関わった人たちとこれからの話

 入ってきたのはソニンさん、ホームズさん、ダリアさん、ユウキにフローラさんまで現れた。

 あの場にいたから仕方ないけど、こんな所に来て大丈夫なのだろうか。


「あの、フローラさん、大丈夫?」

「えっ? いや、あの、その……ごっ!」

「ご?」

「ごごっ!」

「ごご?」

「ごべんなばああああいっ!」

「えぇっ! い、いったい何事ですか!」


 突然大泣きしだしたフローラさんに困惑し、僕はあたふたしながらユウキに視線を向ける。

 苦笑しているけど、僕にはそんな暇ないよ! ヘルプミー!


「フローラさん、ジンが困ってるから落ち着いて」

「あうっ、あうっ、ごめん、なさい」


 あぁ、悪魔との対峙が相当怖かったんだろうな。

 それにあの時は仲間とも逸れて、臨時でパーティを組んでいたユウキしかいなかったわけだし心細かっただろう。


「……私、助けに来てくれた皆さんに、酷いことを言ってしまいました」

「そんなこと言ってたっけ?」

「……殺されるとか、勝てないとか」


 あー、言ってたような、言ってなかったような?


「あー、うん、まあ、悪魔がいきなり現れたら仕方ないよねー」

「それに! ……私だけ隠れて、皆さんに全てを委ねてしまいました」

「いや、あれは戦える人がやればいいのであって、戦えない人は隠れてて正解だと思うよ」


 ……あれ、何この空気。僕何か間違えたこと言ってるかな?


「……い、今だって、大怪我しているのはコープス様なのに、私の心配をしてくれてます」

「治る怪我だし問題ないよ。それよりもフローラさんの心の方が心配だよ。それと、僕のことは呼び捨てでいいからね。様付けとか似合わないから」

「……あううぅぅっ!」

「えっ! いや、ちょっと、なんで泣くのさ!」


 待て待て待て、別にフローラさんを責めてるわけじゃないんだけど!

 何で泣かれるのか訳が分からないんだが!


「あー、フローラさん? だから言ったでしょ、ジンはフローラさんが気にしてるようなことを全く気にしていないって」

「だ、だけどユウキ様! 私は、ただ助けられただけで、何もしてあげられないのです! どうせなら、怒鳴られた方がいいんです……」


 なるほど、そういうことか。

 フローラさんは自分を怒ってもらいたいのか。そうすることで自分がやってしまった行動の責任から逃れたいと思っている。


「フローラさん」

「は、はいっ!」

「僕は別にフローラさんに怒ってもいないし、フローラさんの行動が間違えていたとも思わない。自分があの場では足手まといだと思ったんだよね?」

「……はい」

「なら隠れていて正解だよ。足手まといだと思っている人が動いてしまえば、その人を守る為に手が掛かってしまう。その方が迷惑だし、隠れていろって指示するだろうね」

「……」

「でもフローラさんは自分の実力と向き合って足手まといになると判断した。そして隠れることを選んだ。その選択の方が僕は偉いと思うよ」

「……私が、偉い、ですか?」

「うん。何もしないって、難しいと思うんだ。隠れている間にも周りでは戦闘音が聞こえてくるし、後から何か言われるんじゃないかって自問自答を繰り返す。怖かったよね、辛かったよね。だけど、その中で動かず我慢してくれたんだから偉いと思うよ」


 これだけ言えば大丈夫だろう。

 フローラさんには立ち直って冒険者を続けてほしいものだ。

 ……あれ、いや、あの、なんで!


「ぶええええぇぇんっ! ありばどうございばずううううぅぅっ!」

「だから、泣かないでよー!」

「ぢがいばず、ごでは、うれじだみだです!」


 ズビーって鼻をすするのは女性としてどうかと思うけど、そこは口に出しません。僕は男ですから。


「フローラさんは何も気にしないでいいからね」

「はいっ!」


 さて、フローラさんが落ち着いたところで何やら神妙な顔をしているホームズさんとダリアさんが気になるところだ。


「コープスさん、私はあなたを守ると言っておきながら危険な目に合わせてしまいました。本当に申し訳ありません」

「私も、ジンくんに無理を言って危険な場所へ向かわせてしまったわ。ごめんなさい!」


 ほぼ直角になろうかというくらいに頭を下げて謝られたので、僕は慌てて首を横に振る。


「あれは僕がユウキを助けたくて了承したんです。二人が謝る必要なんてないですよ!」

「コープスさんならそういうと思いました。ですが、やはり約束を守れなかったのは事実です」

「それで、どうしたらジンくんの為になることを出来るかを考えたの」

「えー、そんなことしなくてもいいのに」


 いや、本当に。

 こんな包帯姿だし二人が気にするのも分かるけど、僕が選んだことなんだからこれは僕の責任だ。


「ユウキに依頼していた錬成素材の調達ですが、私とユウキで行ってきました」

「えっ! そうなんですか?」

「うん。師匠に色々教えてもらいながらだったから勉強になったよ」

「結構な量の素材が取れたから、今は私がギルドで預かっているんだけど、ジンくんが退院する時に運んでもいいかな?」

「よろこんで!」


 まさかこんなに早く素材が手に入るなんて思わなかったよ!


「ゾラさん! 退院はいつになるんですか?」

「今回は怪我もあるからのう。医者が言うには二週間は安静にと言うことじゃ」

「えー! そんなに待てません!」

「――コープスさん?」


 あれ、何でそんな冷たい視線を向けているんですか、ソニンさん?


「あなたは大怪我を負っているんですよ?それなのにたかだか二週間も待てないと言うんですか?」

「いや、あの、その」

「言っておきますが、怪我が完治しなければ錬成を教えることはしませんからね」

「そ、そんなあっ!」

「しっかり治してから退院してきなさい! そうでなければ鍛冶部屋に関しても私は反対させていただきますからね!」

「…………安静にしてます」


 あぅぅ、ソニンさんが怖い。

 ゾラさん、何ですかその目は。哀れに思うなら助けてくださいよ!


「ソ、ソニンの言う通りじゃな!」


 ……これじゃあ棟梁はゾラさんじゃなくてソニンさんでしょ!

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