どこに行こうか
ユウキとフローラさんを本部の前に待たせて、僕は本部に戻りカズチとルルを見つけた。
ところが、ふたりは何故か頭を捻っている。何かあったのだろうか?
「ふたり共、どうしたの?」
「おう、戻ったか」
「おかえり、ジンくん」
こちらに気づかないくらい考え込んでいたみたいだね。本当に何があったんだろう。
「外にユウキとフローラさんを待たせているんだけど、何かあったの?」
「あー、やっぱりフローラさんも来てるよな」
「そうなるとここじゃできないよね」
「えっと、何の話?」
僕だけ蚊帳の外になっているんですけど。
「あぁ、すまん。ルルの勉強会なんだけど、どこでやろうかなって話だ」
「どこでって、僕の部屋でいいんじゃないの?」
「それがそうもいかないんだよ」
「どういうこと?」
「本部に部外者を入れる場合、棟梁か副棟梁の許可が必要になるの。これはどのクランでも同じだと思うけど、貴重品や色々な資料も沢山あるわけだから仕方ないんだよ」
情報漏洩だったり、盗難を防ぐための対策ってことか。
ユウキが来たときはゾラさんもソニンさんもいたから問題はなかったけど、今回はどちらも忙しくてすぐに話を通すこともできないってことなのかな。
「ホームズさんは?」
「棟梁と副棟梁がいない間はなるべく問題を起こしたくないから、人の出入りは少なくするように言われているみたいだ」
「だから外でと思っているんだけど、どこに行こうかなって話していたんだ」
よく考えれば僕は下宿させてもらっている身である。
そこに部外者を勝手に入れることが難しいことくらい考えれば分かっただろうに……行き当たりばったり、ここにも出ちゃったよ。
「ふたり共外にいるんだろう? どうせならふたりにも相談してみよう」
「そうだね。近場でいい場所があるかもしれないし」
「……そうだね」
「どうしたんだ? 急に暗い顔をして」
「いや、僕の役立たず加減に嫌気がさしただけです」
「……何を言ってるのか意味が分からんが、とりあえず行くぞ」
最近カズチが冷たいです。僕の気のせいでしょうか。
「行くよ、ジンくん」
そしてルルも気にしていないようです。
「……ふたり共、酷い」
「いや、なあ」
「だって、ねぇ」
「……なに?」
「ジンだし」
「ジンくんだから」
……結局そうなるのね!
いや、分かっていたけどはっきり言われると傷つくんだよね!
そんな僕を気にすることなくうさっさと行ってしまったふたりの背中を見つめながら、僕は肩を落としてユウキとフローラさんのところへと向かった。
僕の姿を見たユウキとフローラさんは苦笑を浮かべていた。
「ふたりから話は聞いたよ。ジン、気にし過ぎじゃないのかい?」
「だって、本当のことだし」
「君が役立たずだと、僕だって役立たずになっちゃうんだけどな」
「私もです。役立たずに助けられた私たちは、もっと役立たずってことですよね?」
「えっ、いや、そんなことはないでしょ」
完全に揚げ足取りみたいになってるんですけど。
「俺だって錬成で抜かれたわけだから、役立たず確定だな」
「私は何もしていないから、私も?」
「いや、みんなどうしたの?」
「どうしたのって、ジンが落ち込んでるから励ましてるんだけど?」
ユウキの言葉に僕はマイナス思考になっていたことを自覚した。
……それも子供に心配されるくらいバレバレだったわけだから、相当落ち込んでいたみたいだ。
なんか、超恥ずかしいんですけど!
「ご、ごめんなさい!」
「なんで謝るんだ?」
「えっと、その……とにかくごめん!」
「あはは、もういいから。とりあえず、どこで勉強会をするかだったよね」
話をサラッと流すところがユウキらしい。
この子は本当に良い子だね。将来は素晴らしいお父さんになるだろうな。
「カフェとかじゃできないのかな?」
「お金が掛かるしなぁ」
「外でやるのはいかがでしょうか。魔法を使うわけですし」
「カマドの近くなら大丈夫かな。魔獣が少し気になるけど」
「魔獣は、嫌だなぁ」
ルルは女の子だし、カズチも非戦闘員である。
僕も戦闘はできるけど非戦闘員として扱ってもらいたいのであまりオススメはしたくない。
しかし魔法を使うなら外がいいのも確かだし……悩むなぁ。
せめて大人がひとりでもいてくれたら外でも問題はないと思うけど、その為に冒険者を雇うのは結局お金が掛かるし意味がない。
「うーん……それなら僕の家でやろうか?」
ユウキの唐突な意見に僕もみんなも一斉に振り向いてしまった。
「ユウキの、家?」
「そう。ライオネル家が住むところまでは用意してくれたから無駄に大きいんだよね。僕ひとりしか暮らしてないし、魔法が使えるくらいの庭もあるから問題ないと思うよ」
「……ユウキ」
「どうしたの、ジン?」
「本当に良い子だねぇ!」
「えっ、何、どうしたの?」
「あー、ユウキ、気にするな。ジンはたまによく分からないことを言い出すから」
カズチの説明はなかなかに酷いと思ったけど気にしない。
僕はユウキの手を固く握り何度も上下に振っているのだから。
「そ、それじゃあ、とりあえず向かおうか。みんなもそれでいいのかな?」
頷くルルとフローラさんを見て、ユウキを先頭に僕たちは歩き出した。
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