まさかの殺到

 朝食の後、カズチとルルとユウキと街をプラプラと散策し、お昼も外で済ませてから戻ってくる。

 ガーレッドとフルムは体も大きくなってきた事で、散歩に連れ出すのはあまりよろしくないと聞いて屋敷に置いてきている。

 王都では霊獣と契約している人も多く珍しいわけではないのだが、契約者が子供と分かれば悪いことを考える人は少なからずいるらしい。

 僕もユウキも自衛はできるので連れて歩いても問題はないと思うのだが、今回は自衛が難しいカズチとルルが一緒にいるので、無駄な問題を引き寄せないようにと置いてきたのだ。

 だが、二匹残れば一緒に遊ぶことができるので、庭に目を向けるととても楽しそうにじゃれ合っていた。


「ただいまー!」

「ビギャ!」

「ガウガウッ!」


 ただし、やはりと言うべきか、ガーレッドもフルムも主である僕やユウキと一緒にいる方が嬉しいようで、声を掛けると二匹とも飛び込んできた。

 ユウキはしっかりとフルムを受け止めていたのだが、僕はガーレッドに押し倒されて芝生に尻もちをついてしまう。

 だが、それで止まるガーレッドではなく、そのまま押し倒して顔をぺろぺろと舐めてきた。


「ちょっと、ガーレッド!」

「ビギャ! ビギャビギャー!」

「ストップ! ストーップ!」

「あはは! ジンとガーレッドは仲良しだね」

「ガウッ!」

「僕とフルムもそうだよね!」

「ガウガウーン!」


 ……ガーレッドも足元でスリスリするくらいで良いと思うんだ。僕は冒険者じゃないし、魔法を使わないと受け止められないからさ。


「おや? おかえりなさいませ。ユウキ様、ジン様」


 声を掛けてきたのはラッフルさんだ。


「先ほど戻りました、ラッフルさん」

「何かあったんですか?」


 僕は素直に帰って来たという報告をしたのだが、ユウキは何か用事があると察したようだ。


「はい、ユウキ様。本日の夕食の際に、ユージリオ様からご報告があるかと思いますが、朝食でのお話の件でございます」

「朝食って……国家騎士の方を護衛にってやつですよね?」

「そうでございます、ジン様。もの凄い人数が集まったようで、明日から選抜戦を行うようですよ」

「「……はい?」」


 もの凄い人数で、選抜戦まで行うって、どういう事ですか?

 驚きの声は僕だけではなくユウキからも漏れて来ていた。


「詳しいお話は夕食時にでもユージリオ様にお伺いされてください。では、失礼いたします」


 本当に報告だけだったようで、ラッフルさんは頭を下げてから歩いていってしまった。


「「……マジで?」」

「ビギャ?」

「ガウ?」


 俺とユウキは、ラッフルさんが去った後もしばらくは首を傾げる事しかできなかった。


 そして、夕食の時間となった。

 僕は食事が始まるのと同時にユージリオさんに問い掛ける。


「あの、ユージリオさん。騎士がたくさん集まったとか?」

「ラッフルから聞いたのかな?」

「はい。……どうして自らの地位を捨てるような真似までしてついて来たがるんですか? それに、実際はどれだけ集まったのかなって」


 そう、僕が気になっていたのはそこである。

 模擬戦を見て数名、もしかしたら参加した人くらいは手を上げるかなとは思っていたが、もの凄い人数ってのがどうも引っ掛かる。


「人数で言えば、そうだなぁ……騎士団の三分の二が手をあげた」

「……はあっ!? さ、三分の二ですか!!」

「あぁ。そして、その中にはポーラ騎士団長までいたな」

「はいっ!? どうしてポーラ騎士団長までが!!」

「そして、それに呼応してオレリア隊長も手をあげた」


 あ、そこは何となく理解できるので驚かないな。ポーラ騎士団長一筋だし。


「でも、それなら尚更そんなに集まったのが理解できませんよ!」

「それはだね……オシド近衛隊長が賜ったあの剣だよ」

「え? 剣って、僕が昨日打った剣ですか?」


 あの剣がどうして騎士の集まる理由になるんだろうか?


「まあ、打算がないわけではないだろうな」

「打算ですか?」

「あぁ。コープス君についていけば、自分も剣が手に入るのではと思っている者もいるという事だ」

「……あ、なるほどね」


 アダマンタイトを使った剣でなくとも、既存の剣よりは良い物が手に入ると考えている者も多いらしい。

 ユージリオさんによると、騎士団が使っている剣は私物もあるけれど、新人騎士やお金に余裕のない騎士は支給品を使っているのだとか。

 国家騎士が使うような剣であれば支給品でも上等な剣を使っているとは思うけど、それでも僕が打った剣が欲しいのかな。


「大量に購入する必要があるからね。一級品にギリギリ届かないくらいの剣だったはずだ」

「なるほど。それなら、僕が打った剣の方が質はいいかもしれませんね」


 ……あの一本ではなく、保管している大量の剣もだけど。


「そのせいもあって、大量の騎士が手をあげて……しまったんだ」


 あ、最後の一言が本音だな。

 まあ、騎士団の三分の二、その中に騎士団長や隊長が交ざっているとなれば、頭を抱えたくもなるよな。

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