取りも二度目ですが。


「全く、小僧は毎度毎度心配を掛けさせおって」

「今回は僕のせいじゃありませんよー」

「分かっておる。今回は、小僧の同行を許した儂の責任じゃ」

「えっ? いや、そういう意味で言ったんじゃないですよ?」


 今回のイレギュラーはあまりにも強烈過ぎたのだ。

 昔話やおとぎ話でしか出てこないような悪魔が現れたのだから仕方がない。


「それよりも、今回はどれくらい寝てたんですかね?」

「……はぁ」

「えっ、何ですかその溜息は」

「何でもない。今回は五日じゃな。魔力枯渇に加えて左腕のひび、更に細かな傷が多数あったからのう。そのせいで回復に時間が掛かったんじゃろう」


 言われて自分の体に視線を向けると左腕にはギプス、体のいたるところに包帯が巻かれていた。

 なんか、ミイラ男みたいだな。


「何故に包帯姿を見て笑っておる?」

「えっ? あー、気にしないでください、こっちの話ですから」

「いや、怖いからやめてくれ」


 ……ごもっともで。

 それにしてもここの病院は前に運ばれた病院と同じような気がする。見たことある天井だし。


「それと、これは内緒の話だがな……悪魔のことは隠されることになった」

「えっ? でも、あれが原因の非常事態ですよね?」

「……王都から、圧力があったみたいじゃ」

「あー、それって、決定的ですよね? 何でそんなバレるようなことするんですかね」


 圧力を掛けた側に原因があるなんて誰でも考えつきそうなことである。

 王都の人間がそのことに気づかないはずもないし、何か裏があるんだろうか。


「分からん。人の口に戸を立てることはできないからのう、このことはほぼ確実に漏れ伝わるじゃろうしな」

「ですよね。うーん、考えても分からないかも」

「小僧がそんなこと心配する必要はないぞ。それとな、小僧のおかげで全員が無事じゃったぞ」

「それなら良かったです。それと、フローラさんは……」


 無事なことは分かった。だけど、それは身体的な意味だろう。

 悪魔と対峙しただけであれほどの怯えを感じていたのだ、その心はどうだろうか。


「あの子はリューネが付きっ切りで看病しているぞ。精霊魔法は精神に語り掛けることも出来るからの。今回の一件への人選としては完璧じゃ」

「でも仕事に差し支えるんじゃ……」

「何やら後輩に丸投げしたらしいぞ。儂も会ったことあるし、仕事はできる子じゃから大丈夫じゃろう。……半泣きだったがの」

「そ、それはまた、ご愁傷様です」


 リューネさんは役所で『神の槌』専門の窓口として働いている。後輩さんもその仕事を少しずつ学んでいるのだろう。

 ……後輩ちゃんの心も大丈夫だっただろうか。僕が日本で死んだ時の泣き顔を見た時は本当に申し訳なく思ったものだ。

 今の僕が楽しく過ごしていると知れば頬を膨らませて怒り出しそうだけどね。


「……どうした、何か考え事か?」

「いえ、何でもありません」


 今の僕に出来るのは後輩ちゃんが普通の生活に戻っていることを願うだけだ。

 まあ、僕との関わりも他の社員とそれほど変わらない密度だったので無駄な心配かも知れないが。


「この調子だと問題なさそうじゃな」

「いや、この包帯姿を見て問題ないってどういうことですか」

「気持ちの部分じゃよ。他の奴らを呼んでくるから待っておれ」

「はーい」


 ゾラさんが部屋を出ていくのを見届けると、僕は今回の事件について考え始めた。

 圧力が掛かったことを含めて王都が関わっていることは明白だ。

 ならば、何故王都が悪魔と関わりを持っているのかである。

 悪魔は魔獣の上位種にあたるようだし、人間とあい入れることはないだろう。

 突発的なイレギュラーなのか、それとも狙って現れたものなのか、気になるところはそこである。

 仮に突発的なものであれば何を企んでいて悪魔が現れたのかを追及すべきだし、もし狙って現れたのなら――それはカマドが狙われていた可能性が高い。

 そうなれば王都が何かをしているという可能性とは別に、外部からの力が働いている可能性も浮上する。


「……もしくは、王都がカマドを排除したがっている?」


 ……いやいや、ないない。

 よりにもよって自国の産業の中心都市を排除するなんて、あり得ないだろう。

 一人で頭を捻っていると、扉がノックされてそのまま開かれた。

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