暴露とジンの決断

 突然の暴露に二人とも唖然としているが、僕は気にすることなく話を続けた。


「スキル名は英雄の器。破格な効果を持つスキルみたいですけど、その中でも皆さんが驚いていたのがスキル効果十倍ですかね。ランク1のスキルでもランク10に近い能力を発揮できます。それと――」

「ちょちょちょ、ちょっと待って!」

「う、うむ、一つずつ確認させて!」


 アクアさんとポニエさんが慌てて声を上げた。


「えっと、新人君はオリジナルスキルを持ってるの?」

「はい」

「それで、スキル効果が十倍だと?」

「その通りです」

「「……何故鍛冶師に?」」


 そこに行き着きますか!


「だって、鍛冶、楽しいじゃないですか!」

「まあそうだけど、健全な少年ならもっと目指すべきところがあるんじゃないの?」

「うむ。英雄と言っているのだから、英雄を目指せばいいんじゃないか?」

「鍛冶の方が楽しいですよ? 戦ったりするの嫌いだし」

「おや、そうなんですか? 私はてっきり戦いも好きだと思っていましたが」

「嫌ですよ、あんなの。痛いし気持ち悪いしでやってられません」


 まさかホームズさんまでそんな風に思っていたなんて。

 まあケルベロスだったり悪魔だったりと戦っていたわけだから勘違いされても仕方ないのかもしれない。


「えっと、新人君は鍛冶スキルも持ってるの?」

「持ってないです。なので、今も習得を目指して日々励んでいるんです」

「鍛冶スキルを持ってないのに、鍛冶師を目指してるのか?」

「当然じゃないですか! 生産職に就くのが僕の夢なんですから!」


 この世界で鍛冶師にならなくて何になれというのか。僕の頭には何も浮かんでこないよ。

 頭を抱えたアクアさんに、大きな溜息をつくポニエさん。何も悪いことはしていないのに、何故だか悪い気持ちになってしまう。


「ホームズさん、新人君はバカなの?」

「バカとは失礼ですよ!」

「いや、誰がどう見てもバカと言われるよ」

「ポニエさんまで酷い!」

「まあ、コープスさんですから。お二人も慣れてください」

「何気にホームズさんが一番酷いからね!」


 僕の扱いがどんどんと悪くなっている気がするし、それが変に広がっているから余計にタチが悪いよ!


「と、とりあえず! そういうことですからゾラさんが守ってくれていたんです!」

「だけどさ、ホームズさんの言い方だと冒険者もしてるみたいだけど?」

「あー、あれは不可抗力です。僕の意思ではありません」

「何かあったのだね」


 ケルベロス事件は別として、悪魔事件は箝口令が敷かれている。

 噂は広がっているだろうけど、その真相まで知っている人は身内にしかおらず、そのことまで話していいのかどうか、僕の判断では分からなかった。

 そのことに気づいたのか、ホームズさんの口から真相については話された。


「コープスさんは、ケルベロス事件の功労者であるとともに、噂になっている悪魔事件でも活躍したんですよ」

「えっ? で、でも、あの事件はホームズさんとリューネちゃんが協力して倒したってなってるよね?」

「うむ、私もそのように聞いている」


 ……箝口令もあったもんじゃないね。悪魔が現れた、そのことが当たり前の事実のように話されている。


「あの場に私とリューネさんがいたのは事実です。そして、そこにはコープスさんといました」


 そこで当時の出来事について詳しい説明がなされた。

 ユウキとフローラさんの救出、ホームズさんが結界の外にいたこと、その間は僕がスキルの力を使って悪魔と戦っていたこと、そして最後には僕とホームズさんの二人で悪魔を討伐したことまで。

 実際はエジルが僕の体を借りて戦っていたのだが、ホームズさんは上手く説明できないと判断したのか、スキルの力で説明を簡略していた。


「……悪魔と戦ったなんて、結局冒険者みたいなことやってるじゃないの!」

「……何故その道に進まなかったのかが謎だね」


 それが二人の感想だった。

 確かに話を聞くだけでは冒険者が本業みたいに聞こえるけど、あくまでもこれはユウキがいたからであって、毎回こんなことをしているわけではない。

 僕の本業は鍛冶師であって、冒険者をやるつもりは全くないのだ。


「そこが抜粋されているからそう思われるだけですよ。それ以外は鍛冶の腕を成長させる為に日々努力してるんですからね!」

「まあ、それがコープスさんなんですよ。そして、悪魔を討伐した数日後に国家騎士がリューネさんを訪ねてきたんですよ」


 サラリと話を進めてしまうホームズさんを半眼で睨んでみる。

 ……特に反応もない。ホームズさんの僕の扱いが本当に酷くなっている気がする。ゾラさんとソニンさんがいなくて関わる時間が長くなったからだと思うけど、喜ぶべきか悲しむべきか悩むところだ。


「そこで口止めがなされて、さらには王都から箝口令が敷かれたというわけです」

「でも、ちょっと待ってよ。その言い方だとまるで……」

「うむ、王都が悪魔事件に関わっていると見えてしまうが……ま、まさか!」


 そこまできて二人もようやく事の重大さに気がついたようだ。

 今まではただオリジナルスキルを持つ少年の保護に重きを置いて聞いていたのかもしれない。王都がオリジナルスキル持ちを集めているという噂は流れていたからね。

 だが今は違う。王都が悪魔事件に関わっており、その悪魔がカマドの近くに現れた。そして討伐されたとなれば、カマドに何かがあると勘ぐられてもおかしくはない。


「これは推測ですが、ゾラ様とソニン様が捕らえられたのは――悪魔事件の本当の功労者を見つけ出すことにあるのではないでしょうか」


 静寂が部屋を包み込み、ゴクリと誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。

 しかし、ここまで話を聞いても二人からは手助けを断ると言う言葉は出てこなかった。


「私達じゃあここに残ってクランを助けることしかできないけど、ホームズさんは二人を助けに行くんだよね?」

「何ができるわけでもありませんが、王都に行けば何かしらの情報を得ることはできるでしょう。幾人かの冒険者を雇って、共に向かうつもりです」

「気をつけるんだよ。ホームズなら切り抜けられるだろうけど、一度引退しているんだからね」

「ありがとうございます。私の無謀がクラン存亡にも関わるかもしれませんから、事は慎重に運ぶつもりですよ」


 ここに至り、僕は決断した想いを口にすることにした。


「ホームズさん、僕も一緒に行きます」

「ピキャキャ!」


 ガーレッドも同意のようで嬉しいが、ホームズさんの表情を見るに、あまり嬉しい反応ではなさそうだ。

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