肉と仕入れと

 バルドルさんのお店では、主に捌かれた状態の肉を販売していた。

 肉を見ただけでは何が何やら分からないので、何の肉なのかが書かれた紙が棚に張られている。

 ゴラリュやラーフが多くあり、バルラットの肉が少しだけ、人形ひとがたをしているゴブリンの肉がないのを見ると、人が人を……みたいな忌避があるのだろう。


「カマド周辺で狩れる魔獣の肉は比較的安価だな。この辺りは、行商人から仕入れているから割高だ」

「グリズナーに、ヒポポタス? 全く聞いたことないや」

「グリズナーは二メートルを越える体躯を持つ中級魔獣で、ヒポポタスは鳥に似た下級魔獣だよ」

「おっ! 金髪の坊主は魔獣に詳しいんだな!」

「ユウキ様は冒険者の中でも、魔獣に詳しい方ですからね」


 博識なところを褒められたからか、ユウキは照れ臭そうに苦笑する。


「この辺りの肉は、全部仕入れ品だな」

「小銅貨が五枚とか六枚飛んでいきますね。うわ! 九枚って、ほとんど中銅貨じゃないですか!」

「贅沢品ですよね」

「ゴラリュとかは三枚とか四枚だね」

「……こうやって見ると、魔法鞄マジックパック持ちは冒険者をしていなくても儲かるんじゃないのかな?」


 魔獣を狩って、そのお肉をお店にどんどん卸してしまえば、相当な儲けになるんじゃないだろうか。

 鉱石とは違ってお肉は食料だ。食べきれないほど多いと少し困るが、ないよりかはあった方がいいと思う。


「まあ、魔法鞄があればだけどな。あれは相当高価で貴重な代物で、上級冒険者でも持っている奴の方が少ないからな」

「そんなものをホームズさんは二つも持っていたんですか。高価なことは知っていましたけど、そこまで出回っていないんですか?」

「少なくとも俺は今まで生きてきて、魔法鞄を持っていたのは貴族くらいしか見たことがないぞ」

「それじゃあ、僕は貴族以外では初めてってことですか」

「がはは! 小僧が魔法鞄を持っていたらだけどな!」

「……」

「……も、持っているのか?」

「一応、ホームズさんからのお下がりですけど」

「……マジかよ! ってかホームズってもしかして破壊者デストロイヤーか! 小僧は冒険者なのか!」

「質問攻めですね! 僕は『神の槌』所属の鍛冶師ですよ!」


 いきなり何を言い出すのだろうか。

 最初に鍛冶師だと伝えているし、冒険者は隣のユウキとフローラさんなんですが。


「そうか、そうだったな」

「いったいどうしたんですか?」

「いや、もし冒険者をやってるなら魔獣の肉を卸してくれねえかなって思ったんだ」

「あー、やっぱりそれだと儲かりますか?」

「そっちも儲かるだろうが、こっちも儲かるんだよ」

「へっ? でも、もし僕が卸してもいいってなっても近場の魔獣しか狩れないですし、バルドルさんは今と大して変わらないんじゃないですか?」


 行商人から仕入れている肉ならまだしも、近場の魔獣の肉なら贔屓にしているところから卸してもらった方がいいに決まっている。

 それに、僕の場合は定期的に卸すことができないし、一時だけになるだろう。そのような不確実なところと仕入れの約束をするのはいかがなものだろう。


「俺や他のお店も、あるならあるだけ助かるんだよ」

「そんなに売れてるんですか?」

「売れてるというか……カマドの人柄もあるんだろうが、ここの人たちは職人でガタイのいい人が結構多いんだ。だから食べる量も多いんだろうが、いくらあっても足りなんだよ」

「そ、そんなにですか?」

「そんなにだ。だから、近場の魔獣でも卸せるものがあれば卸してほしかったんだが……残念だ」


 本当に残念そうなので、機会があれば持ってきてもいいかもしれない。僕のお小遣い稼ぎにもなるし。


「……ユウキ、今度魔獣討伐に出る時は、僕も連れて行ってくれないかな?」

「いいけど、魔獣の肉を持ってくるの?」

「マ、マジか!」

「機会があればですけどね。約束はできませんし、本当にそんなタイミングがあればですけど」

「全然構わねえよ! マジで助かるぜ!」


 とても嬉しそうなバルドルさんを見て、これは早めに持ってきてあげた方が良いかもしれないと思ってしまった。

 後でユウキかヴォルドさんに相談してみよう。


 その後も肉はあーだこーだと説明を受けたのだが、僕としては価格を見に来ただけなのでやや聞き流すような形になってしまった。

 痺れを切らしたヴォルドさんがお店の中に乱入してきたところでお肉の勉強はお開きとなった。


「てめえ、小僧に肉をお願いしてやがったな? 自分で仕入れろ、自分で!」

「うるせえ! こちとら冒険者を引退した身なんだよ! そんなこと言うんだったらてめえが美味い肉を持ってこい!」


 ……もう、本当に、どうしてこうも口喧嘩になるのだろうか。

 そのまま外に出た僕たちは、野菜屋さんや果物屋さんと巡り、それぞれの相場を見て回る。

 途中で果物をいくつか購入して食べ比べ、その時にはガーレッドが一番テンションを高くしていた。

 最初はどうなることかと思った食材区画での勉強だったが、思いのほか楽しい時間を過ごすことができたのだった。



 ※※※※

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 発売一週間が重要でございます! ぜひぜひ、どうかよろしくお願いいたします!!!!


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 ■作者:渡琉兎

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 ■出版社:KADOKAWA(レーベル:ドラゴンノベルス)

 ■発売日:2019/08/05(月)

 ■ISBN:9784040730806

 ■価格:1,300(税抜)

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 ※※※※

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