城内

 予想はしていたけど城の中でも戦闘が行われている。

 兵士姿の敵がいる時点で最初から潜入されていたのではないだろうか。

 僕がそんなことを考えながら進めているのは、襲い掛かってくる暗殺者をヴォルドさんが片っ端から斬り捨ててくれているからだ。

 その手に握られているのは黒羅刀こくらとう

 宿屋で襲い掛かってきた暗殺者では鬱憤を晴らすことができなかったのか、ここでも嬉々として黒羅刀を振るっている。


「ヴォルドさん、すごいですね」

「……私はジン君の方がすごいと思うけど」

「僕が? どうして?」


 何かしただろうかと首を傾げていると、ニコラさんは宿屋での一件について口にした。


「鍛冶師だよね? あんな動き、中級の冒険者でもできないよ?」

「あー、あれですか。ちょっとスキルを器用に使っているだけですよ」

「器用に?」

「そう、器用に」

「キャキャーキャー!」

(――おっ、ガーレッドもごまかそうとしてるみたいだな)


 ここでエジルに返事をするとややこしくなりそうなので無視である。


「ところで、今は何処に向かっているんですか?」

「……とりあえず真っ直ぐだ」

「とりあえず! 当てはなかったんですね!」

「城の中に当てなんてあるはず無いだろう!」


 頭を抱えそうになっているニコラさんを横目に、僕は何か手がかりがないか視線を周囲へ向ける。

 これだけの敵が城に入ってきているのだ。護衛が戦闘をしていないなんてことはないはずだ。

 ならばどこかにあるはずなんだ――戦いの痕跡が。


「……何か、声が聞こえる?」


 僕は進行方向の右手にある通路に目を向ける。

 急に立ち止まった僕にヴォルドさんとニコラさんは顔を見合わせているが、気にすること無く耳を済ませた。


「ピッキャキャー! キャキャー!」


 僕より先に何かを感じ取ったのはガーレッドだった。

 霊獣れいじゅうは耳も鼻もいいのか? と思いながらも僕は確信を持つ。


「この先に交渉組はいます!」

「本当か!」

「はい。ガーレッドが何かを感じているみたいです」

「ガーレッドちゃん、すごい!」

「ピーキャー!」


 こんな状況でもガーレッドは我が道を行っており両手を上下にパタパタさせて可愛さを振りまいている。

 僕たちは一切の疑いを持つこと無く右の通路へと駆け出していった。


 不思議なことに右の通路では戦闘跡が一切なく、お城の通路ということでとても美しい造りが残されている。

 だが、その先からは確かに戦闘音が聞こえており、その音は僕やガーレッドだけではなく二人にも聞こえてきたようだ。

 そして――一番奥の部屋から交渉組が飛び出してきた。


「シリカさん!」

「ジ、ジン君!? それにヴォルドさんにニコラさんまで!」


 やっぱり僕は場違いな存在らしく、第一声が明らかに驚いていた。

 遅れてガルさんとアシュリーさんが暗殺者を押し留めながら出てくる。


「ヴォルドさん行ってください!」

「だが、ここが安全と決まったわけじゃないぞ!」

「大丈夫です」

(――おっ、俺の出番かな?)


 僕が銀狼刀ぎんろうとうの柄を触ると嫌そうに顔をしかめる。

 ホームズさんもそうだけど、ヴォルドさんも子供に戦わせるのを嫌っているのだ。

 僕だって戦いたくはないけれど、この状況でそんな我儘は言えない。言って誰かが怪我をしたり、死んでしまったら最悪だ。


「……分かったよ!」


 ヴォルドさんは頭を掻きながら無属性魔法を発動して一気に駆け出すと、交渉組を置き去りにして暗殺者の群れに飛び掛かっていく。

 僕とニコラさんが交渉組と合流して三人が制圧するのを待つことになった。

 だが――暗殺者は室内にいるだけではなかった。


 ――ガシャン!


 僕たちが通ってきた通路の窓を破って三人の暗殺者が姿を現したのだ。

 予想通りというか、なんというか。

 ガルさんとアシュリーさんは焦りの表情を浮かべていたが、すぐに困惑へと変貌する。

 それは僕が銀狼刀を構えながら二人に笑みを浮かべていたからだ。


(――それじゃあ行くか!)


 僕が、ではなくエジルが僕の体を使って暗殺者へと向かっていく。

 子供だからと甘く見られていたのか、暗殺者が弱かったのかは分からないが、一番近くにいた暗殺者は銀狼刀を持たない左拳でみぞおちを打ち抜かれ、一撃で意識を刈り取られてしまう。

 焦りだしたのは残る二人の暗殺者だった。

 一人は両手にナイフを持った長身痩躯、もう一人は手甲と足甲をはめた筋骨隆々の暗殺者。

 見た目にも全く違う二人の暗殺者は、連携が取れるのか同時に襲い掛かってきた。

 前に出てきたのは長身痩躯の暗殺者で、左右のナイフで首と足を同時に狙ってくる。

 首のナイフを銀狼刀で受け、足のナイフは軽く飛び上がり回避。

 すかさず筋骨隆々の暗殺者が横合いから殴りかかってきた。


(――水弾)

「ぶふうっ!」


 エジルが高速でごく少量の水弾を生成して撃ち出すと、変な声を上げて筋骨隆々の暗殺者が吹き飛び窓の外へと消えていった。

 何が起きたのか分からなかった長身痩躯の暗殺者は明らかによそ見をしている。


(――ザコだな)


 右足を軸にしての回し蹴りが脇腹に直撃、骨が砕ける鈍い音を残して通路の先へと転がっていくと、そのまま気を失ってしまった。


(――……つまらん)


 エジルの呟きとともに体の自由が僕に戻ってきたので振り返ると、唖然としている交渉組とニコラさん。その先ではガルさんとアシュリーさんが同じ表情を浮かべている。

 ……ヤバい、やり過ぎたかな?

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