合流とこれからの行動

 一番興味を覚えたのはアシュリーさんのようで、真っ先に僕のところへ来ようとしていたのだが、ヴォルドさんが先んじて声を発してくれた。


「ザリウスがいないようだが?」


 足を止めたアシュリーさんが振り替える。

 内心でホッとしながらも、僕もホームズさんの行方が気になっていたので耳を傾ける。


破壊者デストロイヤーは例の暗殺者が現れた時点で単独行動になった」

「例のって、あのガキの暗殺者か?」

「あぁ。あいつは本当に戦闘狂だわ。身を隠すこともせずに大声で破壊者を呼んで、思う存分戦おうって言ってやがった」

「それにザリウスが応じたのか?」

「そういうことだ。まあ、交渉の部屋で戦うってなったら気を使うからな。単に俺達を巻き込まない為だったんだろう」

「……まあ、そうだろうな」


 実際に対峙しているヴォルドさんが同意を示した。

 森の中ではラウルさんとロワルさんが加勢しようとした時に止めていたので、交渉組を守りながらの戦闘では分が悪いと判断したのかもしれない。


「幸い、こっちに残った暗殺者は腕もそこそこだったからな。二人のおかげでずいぶん楽ができたけどよ!」


 そう言いながらガルさんはこちらを見て笑っている。

 僕は苦笑を返すに止めた。


「さて、それじゃあこれからの動きだが──」


 ヴォルドさんが今後の方針を話そうとした時、通ってきた通路から複数の足音が近づいてくる。そして──


「いたぞ! 魔導師隊、構え!」


 顔を覆い隠すほどの黒いローブを纏った魔導師が五人と、指示役の仮面を被った暗殺者。

 号令とともに魔導師隊が真っ赤な火の玉を顕現させると躊躇することなく撃ち出してきた。


「マジかよ! 城の中で魔法とか!」

「きゃああああああっ!」


 驚愕するガルさんに悲鳴を上げるシリカさん。

 メルさんがいない状況で魔法を防ぐには僕が魔法を使うしか……んっ?


「ピーピピキャー!」


 ……うん、火の玉なら問題なかったね。なんだか嬉しそうだし。


「ガーレッド、お願い!」

「ビーギャー!」


 僕はガーレッドを床に降ろして少し下がる。

 アシュリーさんが驚きに目を見開いているが、僕は視線を合わせて大きく頷く。

 僕以外の人たちの心配をよそに、ガーレッドは口を大きく開けて空気を吸い込み始めた。

 ケルベロスの炎を飲み込んだのである。城の中で扱える程度の火の玉は、呆気なくガーレッドの口の中に吸い込まれてしまった。


「……な、何が起きたんだ?」

「……いま、ガーレッドちゃんが、飲み込んだの?」

「……霊獣って、すごいのね」


 ガルさん、ニコラさん、アシュリーさんの順番で声を漏らす。

 交渉組の面々は何も言えずにただ固まっていた。


「よし! このまま魔法を……って、あれ? ガ、ガーレッド?」


 火の玉を食べたガーレッドの体が僅かに震えている。

 ケルベロスの炎を食べた時にもこのようなことはなかった。明らかに、様子がおかしい。


「ちょっと、大丈夫? ガーレッ──」

「ビィーギャー!」


 聞いたことのない声を出したガーレッドは、食べた五つの火の玉をそのまま敵に吐き返してしまった。

 慌てる魔導師隊と指示役の暗殺者。

 一人の魔導師が水の壁を作り出そうとしたのだが、火の玉は水の壁を難なく貫いて敵を吹き飛ばしてしまった。

 水の壁を貫くなんて、そんなにすごい魔法だったのかな。


「ピーキャキャキャー!」


 ……あー、うん。威力が底上げされてたみたいです。

 もしかして、これはガーレッドが力を溜めていたことに関係があるのだろうか。

 でもまあ、道は開けたのでよしとしましょう。


「さて! ヴォルドさん、これからどうしますか?」


 さすがのヴォルドさんもガーレッドには驚いていたみたいなので、僕から話を振ってみた。

 右手でこめかみを押さえているけど、とりあえず話を進めることが先決ですからね。


「……ガル、ザリウスの匂いは追えるか?」

「追えるが……まさか、負けるなんて思ってないよな?」

「思ってるわけないだろう。ガキをぶっ飛ばしたら、急いで援軍に来てほしいんだよ。そこで道案内を頼みたい」


 顎に手を当てて考え込むガルさん。


「……そっちの戦力は大丈夫なのか? 交渉組もいるんだぞ?」

「外に出ればグリノワさんと双子、メルもいるからな。そこまで行ければあとは問題ないだろう。……アシュリー、行けそうか?」


 ヴォルドさんの質問に、アシュリーさんは大きく頷いた。


「任せてください。私にはこれもありますから」


 そう言って僕が打った細剣レイピアの柄を撫でた。


「頼む。ニコラもそっちに同行してくれ」

「は、はい!」

「それとだな──ガル、これを持っていけ」


 ヴォルドさんが魔法鞄マジックパックから取り出したのは、宿屋で僕が打った雷切らいきりだった。

 始めてみる短刀に首を傾げていたガルさんだったが、鞘から抜き放ち刀身を眺めると、その視線は僕の方に向いた。


「わざわざ打ってくれたのか?」

「提案したのはヴォルドさんですよ」

「こんなことになる前までは暇だったからな」

「暇だったからって……だがまあ、助かるわ。ありがとな、ジン坊」


 苦笑するガルさんは雷切を腰に差してからお礼を口にしてくれた。

 その中で、僕はヴォルドさんが言っていた通りにガルさんが単独行動になるのかと不安になってしまう。


「その、ガルさん。気を付けてくださいね」

「……当然よ。こんなところで死ぬわけにはいかないからな」


 僕たちは大廊下に出るまでは全員で行動し、そこからは三手に分かれた。

 外に向かうアシュリーさんたち。

 ホームズさんを探すガルさん。

 そして、さらに奥へ進む僕とヴォルドさん。

 ガルさんはゾラさんとソニンさんの匂いもかぎ分けており、大廊下の奥にいるはずだと教えてくれた。

 ならば行くしかないだろう。

 二人が危険な目に遭っていないことを祈りながら、大廊下を奥に進むのだった。

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