突然の……
呆気にとられていたのは僕だけではない。二人も両手で頭を抱えている。
そもそも、そのような大金をどこから持ってきたのだろうか。まさか役所が出すわけでもないだろうに。
「これは俺の個人資産だ」
「……太っ腹ですねー」
「ちゃんと取り返すから安心しろ」
「取り返すって、どうやって?」
「国が相手なんだぞ? もしくは国家騎士か。ならばそっちからふんだくってやればいい」
悪い顔を浮かべるヴォルドさんに僕は溜息をついてしまう。
「それ、絶対上手くいくとは思えないんですけど」
「私も」
「グランデさんの全損に賭けてもいい」
僕、ニコラさん、メルさんの順番で失敗すると予言する。
「失敗は許されん。俺のほぼ全財産をつぎ込んでいるんだからな。あわよくば少し色を付けてもらう予定にもなっているんだ!」
「なるほど、それが本音ですか」
「ぐぐっ!」
盛大な溜息をつく僕たちを見てヴォルドさんも心配になったのだろう。ちょっと主人に話をしてくると言った――直後だった。
――ズウウウウゥゥン。
地面が揺れるほどの大きな爆発音が響いてきた。
お互いに顔を見合わせた僕たちはすぐに外へ出て音のした方へ目を向ける。
「……嘘、でしょ?」
「……戦争?」
ニコラさんが声を震わせ、メルさんが呟く。
真っ昼間だというのに赤い炎が建物の間や上からちらちらと見え隠れしている。その後からは黒煙が上がり確かに視線の先で爆発が起きたのだと確信を得る。
だが、その先というのが――
「城で爆発とか、あり得ないだろ!」
そう、城なのだ。
王都の警備も頑丈だろう。それでも襲撃はあったのだが、城の警備は王都の警備と比べても雲泥の差があるかもしれない。
そんな城から爆発が起こり、炎と黒煙が舞い上がっている。
これはただごとではないと僕たちだけではなく、王都に暮らす住民誰もが思っていた。
「俺達も向かうぞ! 城には交渉組が――!」
そう言いかけたヴォルドさんは
――キンッ!
音の後に何かが地面に落ちる。
落ちた先に視線を向けると、刀身が両断されたナイフだった。
「城だけじゃなく、こっちにも人を寄越したのかよ!」
「ほ、他の人達は!」
「今は自分の心配をしろ!」
ニコラさんの言葉を半ばで遮りヴォルドさんは襲撃者に目を向ける。
数は四、前衛はヴォルドさんだけであり、街中で魔法を放つ訳にはいかないのでメルさんと回復役のニコラさんは戦力外。
さすがのヴォルドさんでも一人で四人を相手にするのは厳しいかも。
(――呼んだかい?)
そこに響いてきたとある男性の声。
「やっぱり出てきたか――エジル」
(――ふっふーっ! このピンチの場面で出てこないほうがおかしいでしょ?)
「確かにね」
突然喋りだした僕にヴォルドさんたちは困惑顔だが、ここは気にしている場合ではない。
「体を貸すから切り抜けられる?」
(――これくらいなら余裕だな。それと、憑依の能力も進化してるから楽しみにしておけよー)
「んっ? それってどういう――うわあっ!」
「どうした小僧!」
僕の悲鳴にヴォルドさんが振り返ろうとしたが、そのタイミングで三人の襲撃者が襲い掛かってきたので仕方なく迎撃にあたる。
その様子を僕は自分の視界で、自分の意志で見ていた。
「うおっ!」
意識は僕のままで声も僕が発している。だが体だけは僕以外の意志――エジルの意志で動いているようだ。
ガーレッドをニコラさんへ放り投げた体はすぐに
「がああああぁぁっ!」
「……あっ、熱傷効果か」
(――どうどう、すごいんじゃないかな?)
「僕の意志を残しながら体だけを……って、体も動くけど?」
(――ふっふーっ! 今回は俺が必要と思った時にだけ瞬間的に憑依させてもらったんだ! そうすることで常に憑依するよりも持続時間も長くなるし、ジンの負担も減るから気絶する確率も減らせるはずだよ)
僕とエジルが普通に会話をしている姿は、他の人から見ると子供が独り言を話しているように見えるので変な子供として映るだろう。
ただ、変な子供だと一番驚いているのは襲撃者かもしれない。
警戒していたヴォルドさんではなく、完全無警戒だったはずの僕が指示役を一撃で斬り伏せてしまったのだから。
「――よそ見するんじゃねえぞ?」
そして襲撃者の隙を見逃すようなヴォルドさんではなかった。
巨体に似合わず素早い動きで残る三人の襲撃者に襲い掛かると、一〇秒ほどで地に伏せてしまった。
(――わお。あの人もなかなか強いね)
「通り名持ちだよ」
(──……ふーん。
ふむ、今の言い方だとヴォルドさんは強いけどエジルが認めるほどではないってことなのかな。
それって、本調子じゃないホームズさんがとても強いってことにつながるけどね。
「小僧! 今のはいったい……」
ヴォルドさんか近づいてきたところに小声で耳打ち。
「スキルです」
「……ちっ、そういうことかよ」
憑依についての説明もしているのでそれだけで伝わってくれた。
後ろの二人は変な人を見る目をしてるけど気にしないでおこう。
「俺達は城へ急ぐぞ!」
「グランデさん、他の人達は?」
「あいつらも冒険者だ、なんとかするさ」
信頼しているのだろう。きっとグリノワさんやラウルさんたちも城を目指すはずだと。
僕たちはヴォルドさんの指示のもと駆け出したのだが、ここでこんな考えをしているのは僕だけだろう。
「……ヴォルドさん、やっぱりお金が無駄になりましたね」
「……言うな、気づいてるから!」
お金ももちろん、先ほど意気揚々と話していた作戦も無意味になっている。
なんだか可哀想だなぁ。
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