食材区画

 色々なお店を見て分かったことだが、見た目には元の世界の食材と似たものが多く、肉に至ってはすでに捌かれた状態で並べられているので違いが分からない。

 たまに捌かれずにそのままの状態で並んでいるものもあるのだが、あれはさすがに手が出せない。だって、まんま魔獣なんだもの。


「カマド周辺で狩れる魔獣だと、ゴラリュは人気が高いんだよ」

「あー、外で食事をした時だね」

「お二人とも、そのようなことをしていたんですか?」

「ゾラさん発信だよ」


 フローラさんが気になっているようなので、僕はバーベキューをした時の状況を説明した。

 だが、その説明に呆れ声を漏らしたのはヴォルドさんだった。


「小僧、魔法が使えなかったって本当なのか?」

「普通は小さい頃に習うんですよね? 僕はその時の記憶を失っているので分からなかったんですよ」


 ……そういう設定なのだ。


「あー、そうだったのか。その、すまん」

「私も、知らなかったとはいえ、すみませんでした」

「気にしないでくださいよー。僕は今の生活を気に入っていますから」


 設定の問題で落ち込まれるのは申し訳ないのだ……いやもう、本当に申し訳ない。


「とりあえずは食材の相場だよね」

「そうだね! うんうん、ユウキは本来の目的を忘れてなかったねー」


 無理やり過ぎる気もしたが、僕が気にしていないのだと示すにはユウキのフォローに乗っかるのが一番。

 近場のお店に入って商品を見始めたところ――これが大失敗だった。


「いらっしゃいませー! おや、小さなお客様だねー、おつかいかな?」

「えっと、ちょっと勉強をしにきました」

「……勉強?」

「おー、ここはお前の店だったか――バルドル」


 後ろからの声に振り返ると、お店の主人に声を掛けていたのはヴォルドさんだった。


「ヴォルドか……何の用だ?」

「小僧の勉強の為にこっちに来たんだよ」

「この子か? ……お前の子供か?」

「違うわ! 小僧は『神の槌』に所属している鍛冶師だ!」

「まあ、鍛冶師かは知らんが、お前の子供ではないだろうな。顔が整い過ぎている」

「……てめぇ、喧嘩も商品として売ってんのか?」

「そういうてめぇこそ冷やかしに来たんじゃねえのか?」


 ……えっと、えっ? これはいったいどういう状況なのよ。

 理由も分からずにヴォルドさんとお店の主人、バルドルさんに挟まれてしまった僕は助けてもらおうとユウキとフローラさんに視線を向けたのだが、そっと視線を逸らされてしまった。

 二人とも酷いよ!


「自炊もしないてめぇに売ってやる商品はねえんだよ! さっさと消えろ!」

「買い物なんてしないから安心しろ!」

「だったら尚更出ていけよ! てめぇのでかい図体は邪魔で仕方ねえんだよ!」

「邪魔とは何だ邪魔とは! そのでかい図体に助けられてきたのはどこの誰だよ!」

「あのー! ちょっとストップ!」


 ヒートアップしそうになったところで、僕は二人の間から大声を上げて制止を呼びかける。


「いったい何をしているんですか! ヴォルドさん、ここはバルドルさんのお店なんですよね? だったら邪魔をしちゃダメでしょ! バルドルさんもすみません、お邪魔でしたらすぐに出ていきますので」


 僕がすごすごと謝っていると、ばつが悪くなったのか二人とも黙り込んでしまい、小さく溜息をついてしまった。

 いや、この場合は僕が溜息をつきたい立場なんですが?


「……いや、すまなかったな。こいつの顔を見たら、少し頭に血が上っちまったみたいだ」

「……まさか常識知らずの小僧に正論を言われるとは思わなかったぞ」


 常識知らずは余計ですが、今回の場合は明らかに僕たちが悪い。

 相手は商売人であり、買い物をしない客はもはや客ではなく邪魔者である。

 ならばバルドルさんが言う通りにさっさとお暇した方がいいだろう。


「あの、本当にお邪魔でしたら帰りますよ?」

「……いや、見ての通りに今はだーれも客がいないからな。勉強とか言っていたが、こんなところに何を勉強しに来たんだ?」


 僕は常識の勉強をするにあたり、食材の相場について勉強しに来たのだと告げる。


「……そんな常識、必要か?」

「……まあ、その場で買えばいいことなんですけどね。ぼったくられないようにってことで」


 ヴォルドさんが言っていたみたいに『神の槌』を出る可能性は〇ではない。だが、それをここで口にするのは気が引けてしまう。

 ここにはヴォルドさんだけではなく、ユウキとフローラさんもいるのだ。

 昨日の内に感づいているだろうヴォルドさんならともかく、二人は僕がそんなことを考えているなんて夢にも思っていないだろう。

 ということで、ここは必要最低限の説明で止めておくことにした。


「よく分からんが、ここでその勉強ができるならやっていっていいぞ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「ただし、こいつには教えてもらわない方がいいぞ? こいつには常識なんてないんだからな!」

「てめぇに言われたくないわ! ここはユウキとフローラに任せるぞ!」


 そう口にしたヴォルドさんはさっさとお店を後にしてしまった。



 ※※※※

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 どうかよろしくお願いいたします!!!!


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 ■作者:渡琉兎

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 ■出版社:KADOKAWA(レーベル:ドラゴンノベルス)

 ■発売日:2019/08/05(月)

 ■ISBN:9784040730806

 ■価格:1,300(税抜)

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 ※※※※

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