王様への献上品
結局、僕は王様への献上品を打つ羽目になってしまった。
さらに言えば、場所はライオネル家の庭を使っての鍛冶である。
できればちゃんとした設備の場所で打ちたかったのだが、王様が外での鍛冶など見た事がないとはしゃいでしまい、こうなってしまった。
というか、ユージリオさんも断ってくれてよかったんだよ? 直せるとはいえ、庭がボロボロになっちゃうんだからね?
「ははは。別に構わないよ。むしろ、私も見てみたいからね」
……そうですか。
というわけで、僕たちは夜遅いというのに庭にやって来ている。
そして、巻き込まれた人がここに一人。
「な、なななな、なんで俺が!?」
「諦めてよ、カズチ。素材を錬成してくれる人が必要なんだ」
「ジ、ジンがやればいいだろう!」
「僕は土窯を作ったり、鍛冶もやらないといけないし、大変なんだよ。それに、効率よくやるには分担した方がいいでしょう?」
鉱石や魔獣素材はいくつかあるものの、錬成済みのものはない。
いや、あると言えばあるのだが、王様に献上できるような高位の素材がないのだ。
というわけで、カズチには高位素材の錬成をしてもらい、その間に土窯を作るという流れである。
「よろしく頼むぞ、カズチとやら」
「は、はひっ!」
「緊張しないでいいですよ、ディアン君」
「……はひ」
王様からの声に裏声で返事をし、ユージリオさんにも似たような声を漏らしている。
申し訳ない事をしたとは思うが、きっと大丈夫だろう。今は……まあ、ああだけど、錬成を始めた時の集中力は僕よりも凄いからね。
「……はぁ。それで、何を錬成させるつもりなんだ?」
ほらね。
「とりあえず、持っている中で一番上等な素材をと思って……これなんだけど」
そこで僕が取り出したのは、見た目には何の変哲もない銀色の鉱石。
だが、これはゾラさんのお墨付きが付いた最高峰の素材なのだ。
「……おいおい、冗談だろ、ジン?」
「本当だよ? 王様に献上する品だし、これくらいは出さないとね」
「これは……なんと、アダマンタイトではないか!」
驚きの声をあげたのはオシド近衛隊長だった。
「やっぱり上等な鉱石なんですか?」
「それはそうです! 現在確認されている鉱石の中では五本の指に入るほどの硬度を持ち、魔法に対する適正も高いと言われているのです! 騎士としては、アダマンタイトの剣を賜るのが最大の誉れだと言われているのですよ!」
ここまで饒舌になるとは思わなかった。
だが、それだけの品ならば献上品に使うにはもってこいだろう。
「というわけで、錬成よろしくね!」
「……ちょっと待て」
カズチは真剣な表情を浮かべると、大きく何度も深呼吸を行う。
そして、目を大きく見開くと、僕からアダマンタイトを受け取った。
「絶対に声を掛けるなよ?」
「もちろんだよ。こっちはこっちでやっておくから」
「おう」
集中力を高めたカズチは、本当に頼りになる。
カズチが庭の隅に移動したのを確認すると、僕は中央で土窯を作り始める。
アダマンタイトが気になるのか、オシド近衛隊長はカズチの方へ向かい、王様とユージリオさんは僕の土窯作りを眺めていた。
「これまた、規格外じゃのう」
「さすがはコープス君というべきか、なんというべきか」
おぉ、この反応は何だか久しぶりな気がする。
そんな事を考えている間にも土窯は出来上がっていき、あっという間に終わってしまった。
しばらくは作ってなかったけど、体は覚えているものだな。
「あっ!」
「どうしたのだ?」
「……こんな夜中に鍛冶をしたら、音がうるさいかなって」
ここは森の中ではなく、王都の中であり、それもライオネル家の屋敷の中で。
家族や使用人も寝ているだろうし、周囲には他の貴族家の家だって多くある。
さすがにそれだけの人に迷惑を掛けるわけにはいかないと思ったのだが、その辺りの対策は問題ないらしい。
「私が遮音魔法を使うから安心しなさい」
王都襲撃事件の時、泊まっていた宿屋でニコラさんが使っていた遮音魔法。
光属性があれば使えると言っていたけど、ユージリオさんも使えるみたいだ。
「秘密の話をする時に重宝するからね」
「我とユージリオの会話は、ほとんどが機密につながるからのう!」
……そんな話、聞きたくなかったかも。
「僕の前では変な話をしないでくださいね? うっかり漏らすかもしれませんから」
「当然じゃ。ジンは顔に出やすいし、ゴーダにもうっかり口にしておったからな」
「国に仕える者以外には話しませんよ」
そりゃそうだ。
そんなどうでもいい話をしていると、隅にいるカズチたちの方から膨大な光が溢れ出した。
浄化の工程に入ったようで、そろそろ錬成も終わるはずだ。
「……僕も、集中しておくかな」
王様とユージリオさんに断りを入れて、僕は精神集中に入った。
しばらくして――
「できたぞ、ジン」
「ありがとう、カズチ」
錬成を終えたアダマンタイトを手にし、僕は一つ頷くと土窯の中にゆっくりと置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます