光属性の剣
……うん、屋敷が騒然としている。
一番最初に庭へやって来たのはラッフルさんで、事情をカズチが説明すると、その後の対応は全てラッフルさんに任せられた。
なんだか申し訳ない気もするが、仕方がないのも確かだ。
それは何故か? ラッフルさんへの説明をカズチが行った事にも通じるものがある。
「「「……」」」
王様もユージリオさんもオシド近衛隊長も、僕の鍛冶に驚き過ぎて光を眺めながら呆気に取られていたからだ。
説明するにも何が起きたか分からず、カズチがラッフルさんに説明している声も聞こえていただろうけど耳には入っていなかっただろう。
……この反応も、なんだか久しぶりな気がするよ。カマドでは当たり前になっていたからなぁ。
「……ユ、ユージリオよ、鍛冶とはこのようなものなのか?」
「……いいえ、違うと思います」
「……オ、オシド?」
「……私も、見た事がありません」
「これは僕の鍛冶だけみたいです。ゾラさんの鍛冶でもこの光は出てきません」
「ジンは規格外だからな」
呆れた感じで最後に呟いたカズチに僕はジト目を向けるがどこ吹く風だ。
まあ、自分が規格外だという事は理解しているのですぐに三人へ向き直る。
「さて! ……剣を見てみましょう」
光がまだ残っている状況だが、ここで大事なのは光ではなく剣の出来栄えだ。
「……そ、それもそうじゃな」
「まあ、コープス君が規格外だという事は今に始まった事ではないし」
「そうですね。……ジン様の剣、とても楽しみにしております!」
最後はオシド近衛隊長が興奮したように口を開き、全員の目が光から桶の水へ向けられる。
僕としてもここは緊張の瞬間だ。
最近では慣れてきたものの、今回は王様への献上品として打っているものだし、ユージリオさんもオシド近衛隊長も期待してくれているので失敗は許されない。
「それじゃあ、出しますね」
ゆっくりと鋏を上げる。
水の中から剣が見えてくると、周囲から感嘆の声が漏れ聞こえてきた。
「……ほほう。これは、凄いのう」
「……鍛冶も凄かったが、出来上がった剣もまた凄い」
「……おぉ……おおっ! これが、アダマンタイトで打たれた、ジン様の剣なのですね!」
オ、オシド近衛隊長の興奮がさらに高まっている。
とはいえ、僕としても鍛冶が成功して一安心だ。
両刃の基本的なロングソードなのだが、刀身には剣先に近い部分に太陽の意匠を施し、鍔に向かうように光が差し込むようなデザインを施している。
鍔にも意匠を施しており、中央には磨き抜かれた銀の玉を模した形を作り、先の方にも小さな玉を模している。
柄の下部分にも同様の玉を模して形作っているのだが、これにももちろん理由がある。
「……ジン様、この意匠はもしかして?」
「オシド近衛隊長の予想通りです。カズチが錬成の時にやってくれたんですよ」
「やってくれたって、頑張ったって言って欲しいんだけど?」
「おぉぉっ! カズチ様、誠でございますか!」
「お、俺に……いや、私には普通にお話しください!」
「何を仰いますか! これは、意匠を見るに、光属性が付与された剣なのでございますね!」
オシド近衛隊長の言葉を受けて、王様とユージリオさんの視線が再び剣へと向く。
「……なるほど、これが太陽で光が差し込んでいるのか」
「……この玉が鍔と柄の太陽をイメージしているのか? むむむ、興味深いな」
「いや、あの、でも、そこまで深い意味はないですよ? 僕の中で光のイメージが太陽だったり、宝石を模した綺麗な玉だったり、そういったものだったので」
僕がそう口にしても、誰も説明を聞いていない。
まあ、どういう意図で作ったのかなんてどうでもいいだろう。光と同じで、出来上がった剣に意味があるのだから。
「それでは、これは王様へ献上するに値する剣という事で問題ないですか?」
「当然じゃ! むしろ、国宝にしてもいいくらいの出来じゃぞ!」
こ、国宝は言い過ぎでしょうに。
僕はその場で鞘までこしらえると、剣を納めて王様へと手渡す。
「……さて、オシドよ」
「はっ!」
「この剣を、お主に与えよう」
「……え?」
王様の言葉にオシド近衛隊長から珍しく驚きの声が漏れた。
それはオシド近衛隊長だけではなく、ユージリオさんからも、当然僕も驚いた。
だって、さっきまで国宝にしてもいいとか言っていたものをすぐに手放そうというのだから。
「ダ、ダメでございます、陛下!」
「剣も宝物庫で保管されるより、我を守る者に使ってもらった方がいいに決まっておろう」
「……本当に、よろしいのですか?」
王様からの言葉を受けてもいまだに信じられないという感じでオシド近衛隊長が呟く。
その呟きに対して王様は微笑みながら頷いた。
「……かしこまりました。光属性が付与されたアダマンタイトの剣、陛下の剣となり、盾となるよう、振るわせていただきます」
「うむ、励めよ」
「はっ!」
こうして、僕が打ったアダマンタイトの剣は、騎士の誉れと口にしていたオシド近衛隊長の手に渡ったのだった。
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