久しぶりの王様は……
ラッフルさんに連れられて向かった先はユージリオさんの私室である。
まあ、王様を普通の応接間に案内するのは失礼に当たるか。
そうなると、少なくともユージリオさんは確実にいるので少しばかり安堵する。
――コンコン。
『――入りなさい』
「失礼いたします」
中からユージリオさんの声が聞こえるとラッフルさんがドアを開けてくれる。
「……し、失礼、します」
僕は緊張しながら中に入ると、そこにはユージリオさんと王様、それと王様の護衛だろうかオシド近衛隊長がいる。
……ん? どうしてオシド近衛隊長がいるんだ? お忍びでは?
「……オシド近衛隊長もグルですか?」
「わ、私ですか?」
「がははははっ! 王を前にして、先にオシドに声を掛けるか!」
あっ! やってしまったかも。
「も、申し訳ございません、王様! お久しぶりでございます!」
「よいよい。それと、そんなかしこまった態度も必要ないぞ。以前のように話すが良い!」
どうやら気にしてはいないらしい。助かった。
だけど、さすがに気安く話すのは気が引ける。あの時はゾラさんがいてくれたからできたけど、今回は僕ひとりなんだよね。
「構わないよ、コープス君」
「えぇ。ジン様は英雄なのですから」
だが、この場にいる全員が簡単に頷いてしまった。
この人たち、本当に王様の家臣なのだろうか。
とはいえ、全員が認めてくれたのならそうするしかないだろう。……これも王命だと思えばいいのだ。
「そ、それでは……お久しぶりです、王様」
「うむ、それでよい。それで、ガーレッドはどうしたのじゃ?」
「この時間ですから、もう寝てしまいました」
ガーレッドも連れてきたかったが、ベッドの横で丸まって寝てしまった。
この辺りは大きくなってもまだまだ子供なのかもしれないと思ってしまう。
「そうか、残念じゃのう。それにしても、本当に久しぶりじゃ。すぐに顔を合わせられると思っておったが、こんなにも年数が掛かってしまった。いったいカマドで何をしておったんじゃ?」
「何をって、普通に鍛冶や錬成をしながらお金を貯めていたんです」
「ふむ、確か今はカマドを離れてキャラバンとして都市を巡ろうとしていると聞いたが?」
「はい。キャラバンにはユージリオさんの三男で冒険者のユウキもいるので、最初の都市には打ってつけだと思いベルハウンドに来ました」
そこからは王都襲撃から今日までの事を話し始めた。
カマドに戻ってからの事、ユウキが霊獣と契約したその場にいた事、ラドワニとラトワカンへ冒険者として足を運んだ事、等などだ。
それ以外でも依頼を受けた鍛冶をこなしたりした事も話していると、ユージリオさんが僕が打った武器を持ってきてくれた。
「こちらが片刃の剣……刀、という物です。そしてこちらが鉄扇。私の無理難題にコープス君が応えてくれた逸品です」
「ほほう! これがそうか! 刀、と言うのはどうして片刃なのだ?」
「はい。殺すのではなく捕らえる場合、峰の部分で打ち据えて意識を奪うのが目的となります」
「ふむ。無意味なものではないという事か」
「さらに、こちらの刃の部分は素晴らしい切れ味を持っています。我が家で一番の逸品と言えるでしょう」
「それほどにか! ……して、そちらの鉄扇というのは?」
王様の意識は最初からそちらに向いていたのだろう。刀の説明を聞きながらも目線がチラチラと鉄扇に向いていたのだ。
「このように広げれば扇子となります。ちなみに、鉱石は外側の部分にだけ使われています」
「ほほう! という事は、王妃が暗殺者に襲われでもしたらそれで戦えるという事か?」
いやいや、王妃が戦うような場面とか想像したくないんだけど! ……ってか、戦えるのか?
「それもありますし、女性騎士を貴族に扮して侵入させる場面でも使えるでしょう。これも片側が刃、逆が峰となっているので、暗殺者を捕らえるにしても十分に使えるかと」
「なるほどな! であれば、我らも導入を検討するべきか?」
「そうですねぇ……ユージリオ魔導師長が言うように、女性騎士の潜入には打ってつけかと。見た目では普通の扇子ですしね」
オシド近衛隊長も顎髭を撫でながらまじまじと鉄扇を見つめている。
……これ、ゾラさんたちが作れるだろうか?
「あの、これは僕が思い付きで作ったので、ゾラさんたちは作れないと思いますよ?」
「なんと! それでは、これはジン様だけの作品という事なのですね!」
「それは私も聞いていなかったよ、コープス君」
「ほほう! であれば、ジンに直接依頼を出すとしようか!」
「いえいえ、僕はキャラバンで移動を繰り返すので、さすがに無理ですよ?」
「何を言っておるか! しばらくはここに滞在するのだろう? 間者の件も聞いておるからのう!」
……だったら早く解決してくださいよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます