驚きの報告
翌日になると、朝食の席で驚きの報告がユージリオさんからもたらされた。
「バジェット商会の元商会長であるヤコブ・バジェットを殺したゼリングランドの間者、ロン・ロッゾが死んだ」
「……死んだ?」
捕らえたではなく死んだと聞いて僕は驚いてしまう。
「何があったんですか?」
「非常に不本意ではあるが、何者かに暗殺された可能性が高い」
「間者が暗殺されたんですか?」
「うむ。騎士団が発見した時にはすでに死体になっていたようだ」
詳しく話を聞くと、民からものすごい形相の男性が倒れているという通報を受けて衛兵が駆けつけ、身元を照合するとベルハウンドで届けだされていたロン・ロッゾという人物だと分かり騎士団に報告が上がったのだとか。
外傷はなく、騎士団では毒殺ではないかと話が噂されているらしい。
「現在は詳しい死因を調べているところだ」
「そうだったんですね」
「……父上。ジンが狙われる事は無くなったんですか?」
一番重要な部分をユウキが聞いてくれたのだが、ユージリオさんは渋い表情を浮かべている。
「正直、分からん。ロンが情報を何者かに伝えている可能性もある。そうなると、別の何ものかがコープス君を狙うかもしれない」
警戒すべき相手がロンだけだったのが、不確定の人数に変わってしまったのか。
しかし、そうなるとベルハウンドに残る理由が薄まってしまう。
今まではロンだけを警戒して捕まれば問題なかったが、今ではどれだけ警戒すればいいのか分からない状況だ。
むしろ、人通りの多いベルハウンドの方が危険かもしれない。
「誰が敵なのか分からない状況では、外に出ていた方がいいかもしれないな」
「……ですよねぇ」
ユージリオさんも同意見のようで、出発を渋られていたものの全く逆の状況になってしまった。
「僕はいつでも出発できる用意はできていたので、問題ないですよ」
「本当にすまないね、ジン君」
「あぁ。俺たちが不甲斐ないばかりに、ロンを殺されちまった」
「お二人のせいじゃないですから。むしろ、呆気なく殺されたロンが悪いですよ」
殺された相手を貶めるのはどうかと思うが……いや、殺されそうになったわけだし、別に良いか。
まあ、どちらにしても本当に二人のせいでも、騎士団のせいでもない。
「……お父様、一つ提案があるのですが」
「なんだ、リーネ?」
ずっと黙って話を聞いていたリーネさんが口を開いた。
「希望者がいればになりますが、どなたがを護衛としてジン様のキャラバンに同行させてみてはいかがでしょうか?」
「えっ! いや、それはさすがに申し訳ないですよ!」
王都を守護をしている国家騎士は人気のある職種だろうし、国家騎士になるにも多くの努力をしてきたはずだ。
それなのにどこの馬の骨とも知れない僕のキャラバンに同行するだなんて、今までの努力をどぶに捨てるようなものではないか。
「ふむ……ありかもしれないな」
「ダメですって、ユージリオさん! その人の将来が奪われちゃいますよ!」
「うふふ。ご安心ください、ジン様。あくまでも希望者がいればの話です。仰る通り、国家騎士は給金も良いですし将来を約束されたようなもの。それを捨てさせるような命令は出しませんよ」
「リーネの言う通りだ。私としても騎士の未来を奪うような事はしたくないし、そもそも命令を出せる立場にない。国家騎士団長のポーラ団長に話を持っていき、そこで手が上がればという話だよ。迷惑だったかな?」
「迷惑という事ではないんですけど……」
うーん、どうなんだろう。
立候補があればいいのかもしれないけど……いるんだろうか。
国家騎士という名誉な立場を捨ててまで同行する人なんていないと思うんだけどなぁ。
「……分かりました。それじゃあ、いた場合だけはお願いします」
「ん? その言い方は誰も手を上げないと思っているのかな?」
「それはそうですよ。国家騎士ですよ? 良い給金が貰えるんですよ? 手放す理由がないじゃないですか」
「……そうかなー?」
次に疑問の声をあげたのはシルクさんだ。
「私は昨日の模擬戦も見てたけど、手を上げる人の方が多いと思うけどなー」
「そうですか?」
「私もシルクに同意だな。それに……いや、これは黙っておこう」
「なんだ? 親父、何かあるのか?」
「僕も気になりますね」
「私も気になりますわ」
「私も気になるー!」
ユウキ以外の子供たちの視線がユージリオさんに集まるが、ニヤリと笑うだけで口にしない。……えっと、僕も気になるんだけど。
「というわけで、コープス君たちはもう少しだけ留まって欲しい。そこまで時間は掛からないだろうからね」
「分かりました」
……マジで誰も来ないと思うんだけどなぁ。
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