簡易土窯と金床

 僕とホームズさんはカマドの外に出ると、以前魔法の練習をした場所の近くまで移動した。

 カマドと北の森、その中間地点とあって見晴らしもよく、仮に魔獣が現れたとしても発見しやすい場所なのだ。

 だが、あえて北の森方面じゃなくても良かった気がする。胡散臭いのが北なのだから、他の方角の方が良いのでないかと思って聞いてみた。


「どうして北の森近くでやるんですか?」

「今もなお冒険者達が調査をしてくれていますからね。他の方角よりも魔獣が狩られているのですよ」


 災い転じてなんとやら、ということだろうか。

 北の森の魔獣がほとんど狩り尽くされた状態だから調査もはかどり、そして今ならこの場所こそが他の場所よりも安全ということだ。


「それでは、早速ですが試してみましょうか。イメージはできているのですか?」

「何となくですができてます」

「分かりました。あの辺りが雑草もめくれているのでちょうどいいでしょう」


 土がむき出しになった地面を指差したホームズさん。そちらまで移動すると、僕はガーレッドが入っている鞄とは別の鞄に入れていた槌と鋏を取り出してすぐ横に置く。

 鍛冶の要である槌に関しては、やはり手に馴染んだものが良いだろうと持ってきており、鋏は構造上の問題で持ってきた。土で可動する部分まで再現できる自信がなかったのだ。


「まずは土窯ですね」


 僕の鍛冶部屋にあるサイズを思い出しながら土属性魔法を発動。すると、地面が徐々に盛り上がっていき下の部分から徐々に形作られていく。

 円錐状の太い土台が出来上がり、その正面には溶けた金属が流れ込む出口を作る。金属が通る道筋を徐々にせり上げていきながら、僕の腰辺りまで土台と道筋が出来上がると、続いて火を入れる空間を作る為に中を広く空洞にしていく。

 僕の肩くらいまでドーム型の空洞を作ると、煙が逃げていくようにてっぺんに煙突を作って簡易土窯の完成だ。

 かかった時間は数分程度、意外にもスムーズにできてしまい僕自身も驚いてしまったが、横で見ていたホームズさんの方が驚いていたようだ。

冷静なホームズさんにしては珍しく口を開けたまましばらくの間固まっていた。


「……えっと、次は金床ですかね?」

「……あー、えぇ、そうですね、お願いします」


 頬を掻きながら、次に金床制作を行う。

 金床は溶かし固めた金属を乗せて槌で叩くための土台になるものなので、形状もそうだが叩いている最中に壊れてしまっては元も子もないので強度がより重要となってくる。

 こう考えてみると、一つ一つの道具を自ら作っていけば情報として取り入れるだけでは気づけないことにも気づくことができるので良いかもしれない。

 形状、強度、そして僕が使用する為に高さや幅広さ、右利きなのか左利きなのかなど、考えることは多いのだ。


 土台を幅広く取って地面との接地面を広く取り衝撃が緩和されるように作っていくと、今回は土で作るということもあり強度重視でそのまま寸胴のように高さを積み上げていく。密度を濃くすることで更に強度を高めるとともに、僕が槌を振りやすいよう腰よりやや高い位置で平面を作ることで、簡易金床の完成である。

 こちらも数分で出来上がったのだが、土窯を見た後だからか、僕もホームズさんも小声で感嘆を漏らす程度の驚きで済んだ。


「これだけのことができる人はそうそういませんよ。ゾラ様でもできるかどうかではないでしょうか」

「ゾラさんならただやらないだけで、やろうと思えばやれそうですけどね」


 ゾラさんが出来なければ他の誰にも出来ないんじゃないだろうか。出来てほしいと強く願うよ。僕だけにしか出来ないなんて、それこそ悪目立ちしてしまうからね。

 あははと軽く笑う僕を見て呆れていたホームズさんだったが、もうどうでもよくなったのか次のステップに進むことになった。


「では、実際に鍛冶ができるのかを検証してみましょう」

「はい!」

「……どうしましたか?」


 勢いよく手を上げた僕を半眼で睨みながら、ホームズさんが次の言葉を促してくる。


「せっかくなのでこの素材を使おうと思うんですけど」

「おや? これはキルト鉱石ではないですか。それも錬成済みですね。これはどちらから?」

「ナルグ先輩から貰ったいらない鉱石の中に混じっていました。適正のランクで錬成が出来なかったみたいで、僕が貰ったんです」

「ですが、キルト鉱石を使っての鍛冶は初めてですよね、大丈夫ですか?」


 カズチからは錬成の時の圧力というか、跳ね返しが素材によって違うという話は聞いている。鍛冶もそれと同じ要領なのだろうと思っていたが、ホームズさんの心配そうな顔を見るとその通りなのかもしれない。


「部屋の中で何かあった方が怖いので、外で鍛冶ができる今の機会でやってみようかなって」

「……何かが起こる前提で話をしていませんか?」

「初めてのことですからね、それくらい考えますよ」


 本日何度目になるか分からないホームズさんの溜息を目撃して、僕は溶けたキルト鉱石を流し込む型を作り始めた。

 やはり土属性で作るのだが、こちらはすでにイメージが出来ていたのでさっさと出来上がってしまう。

 キルト鉱石はこちらの世界特有の金属なので融点がどこにあるのかが分からない。その為、徐々に温度を上げながら融点を探っていく必要がある。

 土の桶を一瞬で作りその中に水を溜めると、僕はキルト鉱石を窯の中に置いて火属性魔法を発動、窯の中に炎が点った。

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