同行する為に
ガーレッドに関してはある程度の憶測を立てることができたので、食事を終えるとルルにお礼を言ってすぐに事務室へと戻った。
少し長居してしまったかと反省して謝ったのだが、手伝いをしてもらっているのだから謝る必要はないと言われてしまった。
書類の山だが、机三つ分にできていたものが今では半分にまで減ってきている。
次にカミラさんが休憩に行くということで、僕が続きを引き継いで計算を始めた。
ホームズさんの処理速度が相当早かったけど、僕も事務作業であれば負けるつもりはなく、むしろ日本時代を思い出して嬉々として作業を進めていく。
ノーアさんがちらりとこちらを見たように感じたが、気にしているよりも早く処理を進めたほうがいいと思い無視することにした。
結果――カミラさんが休憩から戻ってきた時には全ての書類処理が完了してしまった。
いつもはおとなしいカミラさんは口を開けたまま固まったかと思えば、その場で小躍りを始めてしまい、僕とホームズさんに挟まれていたノーアさんは机に突っ伏してしまった。どうやら僕たちの速度に合わせようと必死になって頑張ってくれたみたいで、なんだか申し訳なくなってしまった。
「コ、コープス様~! 本当にありがとうございました~!」
「こ、この御恩は一生忘れません!」
「いや、どちらかと言うと僕のせいでもあったので忘れていただけると助かります」
頭を掻きながらそう呟いた僕に、ホームズさんが声を掛けてくれた。
「コープスさん、本当に申し訳ありません。まさか手伝ってもらうことになるなんて」
「いや、本当に僕のせいなんで、気にしないでください」
同じやり取りを繰り返すのも時間がもったいないと悟り、ホームズさんも渋々引いてくれた。そして、冒険者ギルドでのやり取りについて教えてくれた。
「話はあちらにも届いていたみたいで、ダリアさんを含めてギルド職員もそうですが、冒険者達も憤っていましたからすぐに王都へ向かう部隊の話し合いが行われました」
「部隊って、戦争に行くんじゃないんですよね?」
「当然です。今回は話し合いに行きますから、それ用に編成されていますよ」
どういうことかと首を傾げていると、ホームズさんが説明を続けてくれた。
「交渉担当としてカマドの役人、それと冒険者ギルドと商人ギルドからも一人ずつ連れて行きます。彼らが基本的に王都の方と話し合いを行います」
「ホームズさんは?」
「我々はその護衛としてついて行きます。ゾラ様達を乗せた馬車が襲われたのですから、こちらから王都に向かう馬車が襲われる可能性も高いですからね」
「そうですか。僕も名目上その護衛に含まれているってことでいいんですよね?」
今の話だと交渉担当は各職員、護衛は冒険者なので、僕の立ち位置が分かりづらい。護衛としてであれば問題なくついて行くことも可能だろう。
「……問題はそこなんです」
「へっ?」
だが、ホームズさんの口からは意外にも僕が問題なのだと言われてしまった。
「冒険者でもないコープスさんを護衛として連れていけるのかどうか、そこが怪しいのです」
「と言いますと?」
「王都内に入る時には身分確認が必要になります。それは冒険者も同様ですが、彼らにはギルドカードが発行されているので、それが身分証となります。我々は交渉する為に向かうのですから、それ以外の人員がいるのはおかしいのです」
冒険者でもない、ましてや交渉担当でもない子供が一団にいるのはおかしな話ということだ。特に僕の場合はガーレッドもいるので悪目立ちしてしまうのだろう。
「……その一団に、鍛冶師は必要ないんですか?」
「護衛依頼に鍛冶師は同行しませんね」
「今回のような場合もですか?」
「……どういうことですか?」
思案顔になったホームズさんだが、時間が惜しいと思ったのかすぐに聞き返してきた。
「ゾラさんとソニンさんを襲った賊がいます。賊は王都とは無関係を装うかもしれませんが、おそらく関係はあるでしょう。ならば、こちらからの一団に護衛が付くのは先ほどの話から当然ですよね?」
「その通りです」
「それでは、実際に現地に向かって襲われたとします。何度も打ち合い、武器が消耗して使えなくなってしまったら大変ですよね?」
「まあ、そうですね。ですが――」
「そこでです!」
僕はホームズさんの言葉を遮り話を続ける。
「鍛冶師が一人同行していればその場で新しい武器を打つことも可能ですよね? 土属性と火属性と水属性持ちだったら、その場で土窯を作って金床も土で代用できるでしょう。火属性は必須ですし、打った金属を冷やす水だってそうです。そんな多属性持ちなんてそうそういないと思いますけど、もしいたら一人くらいは連れていきたいと思いませんか?」
だいぶ強引な意見ではあるが、僕がついて行くにはこれくらいやらなければいけない気がする。
ホームズさんも途中から顔を引きつらせていたが、最後まで話しを聞くと顎に手を当てて考え始めていた。
「……なんだか、そこまで言われてしまうと、それ以外に手がない気がしてきますね」
「そうでしょうそうでしょう!」
ここは無理やりにでも話を納得の方向に向かわせなければ!
「僕はゾラさんの弟子だし、錬成だって一応ソニンさんの弟子ですから、現地で錬成だってできますよ! 錬成もして鍛冶もして、最悪の場合には戦闘要員にもなれますから、これ以上の人材はいませんよね?」
「……最後の意見は却下として、鍛冶師としての同行が許されるなら、今言った条件に合うのはコープスさんだけということですね」
「そ、そうですね」
まあ、僕自身も戦闘要員として参加はしたくないので却下していただけて感謝します。言っただけですから。
「しかし、本当にその場で土窯や土の金床を作るなんてできるのですか?」
「できるんじゃないですかね?」
「ですかね? って、やったことないんですか?」
「あるわけないじゃないですか」
「…………はぁ。コープスさん、この後時間はありますか? 外に行って、本当にできるか確認しましょう。もし、できるのであれば私から冒険者ギルドへ話を持っていきますから」
頭を抱えたホームズさんに問題ないことを伝えると、小躍りをしているカミラさんと、それにいつの間にか小躍りに混じっていたノーアさんに声を掛けて、僕たちはカマドの外に向かった。
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