現れたのは、ダンジョン!

 カズチたちの覚悟を無駄にしないためにも、僕たちは魔王に勝たなければならない。

 すでに休憩をしていた洞窟からは出発しており、猛吹雪の中を四人と二匹で進んでいる。

 休憩前の魔獣の群れはどこへ行ったのか、今は吹雪く風の音以外は静かな山になっていた。


「これ、魔王が僕たちを誘っていると見ていいのかな?」

(――だろうな。魔王にも色々いるが、今回の魔王は娯楽に飢えた魔王なのかもしれない)

「娯楽に飢えた? それって、この状況を魔王が楽しんでいるって事か?」

(――そういう事だ)

「……悪趣味だなぁ」


 魔王という存在自体が悪なのは間違いない。だが、そこに悪趣味が加われば、それこそ大魔王とか言われそうなものだ。

 まあ、直接本人に聞いたわけではないので分からないけど、今のところの印象は最悪でしかない。

 最悪の場合、雪崩を発生させてでも魔王に特大の魔法をぶつけてやろうかな。


「あまり一人で抱え込まないでしょね、ジンくーん」

「そうだよ、ジン。僕たちもいるんだから、少しは気持ちを楽にしなよ」

「まだまだ未熟ですが、私も助力いたしますので」


 僕が考え込んでいると、リューネさん、ユウキ、マギドさんが声を掛けてくれた。


「ビキャキャー!」

「ガウガウッ!」


 そして、ガーレッドが優しく頬を舐めてくれ、フルムが体を擦りつけてくる。

 ……僕、慰められてるなぁ。


(――愛されているの間違いだろう?)

(……恥ずかしいから、口には出せないよ)


 エジルが茶化してくると、僕は彼にだけ返事をする。

 だが、みんなからの慰めにより僕の心は少しだけ落ち着いた。

 ここまで来たら吹っ切らなければならない。僕の選択を支持してくれたのだから、みんなの選択も同じなのだと。

 そして、選択したからには迷うことなくただ真っすぐに目的を成し遂げるだけだ。


「ビギャ、ビギャギャー!」

「え? そろそろ山頂だって?」


 猛吹雪のせいで高く飛ぶ事はできないが、それでも誰よりも高い場所から周囲の警戒を行っていたガーレッドから報告が入る。

 洞窟からここまで、本当に魔獣との遭遇がなかった。

 全ての魔獣が洞窟に向かっているかもしれないという不安はあったが、多種多様な魔法具を置いてきているのできっと大丈夫だ。

 そのまま山頂に到着した僕たちだったが、そこで不思議な光景を目の当たりにしてしまう。


「……山頂に、洞窟?」


 ブリザードマウンテンの山頂、ゼッドさんの情報によるとここには展望台があるはずだ。

 確かに展望台はあるものの、その横にぽっかりと口を開けた洞窟が存在していた。

 洞窟の話はゼッドさんから聞いておらず、これも魔王の仕業かもしれないと僕たちは警戒を強めた。


「……エジル、分かる?」

(――……これは、ダンジョンだな。しかも、魔王お手製の)

「……魔王お手製のダンジョンだって?」


 エジルの言葉をそのまま繰り返すと、三人の表情には一気に緊張が走った。

 だが、僕の感情はというと緊張とは程遠いものだった。


「……ダ、ダダダダ、ダンジョン! おぉぉ、なんだか久しぶりにファンタジーって感じだなあっ!」


 魔王もそうだったけど、やっぱりファンタジーの醍醐味と言えばダンジョンだよな!

 一攫千金、金銀財宝が眠っているだろうダンジョン! それは、男のロマン!

 ……いやまあ、すでに生活に困ることのないだけのお金を稼いではいるけれども、やっぱり実際にダンジョンを目にしちゃうと興奮するよな、うん!


「……ジン、どうしたの?」

「……ジン君が壊れたわね」

「……ジン様、大丈夫ですか?」


 三人からは若干引いた目で見られている気もするけど、そんな事はどうだっていいのだ。だって、ダンジョンだもの!


「みんな、すぐに行こう! 最下層には何があるのか、とっても楽しみだね!」

(――ちょっと待て、ジン! 魔王のダンジョンだぞ? 難易度は今までのダンジョンとは比べ物にならない程に凶悪なはずだ! そんな気持ちでは死ぬぞ!)

「大丈夫! 最大限に警戒しながら、楽しんで攻略するから!」

(――楽しむな! 本気で挑め!)


 傍目には独り言のように聞こえているだろうけど、三人はなんとなくエジルが怒鳴っていると伝わっているようだ。


「エジル様、大変そうだなぁ」

「こうなったジン君の相手だもの、私は絶対に嫌だわ」

「同情いたします、エジル様」

(――同情するんじゃなくて、こいつを止めるのに協力しろおおおおぉぉっ!)


 悲しきかな、エジルの叫びが三人に聞こえる事はなく、僕はただ興奮しながらダンジョンに足を踏み入れたのだった。

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