素材選び

 僕はガーレッドをベッドに乗せると、すぐに魔法鞄マジックパックから素材を選び始めた。

 銅とキルト鉱石はそのままにしておき、それ以外の素材をとりあえず出していく。

 貰った時に一通り見てはいたけど、改めてみるとその量に驚かされる。


「……この中から選ぶのかぁ」

「ピー」


 ガーレッドも呆れ声を漏らしている。

 魔獣の素材を錬成したい気持ちもあるが、失敗してラウルさんとロワルさんをカマドに留めてしまうのは申し訳ない。

 初めての素材はどれも難しいだろうけど、魔獣の素材よりかは普通の素材の方がいいだろうと考えて、魔獣の素材は省く。

 そうして残った素材は七種類。


「一応、全部確認はして付箋を貼ってるけど……その特性までは分からないんだよなぁ」


 一番最初、ホームズさんと確認をした時にメモ帳を貰い、魔獣の素材かそうでないか、素材の名前は聞いていたが、特性までは聞いていない。

 ライトストーンのように軽かったり、重亀へヴィタートルの甲羅のように重かったり、等々。

 斥候を務める二人には重いものはダメだろう。逆に軽過ぎたりすると扱いになれるまで時間が掛かる可能性がある。

 ある程度の重みがあり、斬れ味も追求したい。

 特に二人に渡した失敗作のナイフ以上の物を打たなければ意味がないだろう。


「……これは軽い……これは重い……これも重い……うーん……」


 自分で何度も持ち上げて重さを確認する。

 そして、僕は素材を三種類に絞った。


「ミスリル鉱石、アスクード鉱石、エルフリム鉱石の三種類か」


 僕は三種類の鉱石を他の素材と同様に魔法鞄へ戻して、そのままソニンさんの部屋に向かうことにした。


「ソニンさんからアドバイスを貰おう」


 分からなければ、知っていそうな人に聞けばいいのだ。


 早足でソニンさんの部屋に向かっていると、先の方からカズチが姿を現した。


「カズチ!」

「ジンじゃないか、どうしたんだ?」


 僕は事情を説明して、これからソニンさんの錬成部屋で錬成を行うことになったと伝える。

 すると、予想通りの反応が返ってきた。


「俺も行っていいか?」

「もちろん。一緒にいこう」


 というわけで、僕はカズチと一緒にソニンさんの錬成部屋にやってきた。


「おや? カズチもいるのですね」

「ちょうどそこで会いまして。一緒にでもいいですか?」

「いい勉強になるでしょうから、構いませんよ」

「ありがとうございます!」


 笑顔で了承してくれたソニンさんは、すぐに僕へ向き直る。


「それで、素材は何を使うのですか?」

「それなんですが、ソニンさんに相談したくて。三種類まで絞ったんですが、素材の特性が分からなくて」


 そこまで説明した後、僕は三つの鉱石を取り出した。


「ふむ、ミスリルにアスクードにエルフリムですか。よくこのような高価な素材を持っていましたね」

「ホームズさんから貰った素材の中に入ってました。魔獣の素材もあったんですが、さすがに無理があると思って省きましたけど」

「ま、魔獣の素材って、マジかよ」


 驚いていたのはカズチである。

 ……いや、どうやら声に出してはいないがソニンさんも驚いているようだ。

 だって、口を開けたまま固まっているんだもの。


「……はぁ。ザリウスさん、昔の感覚が戻ってきているのかしら」

「昔のって、冒険者の時のですか?」

「そうです。まあ、変な素材でなければいいんですけどね。ちなみに、その素材は?」

「魔法鞄に入ってますけど……見ますか?」

「一応、確認だけでも」


 うーん、魔獣の素材も結構な数があったんだよね。

 とりあえず、一番ヤバそうに感じた素材を出してみようかと考えて、僕はホームズさんが珍しいと言っていた素材を取り出すことにした。


「……これって、もしかして、ですか?」

「えっと……あぁ、そうみたいですね。これも高価な素材なんですか?」


 ……あ、あれ? 何故だかソニンさんが顔を覆って溜息をついているだが。


「それは、上級魔獣の素材です。言っておきますが、ケルベロスよりも強力な魔獣です」

「……えっ、でもそれって、ホームズさん一人で倒して剥いできたってことですか?」

「……マジかよ」


 ホ、ホームズさんにこそ自重という言葉が必要なんじゃないだろうか。

 僕は結局、ケルベロスの結末を見ていないけど、多くの冒険者が協力してくれたと聞いている。

 そんなケルベロスよりも強力な魔獣を一人でって……やっぱり怪我は完全に治ってますね。それも、当時は体も鈍っている時のはずだし、今はどうなっているのやら。

 ……ホームズさんなら、王都を一人で潰せるんじゃないか? いや、そんなことは絶対に起こらないけどさ。


「とりあえず、この素材の錬成は今後考えましょう」

「ヤバそうなのはこれくらいだと思います。他の素材はヤバそうに感じなかったので」

「……まだあるのですか?」

「鉱石類と同じくらいあります」

「……マジかよ」


 もうカズチが同じ言葉しか発しなくなってしまった。

 ソニンさんも何やら諦めの表情となり、僕が最初に見せた三種類の素材について説明を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る