魔王という存在
「……マジでどうしたんだ、ジン?」
「さっきから気になるよ、ジン君?」
カズチとルルが心配そうにこちらを見ている。
うーん、まあ、みんなに相談しないといけない内容だし、エジルの言葉をこのタイミングで伝えるのもありかな。
「ちょっと、みんなに相談があるんだ。エジルからの情報なんだけど――」
僕はブリザードマウンテンに魔王がいる事、今まで戦った魔獣も魔王が配置している事、このまま進むならカズチ、ルル、フローラさんを置いていかなければならない事、等など。
「……ま、魔王?」
「……それは本当ですか、ジン様?」
「さあ? エジルが言った事だから僕は分からないんだよねぇ」
「……あー、その話、本当かもよ?」
少しだけ疑っていたユウキとマギドさんとは異なり、リューネさんはやや顔を青ざめながらそう口にした。
「そんな、リューネ様まで」
「……もしかして、精霊が何かを感じ取っているんですか?」
「う、うん。この山には、私たちが今まで出会った事のない悪意の塊のような存在が、いるわ。精霊たちが、怯えているもの」
……そっかー。本当だったかー。
(――だから言っただろう?)
(いや、すぐに信じられるものじゃないからね?)
エジルが不服そうに口にしたものの、僕が正論で返すと黙ってしまった。
「……そっか。確かにそんな相手がいたら、俺は足手まといになっちゃうな」
「私だってそうだよ」
「悔しいですけど、エジル様がそう仰るなら、私も無理でしょうね」
「それとね、三人だけを置いていくわけにはいかないし、魔王と相対するなら誰かを護衛に残さないといけないんだ」
「そうだね。護衛が必要になるか」
「だったら私が残ろうか?」
「いいえ、リューネ様は貴重な精霊魔法の使い手です。残るなら、私でしょう」
名乗り出てくれたのはマギドさんだった。
「僕が残った方がいいんじゃないですか?」
「いいえ、ユウキ様にはフルムがいますから、魔王と相対するならばジン様と同行された方がいいでしょう」
「……あのー、ちょっといいかな、みんな?」
話が進んでいく中で、僕はおずおずと手をあげてから口を挟んだ。
「どうしたの、ジン?」
「いや、なんだか魔王と戦いに行くのが確定事項みたいに話が進んでいるんだけど、引き返すって選択肢はないのかなって」
「でも、逃げられないんだろう?」
「エジルはそう言っていたね」
「なら、引き返すって選択肢はないよね」
……なんだろう。この、全面的にエジルを信じているユウキの態度は。
まあ、ユウキはエジルの事を僕を除いて一番よく知っているから、それもあるのかもしれないなぁ。
「逃げる事ができないなら、迎え撃つしかない。いや、こっちから向かうしかないのか」
「だけど、どうにかなると思う? 実際の戦力はエジル、ユウキ、リューネさん、それにガーレッドとフルムだけだよ?」
「エジルはなんて言っているのかしら?」
確かに、エジルは魔王がいる、逃げられない、その事しか言ってはおらず、実際に相対した時に倒せるのかどうかまでは口にしていなかった。
「実際のところどうなんだ、エジル?」
僕は頭の中で語り掛けるのが面倒になってしまい、そのまま口に出して質問してみた。
(――はっきり言って、五割もないかな。でも、ジンのスキルがあれば五割に近づける事ができる、かも?)
「そんなメチャクチャなぁ」
(――当時も完全に倒すまではできなくて、追い払うだけだったからね)
エジルの言葉をそのまま伝えると、全員の表情が暗くなる。
そりゃそうだろう。まさか五割もない戦いを強いられる事になったんだから。
……しかも、僕のせいで。
「……みんな、ごめんね。僕のせいで」
「いや、別にそこは怒ってないよ?」
「……え?」
「だって、ジンが決めた事だしね。昨日も言っただろう?」
いや、命の危険が懸かった状況では無効なのではと思わなくもないが、誰も絶望的な表情をしてはいなかった。
……ならば、リーダーである僕が勝手に絶望しているのは間違いだよな。
「……分かった。それじゃあ、絶対に魔王をぶっ飛ばそう!」
「「「「「「おぉーっ!」」」」」」
「ビギャギャー!」
「アオオオオォォン!」
(――よーし、俺も頑張らないとな!)
魔王に見られているかもしれないが、魔獣を配置するなどしているという事はこの状況を楽しんでいる可能性が高い。
こっちのやる気が見られるなら、あっちから無理に何かを仕掛けてくるという事もないはずだ。
しっかりと準備をした上で、魔王と戦ってやろうじゃないか!
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