閑話:ソニン・ケヒート
この子たちは、本当に成長しましたね。
私は副棟梁として、二人の師匠として、とても感慨深いです。
カズチとコープス君の錬成師見習い卒業。これは過去に例のない速さでの卒業になりました。
コープス君はまあ、あのスキルがあるので何とも言えませんが、私としてはどうしてもカズチの卒業の方が嬉しく感じてしまいます。
「本当に良かったのか?」
「何がでしょう」
「カズチの卒業じゃよ。お主のことを相当に慕っておるようじゃからな」
「……だからです」
「早く独り立ちしてほしいのか?」
「カズチはいずれ私を超えていくでしょう。慕ってくれるのは嬉しいのですが、私がカズチの足かせになってはいけないと思っています」
以前にカズチは言っていました。何があっても『神の槌』に残ると、私について行くと。
嬉しい言葉ではありますが、それではダメなのです。
私は弟子たちへ独り立ちするように言っています。それは、ここ以外の場所でさらなる飛躍をしてほしいから。
鍛冶師の皆さんは人数も多いですし、鍛冶頭という明確な目指す目標があるので残っていても問題はないと思いますが、錬成師は違います。
鍛冶師に比べて人数は少ないですし、錬成頭もいますが人数に比例してこちらも少ないのです。
「すまんのう。錬成師の人数を増やせればいいのじゃが、鍛冶クランが錬成クラン以上に人数を確保するのは良く思われんからな」
「仕方ありません。だから、ゾラ様も錬成をしてくれているのですから」
鍛冶師見習いの練習用に錬成済みの銅を大量に購入することもあるが、間に合わない場合は私だけではなくゾラ様も銅の錬成を行ってくれています。
大規模クランで、他のクランに比べて金銭的な余裕もありますが、その分人数は増える一方であり、資源は有限で足りなくなることも多い。
ゾラ様には本当はドカッと腰を下ろしておいて欲しいのですが……私の力不足のせいでそうはいきません。
「ゾラ様こそどうなのですか? コープス君は鍛冶師と錬成師の両方で卒業させてしまいましたが?」
「小僧なら大丈夫じゃろう。変に道を踏み外すこともないじゃろうしな」
ゾラ様からこれほどの信頼を置いてもらえるなんて、コープス君はその重大さに気づいているのでしょうか? ……きっと、気づいていないでしょうね。
「鍛冶スキルまで習得して、今日の鍛冶じゃったからのう。これから小僧が打つ武具がまたどうなるか、正直なところ楽しみでしょうがないわい」
「昨日は問題なく錬成もしてしまいましたし、この分なら錬成スキルもすぐに習得してしまうかもしれませんね」
「それこそ、儂やソニンはあっという間に抜かれてしまうかもしれんな!」
「笑いごとではありませんよ?」
「笑わずしてどうするんじゃ! 長い間、一番だと言われ続けてきた儂らを、そんなつもりもなく追い抜いていく奴が現れたんじゃぞ? 面白くて仕方ないぞ!」
「いえいえ、『神の槌』の棟梁としての威厳が」
「ソニンは面白くないのか? 小僧という存在が」
「……まあ、面白いとは思います」
ゾラ様の質問に、私はすぐに答えることができませんでしたが、少し考えてみるとあっさりと答えは出てきました。
コープス君はスキルの有無にかかわらず規格外です。それは全属性持ちということもそうですが、ものの考え方が私たちとは異なっている気がします。
出会った当初からもそうでしたし、その行動力にも驚かされました。
その最たる部分が王都まで私たちを助けに来てくれたことです。
普通ならあり得ません。私たちが師匠であるとはいっても、あそこは冒険者に任せるべきところです。
ところがコープス君は自ら行動し、王都までついて来て、私たちを助けてくれました。
いったい何がそのような思考に辿り着かせたのか、私には分かりません。
面白い、とはもしかしたら違うかもしれません。……これは、畏怖なのかもしれませんね。
「……ゾラ様。以前に私が言ったことを覚えていらっしゃいますか?」
「何のことじゃ?」
「コープス君が神の落し子かもしれないと言ったことです」
「……そんなこともあったのう」
「あれは、もしかしたら本当かもしれませんよ?」
「まあ、小僧は儂らとは違った何かを持っているようにも見えるからな。だからこそ、儂らの常識と小僧の常識が違うようにも見える」
「もし、もしも本当に、コープス君が神の落し子であるなら、私たちはどうしたらいいのでしょうか?」
神の落し子なら、『神の槌』という一クランに留めおいていい存在ではありません。
何せ、神の落し子は悪魔と同じでおとぎ話に出てくるような伝説の存在です。
それこそ、英雄の器というスキルにふさわしい人物なのでしょう。
「……全く、お主は何も変わっておらんのう」
「えっ?」
「そんなに難しく考える必要はない。小僧が望むなら置いておく。もし望まないなら、小僧の次の道への手助けをするだけじゃ。何も今までと変わらんじゃろう」
「……本当に、それだけでいいのですか?」
「いいも何も、小僧は儂の子供じゃぞ? それ以上でもそれ以下でもないからな」
……ゾラ様は、いつまで経ってもゾラ様ですね。私のことを言えないじゃないですか。
「……そうですね」
そして、その変わらないゾラ様に助けられてしまいました。
私が深く考える必要は、今のところありません。
もしコープス君が悩んだなら、一緒に考えるくらいがちょうどよいのです。
それが、『神の槌』のやり方であり、子供たちの意見を尊重するクランの姿なのですから。
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