城内探索
大廊下を進みながら襲い掛かってくる暗殺者や兵士たちをヴォルドさんが倒していく。
その際、
「兵士は敵か味方か分からんからな。気絶させるのが一番だ」
「役に立ったでしょう?」
「……まあな」
兵士の場合は単純に城に潜入してきた不審者を追い払おうとしている可能性もある。
説明している時間もなく、また敵だった場合は問答無用に攻撃される恐れもあるので峰打ちが一番なのだ。
「それにしてもヴォルドさん。迷うこと無く進んでますけど、城の中に入ったことがあるんですか?」
「俺がか? あるわけ無いだろう。俺はただ一番でかい道を選んでいるだけだよ」
「……そうでしたか」
そんなメチャクチャな理由で道を選んでいいのかと疑問は浮かんだものの、僕だって道を知っているわけではないので何も言わなかった。
こんなことならガルさんに道案内をしてもらった方が良かったんじゃないかと思ったが、ある程度の指針はもらっていたのでいいのかもしれない。
もしかしたらホームズさんの加勢が何よりも重要だとヴォルドさんの中で判断されたということだろうか。
「――いたぞ! あいつらだ!」
「ちっ、また魔導師隊かよ!」
「撃て! 撃てーっ!」
後方から追いついてきた魔導師隊からはまたもや火の玉を放ってきた。
城の中なのだから火の玉以外の攻撃手段もあっていいのではないかと思うのだがどうなんだろう。
まあ、僕としてはガーレッドがいるので大歓迎なんだけど。
「ビーギャーッ!」
……ほらね? 吸い込んじゃった。
そして吐き出された威力が底上げされた火の玉に魔導師隊は吹き飛ばされてしまう。
「な、なんだあいつは!」
「火属性はダメだ! 他の属性で攻撃しろ!」
おっ、中には冷静な人もいるようだ。
だけどそうなるとガーレッドでは対応できなくなってしまう――そう思っていたのだが、そうでもなかったようだ。
炎を吸い込んだり、今日は吸い込んだ火の玉を吐き出したりしていたガーレッドだが、今回は何もないところから火の玉を吐き出した。
風の刃と水の塊が殺到する中、すべてがガーレッドの火の玉に魔力が霧散してしまいただの風、もしくは水に変わってしまう。
火の玉はというと、勢いを全く衰えさせること無く突き進み
こうなってくると僕の存在がいらなくなってしまうのではないかと思い始める。
接近戦はヴォルドさんが、遠距離戦はガーレッドが対処してくれる。
(――あー、暇だ!)
案の定エジルがぼやき始めてしまった。
ヴォルドさんが戦ってくれることは護衛だから当然だと理解できるけど、ガーレッドまで戦ってくれている中で親である僕がただ見ているのもなぁ。
(――ジンも魔法で援護したらいいんじゃないか?)
「僕が? エジルがじゃなくて?」
予想外の提案に問い返してしまった。
(――俺がやってもいいけど、それだとジンが暇じゃない?)
「エジルだって暇だろうに」
(――こいつら、ザコなんだもんよ)
……そうですか。
「じゃあ、僕もやっちゃおっかな」
「何だ、折り合いが付いたのか?」
「はい。エジル……あー、憑依の本体の方は敵がザコだからやる気が出ないみたいです」
「何だそりゃ? それで小僧が参戦するってのかよ」
「ガーレッドが戦っているのに、僕が何もしないわけにはいきませんからね」
「ピキャキャー?」
上目遣いで見てくるガーレッドの頭を撫でながら僕も参戦を決意する。
それにしても、城とはこれほどに広いところなのか。暗殺者に何度か足止めを食っているとはいえ、無属性魔法を駆使して結構な距離を走っているのに目的地にまだ到着しない。
目的地に向かえているのかも定かではないのだが。
「今度は待ち伏せタイプかよ」
進んで行った先、仮面の暗殺者五人がこちらを見ている。
魔導師は見当たらず、ここは僕の出番かとどのような魔法を使おうか考えていると、ここでもガーレッドが火の玉を吐き出してしまった。
「散開!」
後方にいた暗殺者の号令で火の玉を回避しながら五人がそれぞれの武器を手に襲い掛かってきた。
だが、ヴォルドさんもすでに動いていた。
火の玉に隠れるように前進していたヴォルドさんが長剣を構えていた先頭の暗殺者を一撃で斬り伏せる。
突然のことに短剣を構えていた暗殺者が動揺を見せると、即座に間合いを詰めて斬り上げ、左腕が斬り飛び絶叫がこだました。
長槍を握りしめた暗殺者が間合いの長さを活かしてヴォルドさんを牽制し、逆側からは短槍を両手に握りしめた暗殺者が連撃を浴びせていく。
長槍を回避し、短槍を黒羅刀で受けながら隙を狙っているヴォルドさんだったが、ここで後方から指示をしていた最後の暗殺者が大剣を構えて僕を狙い近づいてきた。
「小僧!」
「かまいたち!」
僕は咄嗟に目の前の空間にかまいたちを発動する。
見えない風の刃が暗殺者に襲い掛かる――が、自身が傷つくことを気にすることなくかまいたちの嵐の中を突き進み、ついには突破してしまった。
(――根性だけは合格、ただザコに変わりないな)
左手にガーレッドを抱いたままでエジルの意思が右手で握る
超一級品である銀狼刀が、業物かも分からない大剣を両断。
驚愕に目を見開く暗殺者めがけて流れの中から袈裟斬りを放つ。
「ごふっ!」
その場に膝を付き、ゆっくりと倒れていく。
血だまりが出来上がっていく様子を見ていた僕は吐き気を催したが、何とか耐えて視線をヴォルドさんへ向ける。
そこでは短槍使いを斬り伏せて、長槍使いを相手に完全に優位に立っている様子が見えたので僕はほっとした。
(――ジン、魔法を使うなら相手を見てから考えちゃあダメだよ)
「……そうだね。あまりにも判断が遅すぎるんだね」
(――そういうこと。でもまあ、あの一回でそのことが分かれば後は大丈夫かな)
「どうだろう。血だまりを見て吐きそうになっているんだよ?」
(――これは敵が接近しちゃったから仕方ない。魔法で遠くから仕留められればこうはならないさ)
……そうならいいんだけどな。
僕は自分の不甲斐なさに落ち込みながら、ヴォルドさんが長槍使いを倒す姿を眺めていた。
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