エジルの直感と危険信号
(――ここには、魔王がいる)
「……はい?」
エジルの言葉に僕は再び声を出してしまったが、今回はエジルと会話をしていると分かっているからか、誰も振り返る事はなかった。
それはそれで寂しい気もするが、とりあえず今は言葉の意味を説明してもらう必要がありそうなので置いておくとしよう。
(えっと、エジルさん? 魔王ってのは、どういう事かな?)
(――言葉通り、魔王だ。魔獣の王だな)
(……ちょっと待て、どうしてブリザードマウンテンに魔王が? そもそも、どうして今までずっと気づかれなかったんだ?)
もし魔王がずっとここにいたのなら、冬以外の季節で誰かしらが気づいてもいいように思える。
しかも、これだけの魔獣がいる場所だ。多くの冒険者が素材を売ってお金を稼ごうとやって来ていた可能性も高いだろう。
それなのに……それなのに、僕たちがきた時だけとか、あり得ないよね?
(――俺に聞かれても分からないよ。だって、ジンが初めて来たなら、俺も初めてって事だしね)
(まあ、それはそうだけど……エジルは生きていた頃、魔王と戦った事とかあるの?)
(――ある。一応、英雄って呼ばれていたしな。まあ、だからこそ分かるんだよ、魔王の気配ってのがな。直感みたいなものだけど)
うーん、魔王の気配かぁ。
直感って言われると信じていいのか怪しくなるけど、過去に相対した事のある相手であれば、エジルの実力からするとやっぱり分かるものなんだろうか。
「……ねえ、ユウキ、マギドさん」
僕はこの中で一番戦闘経験の多いだろう二人に声を掛けて、一度相対した事のある相手の気配が分かるのかどうかを聞いてみた。
「どうだろう。魔獣の気配なら分かるけど、それが戦った事のある相手なのかどうかってのは分からないかも」
「私は分かりますよ」
「そうなの?」
「はい。ただし、相手が異常なまでに強い気配を放っていた場合に限りです。騎士団長なんかがそうですね」
あー、うん、なるほど。あの騎士団長の気配なら、僕でも分かるかもしれない。
だが、実力者であればあるほど、相手の気配が分かるという事が判明した。
「ありがとう、二人とも」
僕は二人にお礼を告げると、再びエジルとの会話を再開させた。
(――何々、信じてなかったの?)
(いや、僕が分からないから経験のありそうな人に聞いてみただけだよ)
(――まあ、いいけどさ。……それで、どうするんだ、ジン?)
僅かにおどけた感じを残したまま話していたエジルだったが、最後の問い掛けに関してだけは真剣な口調で、おどけなど一切なく告げられた。
(……急にどうしたんだ?)
(――魔王ってのは、本当に危険な存在だ。正直なところ、足手まといがいる状況で戦えるような相手じゃないよ?)
足手まといって言うのは、恐らくカズチの事だろう。
ルルもそうかもしれないけど、彼女は魔導師として魔法を使う事ができる。
だけど、カズチは生粋の錬成師なので自衛手段というのが何一つとしてないのだ。
(――今、このメンバーで山を登るというのであれば、恐らく確実に魔王と相対する事になる。もし登る事を考えているなら、足手まといは置いていくべきだ。あと、実力が見合わない者もね)
僕の考えていた事が伝わったのだろう。今の言い方だと、ルルも含まれるはずだ。もしかするとフローラさんだって危ないかもしれない。
(今いるメンバーだと、誰が戦えそうかな?)
(――ユウキ、リューネ、マギドくらいかな)
あ、思った通りだった。
(回復役でフローラさんが一緒じゃダメかな?)
(――そうなると、真っ先に狙われちゃうよ?)
(あ、それはダメだわ)
しかし、そうなると前衛のメンバーが全員登る事になり、残るメンバーを守れる者がいなくなってしまう。
というか、誰かを置いて進むというのは考えたくないんだよなぁ。
そうなると、戻るという選択肢しか出てこない。
(――あー……言いたくないんだけど、たぶん逃げられないよ?)
(どうして?)
(――……ジンたちがブリセットに来た時点で、見られていたかも)
(……マジで?)
(――マジマジ。たぶん、今日戦った魔獣たちも本来ならいないはずの魔獣だと思う。魔王がジンたちを相手取るために配置したんだよ)
魔獣を配置とか、タワーディフェンスゲームみたいな話になってきたじゃないか。
しかし、今回で言うと配置する側が魔王で、俺たちが迎撃される側なんだよなぁ。できれば逆がよかったんだけどなぁ。
(……しかし、そうなると残すメンバーを守る人を置いておかないといけなくなるか)
(――そうだな。経験で言ったらマギドになるんじゃないか? 騎士としての立ち回りもできるだろうし、魔法攻撃ならルル、回復ならフローラがいるからな)
それに、マギドさんならユウキみたいに無属性だけではなく火属性と風属性の魔法も使う事ができる。
汎用性という部分で言えば、やっぱりマギドさんになっちゃうかな。
(分かった。この事をみんなに伝えてみるよ)
(――よろしくねー)
(……っていうかさ、エジル。お前、ブリセットにいた時点で気づいていたなら、先に教えておいてくれても良かったんじゃないのか?)
(――……)
(……もしかして、魔王と戦いたかったから黙っていた、とかじゃないだろうな?)
戦闘狂のエジルなのだから、可能性がないわけではない。念のために確認を取って見たのだが……。
(――……ごめんな!)
「やっぱりかよ!」
突然大きな声を出してしまい、今回に限っては全員がこちらを振り返っていたのだった。
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