カズチたちの覚悟

 軽い休憩のはずだったが、僕たちは対魔王戦に備えてしっかりと休むことにした。

 ゼッドさんの弁当を食べて、装備の点検を行い、エジルから魔王に関する情報をできるだけ聞いていく。

 しかし、エジル曰く魔王とはその時、その時で姿形を変えて現れるものらしく、過去の魔王の情報が今の魔王にどれだけ類似するのかは未知数なのだとか。

 とはいえ、全く情報がないよりかはマシだろうという判断となり、今に至っている。


「でかくて?」

「角が生えていて?」

「真っ黒だった?」

(――まあ、そういう反応になるよねー)


 エジルの言葉を伝えていくと、ユウキ、リューネさん、マギドさんがそれぞれ疑問系で呟いていく。


「ぼ、僕が知っている話の中での魔王は、真っ赤に燃える獅子に似た姿だったよ?」

「私も同じです、ユウキ様」

「私はそっちの魔王も聞いたことがあるけど、他にも漆黒のドラゴンって姿もあるって聞いたわね」

(――おっ! さすがは長生きの種族だなー)


 リューネさんの言葉にエジルが反応を示しているが、ここで年齢の話は止めておこう。変な空気になるのは目に見えてるし。


「そうなると、今の魔王はその二つとは違う可能性が高そうかな? 全く同じとか、似た姿の魔王が生まれる可能性って低そうだし」

「他に考えられる姿ってどんなものがあるかな?」


 僕の言葉にユウキが追従する。


「熊」

「蜘蛛」

「大蛇」


 マギドさん、リューネさん、ユウキと意見が出てくるが、どれもパッとしない気がする。

 僕的には人間と似たような姿の魔王ってのも結構定番だった気がするんだけど、三人の口からは全く出てこない。

 前に戦った悪魔なんかも人型だったんだけどなぁ。


「僕たちみたいな人型って可能性はないのかな?」

「「「……人型?」」」


 あれ? なんでそんなに疑問系なんだろう。


「ユウキとリューネさんは僕がカマドに来てからちょっとして、悪魔と戦いましたよね? フローラさんも目撃してますし」

「……確かにそうだね」

「……うーん、でも人型かー」

「何かマズいんですか?」


 ユウキもリューネさんもなんというか、歯切れが悪い。

 その理由を答えてくれたのはマギドさんだった。


「人型の魔獣というのは、多くの場合で人間の女性を拐い、辱しめた挙げ句に殺す事で知られている。中には種を残して生きたまま腹が裂けていく、なんて非道を犯す魔獣もいるくらいなんだ」

「何それ、めっちゃ怖いんだけど。ゴブリンとかオークとか?」

「その辺りです。特に上位種になるほどにそういった傾向が強くなるため、人型の魔獣というのは特に敬遠されてしまうのです」


 ……となると、魔獣の頂点とも言える魔王が人型だった場合、考えられる最悪のシナリオが、もしくは僕たちには想像もつかないくらい悲惨な事が起きる可能性だってあるわけか。


「……最悪ですね」

「ですが、その最悪を想定しておくのも大事かもしれません」

「分かりました。もし人型の魔王だった場合は、何がなんでもこの場で仕留める覚悟を持って挑みましょう」

「……なあ、ジン?」


 ここまでずっと黙って話を聞いていたカズチが突然口を開いた。

 その後ろにはルルやフローラさんもいて、何やら覚悟を決めたような表情をしている。


「どうしたの?」

「……俺たちは三人だけでここに残るから、マギドさんも連れていってくれ」

「いや、ダメだよ。三人の安全が確保されないなら、僕たちも出発はしない」

「なんでだ? 今言ってたじゃないか、何がなんでもこの場で仕留める覚悟を持つって」

「それはそれ、これはこれだよ。僕にとって一番守らなきゃならないのは、この場にいるみんなだからね」


 魔王を倒す、その覚悟を持つつもりではいるけど、目の前の三人を守れないのならそんな覚悟なんて捨て去ってやる。


「ダメだよ! ジン君、少しでも勝てる可能性を持っていくべきだよ!」

「私も同感です。それに、私だって冒険者です。私がお二人を守ってみせます!」

「それに、こっちにはジンが無駄に作った色々な魔法具もあるんだし、なんとかなるって」


 無駄にってのは酷い気もするけど、確かに魔法具は大量に作ってある。

 実際にカズチやルル、回復担当のフローラさんにもいくつか渡している。


「だとしても、確実に三人を守りきるにはマギドさんを残して置くことが大事なんだ」


 僕が少し語気を強くして口にしたのだが、三人はさらに強めの口調でこう口にした。


「俺たちだって、お前のキャラバンに参加するって決めた時からいつかはこういう日が来る事は覚悟しているんだよ!」

「そうだよ! 足手まといになっちゃったけど、足を引っ張るつもりはないからね!」

「ご安心ください! 皆様が戻ってくるまで、絶対に生き残ってみせますから!」

「……カズチ、ルル、フローラさん」


 三人の覚悟を受けて、僕はユウキたちへ振り返る。

 三人と目が合うと、まるで息を合わせたかのように同時に強く頷いた。


「分かったよ、三人とも。それじゃあ、他にも色々と魔法具を置いていくから、危ないと思ったら迷わず使ってよね」

「使い方は?」

「全部に付箋を貼ってあるから読んでもらえば大丈夫だと思う」

「任せて!」

「ありがとうございます、ジン様!」


 予定とは変わったしまったが、三人がこうも強い思いを持っていたなんて知らなかった。

 リーダーとしては失格だけど、しっかり生き残って、やり直せるようにしなきゃだな!

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