ユウキの家

 ユウキの家は南地区の半ば辺りにあった。

 一人で住むには大き過ぎるのではないかと思われる二階建てのその家は、内装も部屋数が三つもあり明らかに過剰である。

 親からすれば住み込みのメイドを雇うためとか考えたのかもしれないが、冒険者をするユウキからすれば無用だったと思う。


 さらに、ユウキが言った通り僕たち五人が入っても全然余裕がある広い庭もあったので、小規模の魔法であれば問題なく使えそうだ。

 ライオネル家を出たユウキではあるが、親の愛情がちゃんとあるのだとこの家を見れば納得させられてしまう。


「とりあえず座学から始める? それとも実技?」


 室内でやるのか庭に出るのか、確認のためユウキが口を開く。


「まずは座学からやろうと思うよ。ユウキくんもよろしくね」

「やっぱり僕も先生をやるのかな。魔道スキルを持っていないんだけど」

「私より詳しいと思うし、大丈夫だよ」


 ニコニコ笑いながらルルがユウキにも先生をお願いしてくれる。

 フローラさんもやる気満々なのか目をギラつかせているように見えた。


「フローラさんは回復魔法が使えるんだよね」

「はい。魔道スキルを習得できれば回復の効果も上がるので、勉強したいのです」

「回復魔法ってことは、水属性と光属性を持ってるんだね」

「後は木と風を持っています。回復魔法はよく使っていたので固有スキルとしても習得できたんですよ」

「うわー、すごい! 回復スキルは持っている人自体が貴重だもんね! それに一般スキルも四つ持ってるなんて、フローラさんって隠れすごい人だったんですね!」


 ルルも面白い言い回しをするね。

 でも、回復スキルって珍しいんだ。確かノーアさんも持っているって叫んでいたっけ。

 ハーフエルフのプライドってわけじゃないけど、回復スキルを持ってるからっていう強みもあってあれだけ突っかかってきたのかな。


「俺でも習えば何が意味があるかな?」

「そうだなぁ。魔導スキルを習得できれば錬成時の魔力消費を抑えられるし、今後付与をしながら錬成をする機会もあるだろうし、使い道は広いはずだよ」

「そうか。でも、習得までが長いんだろうな」

「今日は習得したジンくんのための勉強会だけど、座学では習得のための話もするからね!」

「そうか。その、よろしくな、ルル、ユウキ」


 カズチも習得できれば錬成の幅が広がると言われてやる気になったようだ。

 ところで、座学ということだがどういった授業になるのだろうか。


「ルルさん、いくつか本を用意しようと思いますがいいですか?」

「お願いするね。実は言葉だけで説明するのもどうかなーって思ってたんだ。重くて持ってこれなかったし」

「そうですよね。みんな少し休んでて、これお茶だから」


 冷たいお茶を出してくれた後、ユウキは二階に上がっていった。

 僕は一階のリビングを見回しながら本当に広い家だなと感心してしまう。

 無駄なものは見当たらないが、たまにソラリアさんのお店で買ったと思われる謎のアイテムが並んでいた。


「ここで一人暮らししてるんだね」

「でかいよな」

「二階建てかぁ」

「お掃除も大変そうです」


 それぞれの意見が飛び交う中、ユウキが本を担いで降りてきた。


「ユウキ、これってソラリアさんのお店で買ったんじゃないの?」

「あー、バレた? セール品で色々と面白そうなものがあったから買っちゃったんだ」

「衝動買いは良くないよ」

「あはは、気をつけるよ」


 自覚はある様で苦笑を浮かべている。

 まあ、ユウキなら何かしら役立てるために買ったはずだし無駄にはならないと思うけどね。


「そうだ! 魔法石マジックストーンに魔法を保存するあれ、いつにしようか」


 ケルベロス事件の際に魔法石に保存されていたポイズンアースを使用している。

 使用した魔法石は保存していた魔法が無くなり、新しい魔法を保存することができるんだ。

 僕のために使ってくれたポイズンアースの代わりとなる魔法を僕が保存しなければならない。


「ジンの魔法は規模が大きいからね。外に出る機会があればで構わないよ」

「そ、そうだよね。それじゃあまたの機会にしようかな」


 魔法石が無駄にならない様、早めにユウキと一度カマドの外に行かなきゃいけないと心に決めた。


「それじゃあ、最初は魔導スキルの習得までについて勉強しようか。ジンくんは魔導スキルを持ってるから、カズチくんとフローラさんに向けての内容になります」

「ジンも聞いてて損はないからね」

「えっ、そうなの?」

「ジンの場合は……まあ、魔法を使いまくって習得したって感じだと思うけど、ランクアップにも関わる話だからってことだよ」

「あー、うん、なるほど!」


 ユウキは僕が魔法を乱発しているのを何度も見ているから分かるのだろう。

 でも効率良くランクアップできるならそれに越したことはないしね。


「よろしくお願いしまーす!」

「うん、それじゃあ始めようか」


 ルルとユウキの魔導スキル講座、開講である。

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