ユウキとフローラ、ついでにヴォルド

 翌朝、ヴォルドさんが本部まで迎えに来てくれることになっているのでいそいそと準備を始める。

 ガーレッドはすでに起きており、ベッドの上で僕の準備が終わるのを今か今かと待っていた。


「——よし、準備もできたし事務室に行こうか」

「ピッキャキャー!」


 事務室に着くといつもながら三人が書類整理に精を出している。

 声を掛けようと思っていたのだが、あまりに真剣な表情で仕事をしていたので遠慮することにした。

 正直、手伝えることが手伝いたいと思っているのだが、ここで僕が手を出してしまうとヴォルドさんを待たせることになるので自重したのだ。

 ……そう、僕にだって自重はできるので、成長しているのだ。

 というわけで、入口の横に備え付けられている椅子に腰掛けてカーレッドと遊んでいると、外からヴォルドさんだけではなく、ユウキとフローラさんも姿を現した。


「すまん、待たせちまったな」

「おはよう、ジンにガーレッドも」

「おはようございます」

「おはようございます。全然待ってないので構いませんよ、ガーレッドと遊んでましたし」

「ピーピキャキャー!」


 軽い挨拶を済ませると、そのまま本部を後にした。

 ユウキはホームズさんに挨拶をしたそうだったけど、仕事中だからと言うとすぐに諦めてくれた。

 ……うん、帰ってきたらお手伝いしようかな。クランの為もあるけど、ユウキの為にも。


 ※※※※


 最初は食材の相場について、そしてどこでどういった食材が買えるのかを教えてもらうことにした。

 ただ、よくよく考えると僕は自炊を全く行わない。やったとしてもインスタント食品だったり、味付けされたものをただ焼くくらいだった。

 もしクランを出ることになったとしても、自炊……できるだろうか。


「ここが西地区の食材区画です」

「そうなんだ……なんだか、狭いね」

「カマドは鍛冶屋や武具屋が多い分、食材を売っているところが少ないんだ。だからどの地区も一ヶ所にまとめられているんだけど、それでも狭いと感じるかもしれないね」


 フローラさんの案内でやってきた食材区画。

 ユウキが説明してくれたように、小さな広場に円形にお店が並んでおり、それぞれ専門店のような形で店を構えている。

 鍛冶屋や武具屋が立ち並んでいる風景を見てテンションを上げていた僕だけど、食材区画を見てしまうと暮らしている人たちは、カマドでの暮らしやすさをどのように感じているのだろうか。


「食材区画が狭いと、大変じゃないですか?」

「それは俺たちじゃ分からんだろうな。冒険者のほとんどは家を持っていない。それに外に出ていることの方が多いから、昨日も言ったが自炊している奴の方が少ない」

「僕は元貴族で、父上が住むところを援助してくれたから家を持てているけど、普通ではあり得ないんだ」

「私は女性冒険者専用の格安宿で生活している状況です」

「ヴォルドさんも宿屋暮らしですか? 通り名持ちですし、ギルドから信頼を得られてるんじゃないですか?」


 住民権を持たない冒険者は都市から都市へ、国から国へ移動することに制限がない分、一都市で住居を持つことができない。

 ただ、ギルドからひととなりを認められればその限りではない。

 ヴォルドさんは通り名持ちで、後輩の冒険者からの信頼も得ている。それならばギルドから認められてもいいのではないかと思ったのだ。


「残念ながら、俺も宿屋暮らしだな」

「ヴォルドさんでも?」

「俺だから、だな。申請をしていないんだ」

「そうなんですか?」

「住居を持つと、どうしてもその都市を離れづらくなるからな。実入りのいい依頼は護衛依頼だったりが多いから、あまり意味がないんだよ」


 そう考えると、冒険者が住居を持つのはあまり利点がないようだ。

 ユウキはそのあたり、どう考えているんだろうか。


「ユウキは家を持っているけど、どうなの?」

「うーん、僕の場合は父上が援助してくれたものだから使っているけど、冒険者として自立ができるようになったら、返すかもしれないな」

「それはやっぱり冒険者として色々なところに行くから?」

「そうだね。グランデさんが言っているように、家があるとどうしてもそこに戻らなきゃって思うことがあるんだ。それって、冒険者としてはあまりいいことじゃないと思うんだよね」

「将来的には考えないでもないが、今はないな」


 その都市に身を埋める覚悟があるのかどうか、そこがギルドに申請する境界線になるんだろう。

 僕がもし『神の槌』を出るなら、そのままカマドに店を構えるのだろうか。

 ただ、市場を荒らすような価格で武具を売ったりしたら絶対に商人ギルドが介入してくるだろう。

 変な問題は起こしたくないし、やっぱりしばらくは『神の槌』にいた方がいいかな。


「よーし、それじゃあ食材区画を見て回りましょうか!」

「ピッピー! ピピキャー!」


 食べ物があると分かっているガーレッドのテンションはとても高い。

 屋台も並んでいるようだし、後でガーレッドに何か買ってあげようかな。




 ※※※※

 連続更新三日目の宣伝(マラソン?)です!

 8/5(月)の『カンスト』2巻発売まで後二日となります!

 書き下ろしエピソード多数! web版を読んでいただいている方にも、お楽しみいただける作品になっておりますので、ぜひぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

 それと、書籍版になるということでやりたかったことの一つをやらせていただきました!

 そのことに関しては二巻あとがきに書かせてもらっているので、ぜひお手に取っていただきたいです!(言っていいのかもしれませんが、分からないのでとりあえず匂わす感じで)

 よろしくお願いいたします!!!!


『異世界転生して生産スキルのカンスト目指します!2』

 ■作者:渡琉兎

 ■イラスト:椎名優先生

 ■出版社:KADOKAWA(レーベル:ドラゴンノベルス)

 ■発売日:2019/08/05(月)

 ■ISBN:9784040730806

 ■価格:1,300(税抜)

 ■B6判

 ※※※※

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