騒動
城門へ向かう途中、住民たちが城の方を見ながら不安そうな顔を浮かべている。
自分たちが暮らす都市、それも国の中心である王都での襲撃なのだからそれも当然だろう。
そして向かっている途中にラウルさんとロワルさんと合流することができた。
「そっちは大丈夫だったのか?」
「ザコだけでしたよ」
「斥候だからって甘く見られたんでしょうね」
ヴォルドさんの質問に二人は簡潔に答える。
その手に握られている武器を見て、僕だけは場違いにも嬉しくなっていた。
「ナイフ、使ってくれたんですね」
「おー、これめっちゃ使いやすくてな。早速使わせてもらってるよ」
「俺も俺も。まあ、ロワルの方が質の良いナイフを貰ってたから若干の嫉妬だわ」
「あはは、ロワルさんが先に選びましたからね」
カマドから出発した初日のお昼休憩であげたナイフ。
ラウルさんは斥候として出ていたので、戻ってきた時にはロワルさんが一番出来の良いナイフを選んだ後だった。
「目利きができてたってことだな」
「こっちも上物だからいいんだけどな」
「お前達、無駄口はそれくらいにしておけよ――見えてきたぞ」
ヴォルドさんに言われて僕は視線を前に向ける。
「……酷い」
城門前では多くの兵士が倒れており、立っている兵士も僕たちを襲撃してきた仮面の暗殺者と戦っている。
「……でもこれ、おかしくないですか?」
「……兵士同士も戦ってるね」
ニコラさんの疑問をメルさんがそのまま口にしている。
仮面の暗殺者が敵だということは明白なのだが、なぜか兵士同士で戦っているところもあり、誰が味方で誰が敵なのかがはっきりしない。
これではニコラさんが回復魔法を使おうにも誰に使っていいのか判断がつかないよ。
「ニコラは俺達だけに魔法を使え! 他の兵士達は無視して構わん!」
「だけどヴォルドさん!」
「敵を回復させる方が面倒だ! それに兵士達には兵士達を回復させる魔導師がいるだろうよ!」
こちらの戦力を削る理由にはならないとヴォルドさんは言っているのだ。
あくまでもこちらは冒険者であり、城を守る兵士ではない。
もちろん城が、国が落ちてしまえば僕たちも大いに困る。ならばここは突っ切ってしまえということなのだろう。
「交渉組のことも気になるからな」
そう言って突っ込もうとした時だ。
僕たちの前に立ちはだかったのは仮面の暗殺者だった。
「まあ仮面をしてる分、敵だってはっきりしてるから戦いやすいか!」
言いながら背中に差していた
黒光りする刀身に仮面の暗殺者は明らかに狼狽する。
そこに突っ込んで行ったのは――遅れてやってきたグリノワさんだった。
「がーははははっ! こ奴らは儂が引き受けるぞ!」
「……グ、グリノワさん」
気勢を削がれたヴォルドさんは呆れ顔で、他の面々はグリノワさんの突然の登場にぽかんとしている。
その間にも狼狽していた仮面の暗殺者はメイスの餌食となり一瞬で地面に伏していた。
「ラウルにロワル! 何をぼーっとしておるか! お主らは儂と来い!」
「えっ!」
「お、俺達ですか!」
「お主ら以外に誰がおるんじゃ! ヴォルド達は先に行けい! ……んっ?」
そこでようやく気づいたようだ、僕の存在に。
「何故にジンまでここにおるんじゃ?」
「色々ありまして。それに一人でいるよりは一緒にいる方が安全ですから」
「……まあよいか。ヴォルド! ジンをしっかりと守るんじゃぞ!」
「二人のことはお願いします」
「俺達も戦えますよ!」
「甘く見ないでください!」
ヴォルドさんはグリノワさんの真意に気づいていたようだ。
今の言い回しだと、グリノワさんがラウルさんとロワルさんをサポートしながら城門を死守するのだろう。
まあ、二人は不本意みたいだけどね。
「当然、働いてもらうぞ!」
「「はい!」」
「……私もここに残った方が良さそうだね」
そしてメルさんは自主的に城門に残ると言い出した。
「魔法を城の中で使うわけにはいかないもの。ここならまあ、大丈夫かもしれないし」
ちょっと怖いことを言っているけど間違いではない。
そのことを理解したのか、グリノワさんは頷いておりヴォルドさんも止めることはしなかった。
「それなら俺とニコラ、小僧の三人で交渉組と合流する。そのままゾラ様達を助けるぞ。ついでに王を助けられれば恩を売れるってもんだ」
「王様を助けるのがついでですか」
「まあ、結果的にそうなるんだろうなってことだよ」
どういうことだろう。
疑問ではあったが時間を無駄にするのは今の状況では愚策である。
僕たちはグリノワさんたちと分かれて城の中へと侵入した。
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