献上品は?
アダマンタイトで作る武器。
オシド近衛隊長の目もあるので、ここではあまり変な剣を打つのは憚れる。
変な剣を打つと、後から何か言われそうな気がするのだ。
「となると、基本に忠実な剣を打つべきだろう。そこに特別な意匠を凝らせば王様に献上するに申し分ないものになるんじゃないかな」
頭の中で剣のイメージを固めると、意匠についてを考えていく。
「そうだ、ジン」
「ん? どうしたの、カズチ?」
考えている途中にカズチから声を掛けられたので振り返ると、耳打ちで面白い話を聞いてしまった。
「……凄いね。そんなことまでしてたんだ」
「あー……オシド様のお願いというか、呟きが耳に入ったから」
ちょっと、オシド近衛隊長! カズチの集中を乱させないでよ!
……まあ、そのおかげで面白い事になったからありがたいと思っておこう。それと、ルルにも。
そうなると、刀身に描く意匠も思いついた。
鍔や柄にもちょっとした工夫を施すとして……あれ? 基本の剣はどこにいったんだろうか?
……うん、気にしないでおこう。これが僕なのだから。
「よし、やるぞ」
イメージが固まったのと同時に、土窯の中に火を点す。
さすがは硬度が五本の指に入ると言われるアダマンタイト。ちょっとの火力では全く溶ける気がしない。
今までの中で一番溶けにくかったのは
ものすごい熱気に全身から汗が噴き出してくるが、これも慣れたものである。
『神の槌』にいた頃は毎日のようにこれに近い温度の中で何時間も槌を振るってきたのだから。
だが、突然に周囲の空気が涼しくなったのを感じて驚き周囲を見ると、ユージリオさんが遮音魔法とは別の魔法を発動している事に気がついた。
「私にはこれくらいしかできませんからね」
「ありがとうございます」
周囲の空気が涼しくなるだけでもだいぶ楽になる。
僕はアダマンタイトに向き直り火力を上げていく。
熱気のせいで周囲の木々が燃えてしまうんじゃないかと心配になってしまうが、そこもユージリオさんは意識しているのかもしれない。
これならば一気に火力を上げても問題はないだろう。
「……ようやく、表面が溶けてきたか」
すでに鈍重の甲羅を溶かした火力を超えている。
それでも表面だけって……アダマンタイト、恐るべしだな。
まあ、そんな事を考えている場合でもないのでさらに火力を上げていく。
ユージリオさんのおかげでだいぶ涼しくなっていたのだが、それでも熱さを感じるようになってきた。
「……よし、いけるぞ!」
だが、とうとうどろりと溶けてくれたアダマンタイトを見て気合いを入れ直す。
愛用の鋏で型に流れてきたアダマンタイトを掴み捕り、金床に乗せて大きく息を吸い込む。
右手にはこちらも愛用しているゾラさんから貰った槌を握りしめて――
「ふっ!」
――カンッ! カンッ! カンッ!
一回、一回、打ち込むたびに腕に痺れが走っていく。
それだけアダマンタイトが硬く、魔獣素材である鈍重の甲羅よりも質の高い素材なのだと理解できた。
だが、集中を途切れさせるわけにはいかない。
意匠や鍔と柄のイメージを強固なものにしなければ、王様に献上できるような剣にならないからだ。
さらに、イメージはそれだには止まらない。
カズチが行ってくれた錬成を如何なく発揮するには、僕の全てをこの鍛冶に込めなければならないのだ。
「イメージは、光が差し込む、神々しさ」
アダマンタイトという、騎士が手にする事を最大の誉れだと口にするほどの素材で打つのだから、これくらい大げさにしてみてもいいかと思ったのだ。
今までで一番の時間を掛けて槌を振り続けているが……そろそろ、それも終わるだろう。
アダマンタイトからの跳ね返りが弱まり、僕の槌に合わせてくれるようになってきた。
素材が、僕に寄り添ってくれると、その鍛冶が終わりに近づいた証拠なのだ。
「……これで、出来上がりだ!」
――カアアアアァァン。
最後の一振りで甲高い音が響き渡り、ゆっくりと打ちあがったアダマンタイトを持ち上げて桶の中の水に沈めていく。
すでに夜中の時間帯に差し掛かってきたが、暗闇を打ち消すくらいに圧倒的な光が桶の中から溢れ出し、ライオネル家の屋敷を照らし出した。
……これ、寝てる人には大迷惑だよね?
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