常識とは?

 結局、今日は他にやることが思い浮かばなかったので公園でボーっとしている。

 ごつい大人と幼い顔つきの子供が一緒にいるのが不審なのか、先ほどから子供連れの女性から視線を感じる。それもあまり友好的ではない視線だ。

 そのことにヴォルドさんも気づいているのだろう、とても居心地が悪そうなのだが今ここですぐに移動しようとすると、本当に無理やり連れ歩いているように見えるかもしれないので我慢しているようだ。


「何か会話でもしていたら普通に見えるんじゃないですか?」

「会話って言われてもなぁ……」

「そうですねぇ……明日は常識について教えてくれるんですよね? 具体的にはどういったことを教えてくれるんですか?」


 ユウキとフローラさんもいるとはいえ、何を教えてくれるのかを知らなければどうしようもないこともある。

 ということで、明日の予定を確認することにした。


「まずは一般常識だな。役所には行ったことがあるんだよな?」

「そうですね。役所にはリューネさんがいますから」

「商人ギルドはどうだ?」

「行ったことはないですけど……今は行かない方がいいかもしれませんね。ゾラさんが商人ギルドの人とバチバチだったみたいですし」

「そういえば、そんなこともあったな」


 行ってみたい気持ちはあるのだが、もう少しほとぼりが冷めてからでもいいだろう。どうせ僕の作品は直接卸せないのだから。


「それなら……小僧の場合はクランで食事も出るし、外で食材を買うことなんてないだろうが、そのあたりの相場を教えようと思っている。後は、娯楽とかかな」

「食材に、娯楽ですか?」

「ユウキは自分で食材を買って自炊してるらしいからな。一部を除いて、冒険者で住居を持てるやつは少ないが、それでも自炊をしてるやつもいる。小僧も将来的にクランを出る可能性があるなら、覚えておいて損はないだろう」

「クランを出る、ですかぁ」

「なんだ、その予定があるのか?」

「……いや、今のところはないですよ」


 考えていることは、正直ある。

 僕のせいで『神の槌』には迷惑ばかり掛けているからだ。

 ゾラさんやソニンさんは気にするなと言うだろうけど、そのうちに他の人から不満が出る可能性はどうしても捨てきれない。

 今すぐではないけれど、恩を返していずれは……ということは思っている。


「……まあ、そういうことだ」

「……はい」


 ヴォルドさんは何かに気づいただろうか。僕は顔に出やすいから、気づいているだろうな。

 そう思いながらも、あえて口にしないのがヴォルドさんの優しいところなのだろう。


「でも、娯楽ってどういうことですか?」

「ユウキもそうだが、小僧くらいの年代なら、少しくらい娯楽を持っていても不思議じゃねえんだよ! 息抜きができる物、できる場所ってのを見つけておけ」


 僕にとっての息抜きは鍛冶なんだけど……でも、その鍛冶が上手くいかなかった時には酷く落ち込みもした。

 それなら、ヴォルドさんが言うように娯楽の一つでも見つけておくのも悪くないかもしれない。


「カマドに子供の娯楽施設なんてあるんですか?」

「俺は知らん。だからユウキとフローラがいるんだ」

「完全に人任せですね」


 鉱山で魔獣討伐をラウルさんとロワルさんに任せたあたりから何となく分かっていたつもりだけど、まさかここでも二人におんぶに抱っこだとは。

 これって、マジで報酬がもったいないんじゃないだろうか。


「ヴォルドさんは食材担当?」

「俺は自炊もしないぞ」

「マジで何を教えてくれるんですか! さっきだって、武具店に行ってポニエさんが教えてくれていたし、ヴォルドさんは何もしてませんよね!」

「ガハハハッ! まあ、それは明日のお楽しみだ。ちゃんとした常識を教えてやるから安心しろよ!」


 全く安心できないんですが。


「ちなみに、ヴォルドさんの娯楽はなんですか?」

「……大人の俺の娯楽だ、言わせるなよ?」


 ……この人、ダメな大人ではなかろうか。


 ※※※※


 一抹の不安を覚えながら、僕はヴォルドさんと別れて本部へ戻ってきた。

 明日の準備があるのだと言っていたが、本当に準備なのだろうか。大人の娯楽に行ったのではないのか? なんて勘ぐりをしてしまう。


「……まあ、いっか」

「ピギャー?」

「ガーレッドは知らなくていいんだよー。ヴォルドさんの娯楽はきっとお金を使う遊びだから、僕はしないんだよー」

「ピー?」


 そうだよ。僕にとって娯楽ではないけれど、息抜きならガーレッドと遊ぶことでできるじゃないか。

 ユウキとフローラさんが案内してくれるみたいだし、気に入れば娯楽にしてもいいけど、無理して見つける必要はなかったな。


「ガーレッドと遊べる場所なら一番いいんだけどね」

「ピッピキャー!」


 ヴォルドさんの常識には期待せずに、二人の常識を期待しておこう。

 しかし、クランを出るって、ヴォルドさんも核心に迫るようなことを言ってくれたよなぁ。


「……まだまだ恩を返せていないんだ。錬成部屋もできるし、鍛冶と錬成でしっかりと返せるものを返していかないとな」


 そんなことを考えながら、僕はガーレッドと一緒に食堂で晩ご飯を済ませると、部屋に戻ってゆっくり休むことにした。


「……しかし、あの穴ってなんだったんだろう」

「ピピー」

「ガーレッド、どうしたの?」

「ピピピ」

「潜りたかったの?」

「ピキャー!」


 たぶんだけど、穴の位置からしてユウキとフローラさんと行った鉱山の洞窟に繋がっていそうなんだよね。

 魔獣の気配もしないって言ってたし、明日は時間が余れば行ってみてもいいかもしれないな。


「……明日が無理でも、その次にでも行こうか。それこそ、ユウキとフローラさんに依頼してもいいかもね」

「ピッピキャーキャー!」


 ガーレッドと洞窟に行く約束をして、僕たちは眠りについた。


 ※※※※

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