ユウキとフローラ
ソファで待ち始めてから十分程経った時、入口からユウキとフローラさんが姿を現した。
「ユウキ、フローラさん」
「あれ、ジン?」
「コープス様、お久しぶりです」
首を傾げるユウキと深く頭を下げるフローラさん。
僕は時間もあまりないのですぐに本題に入ることにした。
「実はルルから魔導スキルについて教えてもらうことになったんだけど、ユウキにも先生を頼めないかと思ってさ」
「僕が先生? 魔導スキルは持ってないんだけど」
「だけど詳しいよね」
「一応、勉強はしたけど」
「いいんじゃないですか?」
助け舟を出してくれたのはフローラさんだ。
「最近のユウキ様は働き過ぎだと思います。たまには息抜きも兼ねてご友人の方々と触れ合うのも良いと思いますよ」
そして、なんて落ち着いた話し方をするんだろう。病室で大泣きしていた時とは比べようもないね。
「うーん、僕で役に立つかなぁ」
「絶対役に立つよ――そうだ!」
僕はなんて頭がいいのだろう。
とても素晴らしいことを思いついたのだ!
「依頼って形にしたら問題ないよね!」
「そんなことしなくてもいいよ!」
あれ、何故に怒られたのだろうか。
「分かったから、僕も参加させてもらうよ」
「……もしかして、迷惑だった?」
ものすごく無理やりお願いしたみたいになってしまった。
これは非常に申し訳ないなぁ。
「そんなことないよ。ただ、本当に僕で役に立てるのか分からなかったから逆に迷惑をかけるかもしれないって思ったんだ」
「大丈夫だよ。それに、ユウキがいてくれた方が楽しく勉強できそうだしね」
「そ、そうかな?」
「そうだよ」
少し照れくさそうに頭を掻くユウキを微笑みながら、優しく見守っていたフローラさんに向き直る。
「フローラさんも一緒にどうですか?」
「わ、私ですか?」
「ユウキと依頼を受けるつもりだったんでしょう? 時間が空いちゃうわけだし、みんなで学びませんか?」
冒険者を続けることを選択したフローラさんにとっても魔道について学ぶことは今後の生存率にも大きく直結するはず。学んでいて損なことはないだろう。
「でも、いいのでしょうか。ご友人たちとの団欒を邪魔してしまいませんか?」
「そんなことはないですよ。みんなで学んだ方が楽しいし、それに僕たちはもう友達でしょ?」
今のフローラさんには少しでも気を許せる人が必要だろう。
普段の生活に戻ってはいるものの、心の傷がそう簡単に治るとも思えないし。
ユウキ以外にも僕やカズチ、同性としてルルとも仲良くなってもらいたいのだ。
「……では、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
ダリアさんに声をかけたら僕たちは冒険者ギルドを出ると、そのまま本部へと足を向けた。
歩きながらユウキとフローラさんがどのようにパーティとして冒険者をこなしていたのかを聞いてみた。
「僕は普段と変わらなかったかな。午前中はカマド内でできる依頼を受けて、午後は魔獣討伐や外の依頼を受けてたよ。フローラさんが一緒だから討伐もはかどるし助かってるんだ」
「私もユウキ様とパーティを組んで初めて都市内の仕事の重要性を認識しました。都市に住む人が満足していなければ生活が滞ってしまう。そうなれば都市の発展も見込めない。とても良い経験をさせていただいています」
「すごいね。僕は自分のことで精一杯だからそんなことまで考えられないよ」
ユウキみたいな冒険者がこれから増えてくれれば、カマドはより発展して更に素晴らしい産業都市になるだろう。
フローラさんもユウキに影響されているようだし、楽しみだな。
「僕自身はそんなこと考えていなかったんだけどね」
「えっ、そうなの?」
「僕は今の生活をするのにも精一杯なんだよ? 今できることを全力でやる、それしか考えていなかったんだ」
「それができる人が少ないんですよ」
「そうかもしれないね。ほとんどの人間は怠け者だからね」
お金が入れば少し楽をしたくなるものだ。
僕なんてお金があれば好きなゲームだけをする生活を夢見たものだったよ。
今は好きな生産をできて、それが将来仕事になるだろうと道筋が見えているから楽しくできているけど、そうでなかったらこの世界でどのように過ごしていただろうか分からないな。
「でも、ふたりが仲良く冒険者をやれているならよかったよ」
「僕もパーティーで受ける依頼がこれほど楽だとは思わなかったから本当に助かっているんだ」
「私は前のパーティで回復役だったのですが、無理な特攻が多くて怪我も絶えなかったものですから大変だったんです。ですが、ユウキ様は魔獣を効率的に倒す方法を考えながら行動し、ほとんど怪我らしい怪我もないのでとても楽なのです」
「えーっと、そうするのが普通なんじゃないの?」
「そうだね。新人さんだからこそ考えなきゃいけないんだけど……」
本当に、何を考えているのやら。
回復役がいるから大丈夫、とか考えていたのなら甘すぎるよ。
回復するにも魔力は必要だろうし、大事な時に魔力枯渇を起こしたら元も子もないよね。
「彼らは彼らでパーティを組んでいるみたいだし、きっと大丈夫だと思うよ」
「今は、だけどね」
「そうですね」
僕としてはユウキとフローラさんが問題なければそれでよし。
だけどふたりはパーティを組んだことがある顔見知りだからそうもいかないのかな。
話をしながら歩いていると時間が経つのも早いものだ。
ちょうど四の鐘が鳴ったのと同時に、僕たちは本部に到着した。
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