鍛冶師として
見習いを卒業するのは寂しい気もするけど、こうなったらいっそのこと、とことん鍛冶師として働こうと思う。
「僕が打った武器は一度ゾラさんに見てもらってから販売されるんですか?」
「それが良いじゃろうな。そこでランク別に分けてどこで販売するかを決めよう」
「それじゃあ、誰かにあげる用は見せる必要はありませんか?」
「あげる用?」
首を傾げるゾラさんだったが、僕には剣をあげたい人が何人かいるのだ。
それは王都へ共に向かった冒険者たち。
「ヴォルドさんやガルさん、アシュリーさんにはその場で鍛冶をして剣をあげてますけど、他の人にはあげられてないんです。せめて、僕から渡したいなと思いまして」
ラウルさんとロワルさんにはナイフをあげたが、あれはいわゆる失敗作である。
ちゃんとしたナイフをあげたいと考えているし、グリノワさんには何もできていない。
ニコラさんとメルさんには……何もできないのでどうしたらいいのか迷いどころだけど。
「それは構わんぞ」
「私も構いませんが、冒険者の中には魔導師もいたんじゃないの?」
「ニコラとメルだな。だが、あいつらは剣もナイフも使わないぞ?」
「ですよねー。二人にはどうしたらいいと思います?」
僕の質問に、ソニンさんがすぐに返してくれた。
「でしたら、お二人には私が杖をお渡しいたしましょう」
「えっ! でも、いいんですか? 僕が勝手に思いついたことなのに」
「実際に助けられたのは我々ですからね。これくらいはやってあげなければ」
「では、グリノワには儂からメイスを作ってやるか。今使ってるのより、数倍良いやつを作ってやるかのう」
「ゾ、ゾラさんまで。……あれ? でも、そうなったらラウルさんとロワルさんにだけ打つ感じになりそうですね」
こうなると、二人もゾラさんに打ってもらいたいんじゃないかと思うけど、どうしたものか。
「……二人にはゴブニュ様の武器を持たせるのはまだ早いから気にするな」
「ヴォルドさん、そんなこと言っていいんですか?」
「いえ、ヴォルドの言う通りですよ」
「ホームズさんまで」
「コープスさんの武器が劣るわけではないですが、やはりまだゾラ・ゴブニュの打った武器、という看板を背負わせるには荷が重いでしょうね」
二人はまだまだ上級冒険者に成り立てと言っていたし、先輩冒険者が言うならそうなのだろう。
ならば、僕はゾラさんに負けないくらいのナイフを打ち上げて、二人を満足させるのが仕事だね。
「よーし、頑張るぞ!」
「その前に小僧、鍛冶をするなら素材の準備はできておるのか?」
「……できてません」
わ、忘れてたよ!
錬成済みの素材は銅とキルト鉱石しかないから、最高の出来になっても、三人に渡した武器とは大きな差が出てしまう。
打つなら、素材選びからやらなければならない。
「素材選びが、鍛冶師としての最初の仕事なんですね」
「その通りじゃ。して、どうするんじゃ?」
「うーん……ホームズさんとユウキから貰った素材の中に良いのがあれば、それを錬成して打ちたいですね」
鍛冶部屋の使用も制限が掛かっていたことで、貰った素材は一切使用していない。
錬成の授業の素材だったり、カズチや先輩たちからもらった素材で事足りていたのだ。
それも練習だったからよかっただけで、誰かの為に打つなら満足のいく錬成がされた素材で打たなければならない。
「ソニンさん、錬成を見ていただけませんか?」
「それはいいですけど、まだ銅の錬成しかやったことがないですよね?」
「それは……」
鍛冶の時はすでに錬成された素材を使って
魔獣の素材とは言わなくても、初めての素材を錬成するのも至難の技だろう。
「……ソニンさん、教えてください!」
「……はぁ、そう言うと思いました。でしたら、錬成する素材が見つかれば私の部屋に来なさい」
「ありがとうございます!」
錬成を教えてもらえるだけじゃなくて、錬成ができる! これは最高の結果だね!
「それじゃあ、俺はみんなにお礼があるってことを伝えておくか」
「いいんですか?」
「そうじゃないと、護衛依頼とかでカマドを離れるかもしれないからな。ガルなんて、もう別の都市に向かっちまったぞ」
「は、早いですね」
ガルさんは休まなくて大丈夫だったのだろうか。
「まあ、俺たちは冒険者だからな。特にガルは一ヶ所に留まることをあまりしないんだ。そのうちにまた会えるさ」
「……そうですね。その時には雷切の使い心地を聞かないといけませんしね。それじゃあ僕は急いで素材を選びます!」
「私は部屋で待っていますね」
「儂は少しホームズとヴォルドと話があるから、ソニンに任せるぞ」
僕はゾラさんの私室を出ると、その足で部屋に戻っていった。
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